第114話 麦芽糖作り
今日は麦芽糖を作るための材料探しだ。
一番いいのは米+大麦麦芽なんだけど、サツマイモ+大麦麦芽でもいいな。小麦粉で作ってもいい訳だし、手に入りやすいものがいい。
とはいえ麦芽なんて売ってないだろうから、大麦を発芽させて作るしかない。ただやったことがないから多少試行錯誤しないとダメだろう。ということで素材採集は休んで、1人で市場に来ている。
ゲオルグに今日何をするのか聞かれて市場で売れるものを探すって言ったら、素材採集の方が金になるんじゃないかって真顔で言われてしまった。
正確に何をするかは言っていないんだけど、カノンが飢えているように甘みが好きな人は多いはず。だから蜂蜜や果物に人気があるのだし。
俺は確実に売れると、にやつきながら市場に行った。
まず最初の躓きは米がなかった。これは想定していたことだ。
だがもっと大きな問題、麦芽を発芽させるための大麦も市場に売ってなかったのだ。というか穀類を扱っている店が市に出ていなかった。もしかしたら収穫シーズンだと売っているだろうけれど、今は初夏でシーズンオフなのだろう。市場よりも商業ギルドに相談した方がいいのかもしれない。ただそれは今回の実験がすんでからにしたい。
それで主原料は小麦粉とジャガイモで作ることに決めた。あと麦芽の代わりに大根っぽい蕪を買ってみた。この中にアミラーゼが含まれているはずだからきっとうまくいくだろう。
とうとう麦芽糖作りだ。
最初にするのは、小麦粉とジャガイモからでんぷんを取ることだ。
まず小麦粉、その中でも強力粉を使う。薄力粉でもできるけど、せっかくだからグルテンを麩として食べたい。
強力粉に水を加えてこねて、水の中で何度か洗ってでんぷんを落とす。この水は捨ててはいけない。洗って濁った水をためてしばらく置いておくと下に白い沈殿ができる。これがでんぷんだ。水を捨てて何回か晒して、余分な不純物を取り除く。
ついでにグルテンに少量の強力粉を加えてこねて、もちもちの生麩も出来た。今回はこれをゆでてから焼き目をつけて麦芽糖をかけて食べようと思う。ああ醤油があればみたらし風になったのになぁ。
もう一つのジャガイモ。これは小麦アレルギーの人向けだ。まず皮をむいてすりおろす。おろし金なんてないから、鍛冶屋で銅の板に刃立てをしてもらってある。この注文が大変だった。
頼んだ鍛冶屋はドワーフの爺さんのところだったんだけど、作るのが調理器具というとへそを曲げてやらないって言いだしたんだ。俺は冒険者ギルドマスターの紹介状を持って行ったのにだぜ?
「勇者の剣が打てると聞いて、注文を受けたんだ。俺をバカにするのもいい加減にしてくれ!」
どうやら職人魂を傷つけてしまったようだ。
この時の俺はカイブライト王国から渡された聖剣を使っていたから、自分の剣が欲しいとは思っていた。でもできれば俺の魔力で変化する魔剣が欲しい。どんな魔剣を作るのかはとても聞ける様子じゃなかった。うーんおろし金のためにサブの剣を持ってもいいかな。
「剣も打って欲しいけど、このおろし金もとても重要なんだ。両方作って欲しいってのはダメか?」
「ダメに決まっとるわ!」
結局は酒の飲み比べ(酒代は俺持ち)をした上、おろし金は弟子の中でも見習いにやってもらうということで話が付いた。まぁこっちは状態異常無効でズルして勝ったので文句はない。でもちょっとだけ俺もほろ酔いになるように調整しておいたぞ。酒は楽しむものだから、俺だけ素面じゃ面白くないじゃん。まだ20歳になってないとか言わないでくれよ。郷に入っては郷に従えで異世界では15歳が成人だし、水の代わりに薄いエールやワインを飲むのが当たり前なんだから。
そうして作ってもらったのが円形のおろし器だ。イメージはフードプロセッサーである。銅のままだと金属臭が食材についてしまうので、今回は魔力でコーティングする。なんか高くついた気がするけど、今まで報酬はほとんど楽しみに使ってなかったからな。たまの贅沢もいいだろう。外側の容器もついでに作ってもらって、モーターの代わりに風魔法で回転させた。あっという間にすりおろせるところが素晴らしい。
すりおろしたジャガイモは目の細かい麻布に包んで水の中で軽く揉んで、でんぷんを洗い出す。これも小麦粉の時と同じく、何度も水を変えて取り出すのだ。
次にしたのは大根っぽい蕪をすりおろすことだ。これもおろし金と風魔法で一発である。この大根ならぬ蕪おろしも麻布に包んで汁をしっかり絞る。このカスは使わないけれど、乾燥させて宿の馬の飼料にでも混ぜ込んでおこう。
一番いい蕪を探したかったので、3種類ほど買って来てある。1つ目は見た目大根そっくりだけど黄色いヤツ。2つ目は紫色の小さくて丸いヤツ。3つ目は白くてまん丸で俺の頭くらいある蕪だ。聖護院かぶらみたいだな。なんか千枚漬けが食べたくなった。
あとは鍋にでんぷんと水を足して、焦がさないようにゆっくりとかき混ぜて糊状になったら火からおろす。粗熱が取れたら三等分して、3種類の蕪の汁を混ぜる。手早く均一になるように混ぜるとサラサラになってくる。蕪の中のアミラーゼが働き始めたのだ。
それを一晩寝かせて見てみると、蕪の色に関わらず全部透明になっていた。なぜなのかはわからん。それからあく取りしながら過熱するとどれもきれいなあめ色になって粘り気が出たので出来上がりだ。
さて実食である。すでにゲオルグとカリンだけを宿に呼び出してある。
「これが私に内緒で作っていたものか。カリン殿はどうかかわっているんだ?」
「実は彼女に甘いものを探していると言われていてな。それで異世界の方法で作ってみることにしたんだ」
「ユーダイ様、作ってくださって本当に嬉しいですわ。ものすごく楽しみです」
ゲオルグの前だから、急に令嬢モードになっているのが笑える。でも本当に楽しみにしていたようだ。
「いろんな種類の水あめを作ってみたんだ。見た目は似ているけどそれぞれ種類が違うから、どれが美味しいか試して欲しい」
「あら? ユーダイ様はお試しになっていませんの?」
「せっかくの試食なので、できれば一緒に食べたかったんですよ」
食べてみた結果はなんと一番おいしく出食たのは紫色の蕪で、次は大きくて白い蕪、なぜかオレンジのは甘いけど苦みも強い。小麦粉とジャガイモではゲオルグは前者、カリンが後者を好んだ。元の食材のくせが少し出るからな。だから一番マイルドな米が良かったんだ。
「何にもなかったらオレンジのでもいいと思うけど、他のが美味しいからやっぱりダメです」
「そうだな。でもユーダイ、これはすごいよ。蜂蜜以外でこんなに甘いものは食べたことがない。しかもしつこくなく旨いよ」
「せっかくだから、お麩で団子も作ったから掛けて食べるか?」
「「食べる!」」
ゲオルグは初めての団子だったみたいでその弾力に驚いていたが、カリンは涙を流して喜んでいた。本物の団子とは比べ物にならないと思うが、あのもちもち感が久しぶりで懐かしかったんだろう。
「この水あめ、売れるか?」
「絶対に売れますし、買います!」
「私もこれなら少し食べたいな」
こうして俺の異世界での初めてのお菓子作りが始まったのだった。
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