第112話 智の都
俺たちがルーベルト公国に入ってそろそろ3週間になる。ここはサオン帝国のルーベルト大公が治める都市国家で『智の都』と呼ばれている。賢人たちが研究のためにこぞって集まるところだ。何でも何代か前に本と魔道具と標本の収集に狂った大公がいたらしい。こういう権力者って時々いるよな。元の世界でも神聖ローマ帝国のルドルフ2世とかスペイン王フェリペ2世とか。これが博物館の元になったものだ。
話を戻すけどとにかく権力者の収集欲はすさまじく、国家予算のほとんどを収集に費やしてしまった。当然財政難に陥るのだが次代の大公はそれらを売り払わず、研究者たちを集めて売れるものを作らせてそれをしのいだのだ。 今でも国の資源で新開発してお金を稼ぐのが主流で、それで研究費が国から支給されるのでみんなしのぎを削っている。
そんなわけで今でも古今東西の知識と人材が集まる、ユニークな国になったのだ。
こここそ魔法の研究が好きなゲオルグにうってつけの場所だと思ったし、彼も気に入った様子だった。それに俺たちは戦闘能力が高いので、研究のためも素材採取を受けることも多かった。
冒険者ギルドに行くと、何かしらの依頼が入っている。
「Aランクのユーダイ様、スコット教授からもう少しシャドウフィッシュが欲しいと指名依頼が入っております」
「えっー! またかよ。あの魚、ダンジョンにリポップするのに時間がかかるんだよ。前に乱獲しちまったから今から探すのは手間なんだ、1週間後でないと受けられないと言ってくれ」
シャドウフィッシュと言うのはその名の通り『影の魚』で、この国にある唯一のダンジョンで獲れる岩や水藻の影に潜む小魚だ。グッピーみたいなサイズだな。それを粉にして服用すると一時的に影に潜んで姿が隠せるのだ。スコット教授はこれを目立たせたくない魔道具の塗装に利用して、美観を損なわない魔道具にしたいと思っているらしい。
ただ教授は悪い人ではないんだけど彼のようにいい方向で使う人よりも、悪事に活用できそうなので注意が必要だ。だいたい美観を損ねても置かないといけない何かって、きっと警備とか防御とかそういうののことだろ。自分が姿を隠す用に使わないなら、その塗装をしている魔道具を潰して行けば、悪いヤツの侵入が楽になるとか思わないのかね。
とまぁこんな感じで指名依頼が来るので生活は楽である。ヒトの往来も多いので情報も集まりやすい。
どうやらカイブライト王国では俺を指名手配にしたそうな。
なんでもせっかく呼んでやったのに、報告義務を行ったとかなんとか……。新女王となったテレジアは求心力に欠けていて婿入りした夫の派閥と、旧来からの父親についてきた派閥に挟まれて調整するだけで手がいっぱいらしい。国力が下がっているので、このルーベルト公国との国交もない。しかも俺は国の研究に寄与する素材採集をしてくれる有益な冒険者だ。
よって俺は捕縛されることもなく、自由に動いていた。
それでゲオルグはというと俺と一緒に討伐に行くこともあるが、基本的にネリウス教授の研究室で魔法陣の研究に励んでいる。例の俺を召喚した魔法陣の省魔力化に励んでいたのは彼で、従来より半分にしたのだがそれでも100人の魔法士の魔力が必要だった。それでもっと効率よく抑える方法はないかと研究しているのだ。
魔法陣の省魔力化は俺にとっても有益な情報なので、俺も彼の後援者の1人になっている。
「ようゲオルグ。ここの研究室もそろそろ慣れたか?」
「うーん、まぁ皆さんいい方ばかりだからね。ご自分の研究に没頭し過ぎてたまに倒れるから、なぜか私が世話をする羽目になっているよ」
「ああ因果は巡るからね。お前だって国ではそう言う立場だったんだろ?
エリザが昔話をするときにカイルの話しかしないからゲオルグはどうだったか聞いたら、「彼はいてもいないも同然だったわ」って言ってたぜ」
「そうなんだ、殿下の遊びに付き合う気がなくて、本ばかり読んでいたよ。あの頃は王宮の本が読めることだけが唯一のいいことだと思っていたからね。それに私の役割は遊び相手ではなく、あの方の魔力暴走を止める役目だったしね」
王宮はともかく、家での研究は婚約者だったレリアーヌ嬢が止めていたんだろう。彼女は世話女房タイプの女性で、自分も研究するから気持ちを汲んでくれつつ、優しく人間らしい生活にさせていたに違いない。
彼の家族もいい人たちでゲオルグの好きなことをさせてあげつつも、伯爵家嫡男としてうまく導いていたみたいだし、とても幸せな子ども~青春時代を送っていたのだ。
その幸福を奪ったのが勇者召喚だ。
各国持ち回りで100年ごとに異世界から勇者を呼び、魔族と戦わせるのだ。
そしてその呼び出しの魔法陣の魔力供給源として、レリアーヌ嬢は死んだ。
俺はこの不愉快な習慣を止めさせたい。
なぜなら100年前の悪魔の侵攻時も異世界の勇者たちが倒していたけれど、本来対応できる神族は存在した。ただ見出されず政略結婚の駒として殺されていたのだ。
もし勇者を呼ぶ習慣がなければ、自国に勇者はいないかみんな探したと思う。もっと自分の世界を信じるべきなのに、異世界から誘拐してお茶を濁すなんて許せるものではない。
それならば誘拐された俺も、愛する人を失ったゲオルグも、こんなに苦しまずに済んだ。討伐の旅に出ていなければあの騎士団長のおっさんもあんな死に方をせずに済んだと思う。嫌いなヤツだからって死んでいいとまでは思ってなかったからな。
カイブライト王国だってもうすこしマシ……いやあそこは王族が腐ってたからダメか。
だから俺はゲオルグにここにとどまってもらって、神を探す。その手掛かりが欲しくて、この『智の都』に足を運んだのだ。
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