第111話 次の行先
エリザと別れて最初にしたこと、それはゲオルグとよく話すことだった。
「ゲオルグ、お前の好きなモノ10あげろよ」
「好きなモノ? ああ、やりたいことを見つけるためか?」
「まぁな。俺はこれから割と行き当たりばったりな旅になると思う。基本的には神族とやらを探すことかな。だからお前の希望を聞こうと思ってさ」
「ならサクリードが良かったんじゃないか?」
「アグネス皇女を捨ててしまうような国だぞ? 情報はあるかもしれないけど、皇族が管理しているはずだ。ヤツらに隷属してまで欲しているわけじゃない」
「確かに改宗は人生における大事だけど。隷属とは大げさだな。
エリザベート妃殿下はこちらの教会から破門になるでしょうし」
「カイルの失恋はそれだけ大きかったってことさ。それまではテレジアの苛めも父王の無視も我慢で来ていたんだから」
「ああ、それならわかる。私もレリアーヌのためなら何でもすると思っていたから」
「カイブライト王国はみんな結構な恋愛脳だよな。エリザはそれで聖女にまで登りつめるし、ゲオルグも国を捨てている。カイルも初恋相手と結婚できた途端、テレジアに従順だ」
「君の世界では違うのか? 愛する人が居なければ何もないじゃないか」
確かに愛するヒトと出会えるのは奇跡だ。でも恋愛だけで生きてはいけない。
「同じだけど少し違うかな。俺たちの世界はすごく忙しいんだよ。仕事が、だけじゃない。情報量が多いんだ。だから1つの恋愛に固執しないことが多い。
例えば今俺たちが情報を得ようとするにはどうする?」
「自分で調べるか、誰かに調べさせる」
「そうだな。それは現地に行ったり、本で調べたりが基本だよな。後は口コミ……他のヒトが言っている噂話とかな」
「うむ、他に何かあるのか?」
「俺たちの世界では、個人が個々に好きに情報を発信する権利を持っていたんだ。1つ1つはたいして重要そうでないこと、例えば今日の天気、朝食のメニュー、今日着た服の種類、どこに出かけた、誰と会ったなどの、その個人以外には割とどうでもいいことをだ。それは膨大な量だったよ」
「そんなものを発信してどうするんだ?」
「だがその発信した中に、すごくセンスが良くてマネしたくなるような美しい着こなしの女性がいたら? 今社交界の華たちが作っている流行をそういう発信で作っていけるんだよ。もちろんそのスパンはとても短い。ワッッと盛り上がってあっという間にしぼんでしまう。でも中には皆の心に残って、長く愛されるものも出てくる。これまでは細々と情報を受け取る側でしかなかった者が発信する側に、いや成功する側に回るんだよ」
「そんなにうまくいくものなのか?」
「ああ世界は熱狂した。もちろんいい面だけでなく悪い面の方も進化した。誹謗中傷、でっちあげ、匿名による個人の吊るし上げなど、恐るべき部分も増えた。偽情報がどうかを精査する目も必要になっている。
だが自分一人で悩んでいたことが多くの人も同じ悩みを持っていて、みんなで話し合って解決の道を探すなどの自浄効果なども生まれていたし、一長一短だね」
「確かに私たち貴族は悩みを誰かに打ち明けるようなことはできない。教会がそれを担ってはいるが、聖職者によっては告解の相手を脅してくることがあるからな」
「教会の腐敗ってヤツだな」
「ふぅむ、なかなか面白そうな世界だな」
「その中に例えば簡単な作りの魔道具の作り方を教える、みたいなことが起きる。まぁ俺のいた世界はほとんど魔法が使われていなかったから、正確には魔道具ではなかったけどな」
「それは作った者の権利を侵害しているのでは?」
「著作権というものがあってそれを申請するとある一定期間はその権利が認められるが、期間を過ぎると誰もが自由に作れるんだ。そうした期限切れの情報を公開している。
情報の公開でよくあるものの中に、料理のレシピがある。特殊な情報ではない、自分の好みの味をどうやって出しているのかを公開するんだ。ものによっては多くの人の心を捉え、その発信者を人気者に押し上げ、書籍の出版や講演の依頼などが舞い込む」
「先ほどの成功するって、そういうことか」
俺は頷いた。
「もちろんそれは何千万、何億とある情報の中の稀なケースだ。でも小さな成功ぐらいなら、それなりの努力で手にすることができる。こちらの情報が閉じられた世界では考えられないことだ」
「億だと? それはこの世界の人間の数ぐらいになるんじゃないか?」
「その数すらここでは正確にわからない。お前は自国の人数でそう思っただけだよね? でも世界にどのくらいの国がいて人口があるか知らないだろ」
「その通りだ。周辺国家の数と未知の国を想定して適当に述べた数だ」
「俺が言いたいのは、ものすごく高尚なことだけがみんなの知りたいことではないということだ。料理上手のおかみさんの美味しい料理のレシピを、料理下手な女性や一人暮らしの男が知りたいと思ってもおかしくないだろう? その中で自分のこれはと思うものを見つけられたら店を出してもいいし、友達に振舞ってもいい」
「ああ、つまり情報があればやりたいことが見つかるって話なのか」
「That is right.」
「それは?」
「その通りってことさ」
それでゲオルグの好きなモノをあげさせると魔法、魔道具、薬草、鉱物、書籍、静かな所、おいしい食べ物、ふかふかのベッド、遠駆け、夕日をあげた。
「ふむ、思った通り魔法研究関連が多いな。後は住環境を重視か。婚約者と遠駆けで夕日でも見に行ったか?」
「レリが室内にいてばかりはダメだからと時々引っ張り出されて、夕日を見に行っていた」
「とても良い方だったんだな」
「ああ」
多少の美化はあるかもしれないが、彼女がゲオルグを思って親身になっていたのは間違いない。多少の打算はあったかもしれないが、これを愛と言わずに何というのだろう。
「それじゃあさ、魔法の研究が出来る国を目指すか。そこで研究してもいいし、ヒトが集まるところには情報も集まるしな」
そうやって次の行先が決まったのだった。
お読みいただきありがとうございます。




