第110話 回避できたルート
アグネス殿下の装身具が売れて、俺たちは最後のパーティーの会合をすることになった。皇宮の1室で部屋の外には騎士が付いているが、俺とゲオルグがエリザの貞操を守る契約を結んでいるので侍女の立ち合いはなしでいいと許可をくれた。
「ユーダイは本当に装身具分の報酬はいらないのね」
「ああ、『神の石』の方が高価だぜ。でも悪いけどこれは俺が貰う」
「売ってくれたらリュート殿下のお役に立つでしょうけれど。でもまさかアンタがわたくしのためにあんなこと言うなんて思っていなかったわ」
「そうか? 俺は必要なことを話しただけだ」
「私も驚いた。君が愛について語ったんだから」
「愛って言っても、俺のエリザへの気持ちは親愛だけどな。人間関係において一番大切なものだと思うぜ。誰かのためを思うってそれはもはや『祈り』だろ」
「そうだな」
「とにかくありがとう、わたくしはわたくしなりに幸せになるわ」
「どういたしまして。それから婚約おめでとう」
「おめでとうございます、殿下」
「わたくしも助かったと思っているの。1人でお姉さまの戴冠式に出るのは恐怖でしかないもの」
「私も臣下として帰らなければなりませんね。帰りたくありませんが」
「ユーダイは?」
「行かない。俺の帰るところは元の世界だけだ」
「エリザベート殿下、ギルドの口座が使えるようになったので、装身具売却分の私の取り分も結婚のお祝いとしてお納めください。今後とも我がオーレンドルフ伯爵家をお引き立ていただけたら幸いです」
「引き立てるってわたくしは第三夫人に過ぎないわ。リュート殿下はアリーシア夫人がお気に入りのようだし」
「ああいうフワフワした少女っぽい人が好きなのかもな」
「わたくしはあの方々と寵を競うつもりはないわ。もちろん妻の義務として子を産むつもりだけど」
「殿下には母国の支援はなさそうですからね」
「それでも今回の売却資金はかなり有難いわ。これを元手に何か始めてもいいし」
「何かって商売か?」
「いいえ、ケガをしても治療を受けられない平民向けの治療院を作ろうかと思うの。
聖属性いえ神聖力は使ってこその力だわ。神から与えられたということは、やるべきことがあるからだと思うの。決して自分の身分を補強するものではないはずよ。
でも魔法を使って癒すのは最終手段で、まずは教会で習った簡単な手当や薬を用意するの。それで平民からはあまり取らず、貴族からはお代を貰うつもりよ。基本的にはそのお金で治療院を回していくつもり」
これを聞くと彼女の大きな成長を感じられた。これまでは自分とカイルの事でいっぱいだったのに、今は周りのヒトのことまで考えるようになったのだ。俺はそのことを応援したい。
「それならリュート殿下とよく相談して始めるといいさ」
翌朝、美しく着飾ったエリザの護衛をしつつ、この国の国教会へ向かった。俺とゲオルグは改宗しないので中には入れない。この後彼女は改宗の誓いをし、リュートと結婚する。
彼が本当に妻思いかは付き合いが短すぎてわからないけど、エーリアスよりはましな気がする。どうぞお幸せに。
「ゲオルグはこのまま滞在するのか? エリザベート妃と国に帰るんだろ?」
「いや、私も改宗していないからこの国に残り辛い。それに帰ってどうするんだとも思えて来てな」
「まぁ、テレジアに忠誠を誓わされるだろうな」
「そう思うから、帰りにくいんじゃないか。君はどうするんだ」
「今まで通り、魔獣討伐しながら金を貯めつつ、元に戻る方法がないか探るつもりだ」
「それに付いて行ってもいいか? 私に何かやりたいことを見つかるまで」
「やりたいことを見つけるか……いいね。それまでなら」
そうして俺たちはその足でサクリード皇国を出ることにした。皇弟妃になったエリザと旅の冒険者に過ぎない俺たちでは身分も違うしな。
相談の結果、カイブライト王国とは違う南の方の国へ行くことになった。
エリザとリュート殿下に最後の挨拶をして、俺とゲオルグはまだサクリード国内であるものの最南端の街で宿を取った。
今日の宿は部屋数の余裕があるので個室だ。宿によっては混雑具合で相部屋もやむなしだからな。
皇宮でも個室だったけど、別の意味で緊張感あったし。
ちなみにあの後もエーリアスに『神の石』を渡すように迫られたので、俺はあっさり自分が『ストレージ』のスキル持ちだとばらした。このスキルはスキル所持者が死んでしまうと永遠に取り出せないのだ。だから基本ヒトのものは一時的にしか預からない。マジックバッグならバッグごと盗んで持ち主を書き変えればいいが、同じように出来ないからな。
でもそうしたらその荷物たちは一体どこへ行ってしまうんだろう。
それって亡くなった人のウェブ上のデータみたいなものかな。生体コンピュータになってからの問題として、個人が死んでしまうとそのデータが取り出せないと問題になったのだ。
ほら、サブスクの契約解除とか何かといるだろ。ログインパスワードもIPアドレスもその人の遺伝子なんだから。
それで本人が登録した相手に限り、数年以内に申請があったら一部のサービスは公開することになっていた。なぜ一部かというと、これも本人が許した場合に限るからだ。いくら家族だからって秘密の日記なんか読まれたくないしな。ものすごいいかついおっさんが実は乙女な日記を書いていたとか知られたらイヤじゃん。
ただ犯罪者が死亡した場合は任意の家族だけでなく、被害者遺族にも開示請求ができることもある。これは裁判で決まるので、裁判沙汰にならなければ死んで逃げ切られてしまうこともある。発覚していない犯罪にまで、責任がおえないのは仕方がないと思う。
とにかくストレージの中の荷物がどうなるかは、俺にはよくわからない。
その日の夜、俺は夢を見た。
騎士団長のおっさんが死んで、俺とエリザがカイブライト王国に残った場合の夢だ。
俺たちは無理やり結婚させられ、初夜に見届け人が来てヤっているところを確認された。その後も力のある勇者の子どもを産ませるという名目で、貴族のジジイどもの前で何回もだ。
これにはエリザも俺もすごく参ってしまった。だがその時の俺には隷属の腕輪がはまっていたので逆らえなかった。彼女も他の男とも寝るか、俺とだけ寝るかの二択で俺と寝る方を選んだのだ。
それでも絶えられなくなって、再度討伐の旅に出ることにした。もちろん理由はそれだけでなく、俺たちの国内での人気が上がってしまったからだ。
テレジアはそれなりに美しい女だったが、男遊びの激しいふしだらな王女という評判が立っていた。これは彼女がその行為に耐えられず、侍女やメイドに当たり散らしてクビにしてきたことの弊害だった。そういう秘密はどうしても漏れてしまうものだ。彼女と寝たと言いふらす貴族もいたしな。
そんな状況で俺とエリザは国を出たが関係は最悪だった。お互いに愛がないどころか憎しみしかなかったからだ。お目付け役のゲオルグがいて何とか保っていただけだった。
とにかく無理な性行為は止め、討伐の日々に明け暮れていたが、ある時エリザが妊娠したが、彼女はそれを隠そうとした。
俺の子ではなかったからだ。その時の俺はカイルの子かと思ったがそうではなかったようだ。俺の子だと偽装するために俺との行為を望むようになり、大げんかに発展していた。
とにかく自分がこんなに醜い争いをするのかと呆然となるほどの夢だった。今の俺よりもさらに憎しみが深く、傷つけるようなことをずけずけと言っていた。
隷属の腕輪の有無がこれほどにも大きいのか……自分の汚い部分を見せつけられて辟易した。
するとまた場面が変わった。今度は父とオズワルド叔父の夢だ。前よりも少し元気そうな姿にホッとする。
「キティ、ユウの未来はエリザベートと仲良く結婚するに書き変えたんじゃなかった?」
「そうだったんだけど、ユウはエリザの死をどこか自分のせいだと思っていたからな。それで彼女に焦点を絞って書き変えてみたら、サクリード皇国に嫁入りできたんだ」
「でも〇〇〇の誕生に彼女は必要だろ?」
「書き直せるということは彼女じゃなくてもよかったんだよ。変えられるのはそこが変わっても問題がない場合だけだからな」
ここで目が覚めてしまった。
どうやら別のルートでは俺はエリザと子どもを作っていたらしい。
でもどうやって?
実は俺はこの世界にきて聖属性魔法を得てから、子どもが出来ないように自力でパイプカット手術を行っている。
これは精子を送り出す管を切断し焼いてしまうことで子作りできなくする男性側の避妊手術だ。こっちでコンドームなんか手に入らないからな。
魔法はイメージで動く。俺は医学書も読んでいたしこの勇者チートの『真実の目』があれば、自分の精管の位置も正確にわかるので魔法で切って焼きとめたのだ。
ただこの手術はもう一度つなぎ合わせれば機能が戻るので、そうしたのかもしれない。
さっき見た醜い夢でもパイプカットの事実を告げて、彼女を絶望させていた。その後でなんか決定的なことを言った言葉は聞き取れなかったけど。
とにかくもう回避できたルートの話だ。俺は気にするのは止めることにした。
お読みいただきありがとうございます。




