第109話 釘刺し
「我々の力は弱ってなどいない!」
「そうですか? だって一族に生まれた神族がわからない程度なんですよ。ちょうどバルティスがおかしくなったのもその辺ですよね? 誰かが悪魔の力を借りたかなんかでしたっけ?」
「何が言いたい!」
「この世界におかしなことが起こっているってことですよ。アンタらもバルティスが神に愛された国だとは思っていたはずだ。でも悪魔が降臨して勇者召喚したんですよね?
30人近くいるたくさんの勇者が異世界からやって来た。でもこれは多分イレギュラーです。本来それを治める役割はアグネス皇女の役割だったはずだ。それが世界の自浄能力ってやつです。
そして今はこの俺が召喚されている。これもイレギュラーだ。
俺たちは勇者パーティーとして動いてみましたけど、魔族が侵略戦争をおこそうとしている形跡はない。でも呼ばれた。もちろん、呼んだやつらがいるんですけどね」
俺はエリザとゲオルグを見た。こいつらも被害者だけど、加害者側でもある。
「旅の途中で出会った魔族から言われました。この世界の神が行方不明だと。
100年前の悪魔討伐の時にはバルティス側に王族の変更を命令していたらしいし、まだいたんでしょう。だがその頃には神を嵌める罠ができていたのかもしれない。元神の眷属であったアンタたちならそれを感じ取れたはずだ。いや罠そのものはわからなくても、新たな神族を盛り立て支えていけば、お互いの子どもが神力を得るかどうかを悩む必要はなかった。
アンタたちはアグネス皇女を見捨てた時点でそれを自分から手放したんだ。バルティスのことを笑える立場じゃないですね」
「不敬だぞ! 貴様‼」
エーリアスが怒鳴った。きっとアグネス皇女を追いやった奴らもコイツみたいな人間だったんだろう。
「都合の悪いことを指摘すればすぐに不敬と言って処罰ですか? 権力者あるあるですね。
そんなことを言っている暇があるんだったら、この失敗を旨に我が振り直せばどうですか?」
年の功なのかリュートはもう少し落ち着いていた。
「ユーダイよ。君は我々に何を望んでいるのだ?」
「力が発現しなかったからと言って、女性いや男性もですね。子どもや妻たちをモノのように扱わないことです。愛してあげて欲しいんです。
アグネス皇女は能力が低いとされてきたが、神の石が出来るほどの神族だった。それは他の方々でも言えるのではないですか?
例えば今エスメラルダ妃殿下にはお子がいるそうですね。エーリアス殿下のお子が神聖力を発現したことで、今厳しい立場に置かれています。それによって子どもに無理な力の開発のようなことはさせないでほしいんです。
俺は聖属性魔法が使えます。この根本は『祈り』です。俺は祈った。家族を救いたいから元の世界に戻りたいってね。そうしたら光属性から転化しました。これは自分のためでもあったのですが、やはり一番は家族のためなんです。その根底にあるのは愛です。それを忘れないでください」
「本当に君の望みはそれなのか?」
「ええ、何かおかしいですか? ヒトは1人では生きていけない生き物です。無人島に1人で暮らせても、それは1人で暮らしていなかった時の知識が元になっているんですよ。ただ産み落とされた赤子が1人で生存などできない。ヒトを1人生かしていくということは義務だろうと最低限だろうと、愛がなければ出来ないんです」
みんな愛という言葉に期待し過ぎなのだ。ほとんどの皆が思う愛は『無償の愛』だ。そんな貴重なものを与えてくれる相手なんてそうそういない。母親でさえも全てが子を愛するわけではなく、全ての子が親を慕うわけではない。成長すればするほどそこに打算や思惑も入ってくる。
でもそれでいいのだ。別の人格同士が付き合うのに軋轢がないはずはない。親子でも恋人でも疲れたり嫌になったりは当たり前だ。それでも何らかの愛着があって、優しくしたり心配したり、時には叱ったりするんだ。もちろん相手を侵害するほどの暴力や抑圧や支配、犯罪はダメだ。
俺は妹の萌香がかわいいと思っている。でもめんどくさい。
突然BLにハマって同人誌作ったり、コスプレしたり、イベント行ったりに付き合わされた。知らない女の人にニヤニヤされながら写真撮られるのはちょっとしんどかった。黒歴史になった気がする。
ただ断るのが面倒だから一緒に行っただけだった。おばあさまに仲良くないと思われるのもイヤだったし。いいお兄ちゃん像を崩したくなかったのもある。
でもやっぱりアイツが傷ついていたら嫌だし、そういうことをした相手はムカつく。助けてやりたいとも思う。こういう部分が愛なんだと思う。
それに趣味じゃなかったラノベやアニメを見せられたことで、今この世界に順応しやすかったのも事実だ。面倒だったけどやったことは無駄なことなんかじゃなかった。
「もしかして君の望みはエリザベート殿下の今後のことかな?」
「それもありますね。彼女はこの2年、とても頑張ってくれましたから。ここで不幸になられたら、見捨てたみたいで寝覚めが悪いです」
俺は手に握っていた『神の石』を仕舞った。
「これは俺が預かっておきます。俺が上手く元の世界に戻れたら、その時はこのサクリードに戻すように遺言を残します。アンタたちも自分を神の眷属だと思うのなら、その勤めをちゃんと果たしてくださいよ」
「わかった。後はこちらの装身具を買い取ればいいのか?」
「そうしていただけると助かります。
報酬はエリザベート殿下とゲオルグに分けて下さい」
「叔父上!」
「エーリアス、諦めろ。我々に勇者を阻害する権利はない。討伐に際して手に入れた宝物は討伐者のものだ。そして醜聞が広まる前に我々に先に売ってくれたのだ。
それに私はこの方と友好的な立場でいたい」
するとエリザが突然声をあげた。
「エーリアス殿下、わたくしは先ほどのお申込みはお受けできません。
リュート殿下、どうかわたくしを第三夫人に娶ってくださいませ」
「なっ! なぜです⁈ 私は皇太子なのですよ?」
「今回の会合はとても重要なものでした。リュート殿下はそう思ってお2人の奥様をお連れになりました。あなたをお呼びになったのも同じでしょう、なのにあなたはご自分の奥様を連れて来られなかった。出産したばかりの第二夫人はともかくとしても、第一夫人は呼べましたよね?」
「それはあなたのことを思って!」
「今後似たようなことがあるかもしれません。そのとき、あなたはわたくしの知らないところで話を進めてしまうでしょう。それにアリーシア夫人が重要な情報を思わず漏らしたときにリュート殿下は庇っておられたわ。ユーダイの話も聞く耳もお持ちでした。
わたくしもそのように優しくしていただきたいと思います」
彼女はそう言ってリュートに手を差し伸べた。彼もその手を包み込むように取った。
「エリザベート殿下、あなたのお申し出をお受けします」
「実は父が亡くなりましたの。それで姉が玉座につくことになりました。わたくしの夫として共に参加してくださいますか?」
「わかりました。明日の改宗の儀と共に、婚姻も致しましょう」
ギルドの溜まっていた手紙は早く帰ればかりだったが、最後の手紙は1週間前で父親の葬儀と戴冠式への参加要請だった。未婚でしかも俺との婚約まで解消していてはエリザの身の上が危ういが、王族との結婚をしてしまえば国力がサクリードの方が上なので文句が言えない。
「ありがとう存じます。とても嬉しいですわ。
アリーシア様、エスメラルダ様。どうかこれから仲良くしてくださいませ。
3人でリュート殿下をお支えいたしましょう」
アリーシアもエスメラルダも彼女の申し出をうけた。アリーシアの方が前向きに受け取っているようだ。彼女は呑気で穏やかでちょっと迂闊なタイプかな。きっとリュートもそれがかわいいのだろう。彼女が寵を受けているのは間違いない。エスメラルダは子どもがいるのに少し余裕がない感じだ。
一応はぶっとい釘を刺せたかな。エリザはこれでしっかり俺の手から離れたのだった。
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