第107話 サクリードでの夕食会
お茶会がすんだその日は皇宮の中に泊めてもらえることになった。
明日、エリザはサクリードの国教会に改宗することになる。それで俺たちはお払い箱だ。そのせいか一緒に王弟であるリュート殿下の私的に夕食に招かれることになった。エーリアス皇太子と同じように彼女にプロポーズするためだと思う。
俺とゲオルグは側付きとして護衛役も兼ねているので、支度を終えたエリザの後をついて食堂まで行った。彼女はフィリシアの所で作ったバラ色のドレスを着ていた。俺の礼服はパレードの時に着たもの1点だけだし、ゲオルグも少し地味目の夜会服だ。
部屋に入ると王弟リュート、エスメラルダともう一人の女性(きっと第一夫人だろう)、そして意外なことにエーリアスもそこにいた。
「ちゃんとしたドレスを着てきてよかったわ」
エリザがボソッと呟く。私的な夕食ぐらいなら聖女服でもよかったが、このメンバーとテーブルセッティングを見ても晩さん会に近い。これが本来のお見合いの席のようなものなのだろう。あのお茶会は非公式なもの、つまりエーリアスの抜け駆けだったのだ。
「ようこそ聖女エリザベート、勇者ユーダイ、ゲオルグ=オーレンドルフ卿。来てくれて嬉しいよ。私が現国王弟であるリュートだ。こちらが第一夫人のアリーシア、エスメラルダとエーリアスはもう面識があるね」
「はい、カイブライト王国第二王女エリザベートと申します。聖女の称号をいただいております」
「勇者ユーダイです」
「カイブライト王国オーレンドルフ伯爵家長男ゲオルグと申します」
「これは私的な食事だから気楽にしてもらって構わない。是非堪能していってくれ」
リュートは30代前半ってところか。エーリアスが20代半ばって感じなのでどうしてもライバル関係になるのは仕方ないだろう。彼と同じ金髪金目だがもっとがっしりとした体つきの少し影のある渋い美形だった。皇太子ほど威圧的ではないし。この人はモテるだろうな。
実はここにいるエーリアスも前より柔和な感じだ。一歩リードしている自身があるのかな? あの時はエリザに力を見せるために、彼の言う『神力』とやらを少し使っていたのだろう。今は祖母や大伯父に似ているとは思わない。
食事はどれも最高級な代物でとても美味しかった。酒もいいものだ。状態異常無効なので酔わないけど。会話も当たり障りのない話から始まり、エリザを褒める話が多かった。
「勇者パーティーがどんな活躍をしたのか、是非聞きたいな。話せる範囲で良いから教えてくれないか?」
「ほとんど魔獣や盗賊討伐なので、食事時に話すほどではありませんわ。
ね、ゲオルグ?」
「そうですね。どういう魔獣を倒してきたかぐらいならいいんではないでしょうか?」
「それならついこの間、グーラーを倒しました」
「ユーダイ、アンデッドの話は食事向きではなくてよ」
「いやエリザベート殿下。我々は聖属性魔法にとても興味がありますので構いませんよ」
「それでしたら、ユーダイ。お話を任せても?」
「承知しました。先日隣国の教会に行った帰り、冒険者ギルドに寄ることにしたんです。俺たちにはパーティーの共同資産というものがあり、これは個人ではなくパーティーでお金が必要な時に使うものです。これまで2年間の報酬の一部を取ってあります。今回パーティーから抜けるエリザベート殿下の分をお渡しするためでした」
「それはどういった時に使うのかね?」
「いろいろですが、よく使うのは戦闘で使用したポーションの補充ですね。個人に任せると忙しさにかまけて購入忘れが出ますから。月の使用料を計算して必要数を定期的にギルドから購入していたんです」
一番よく使うのが騎士団長のおっさんだったが、アイツが自分で買うはずもない。ポーション切れで死なれても困ると思って定期購入にしていたのだ。本人に支払わせたかったが、そのかわりおっさん分のパーティー資産を払わなかったのでのでよしとすることにした。定期購入はおっさんが死んだ時点で止めてある。
「するとギルドから塩漬け、いえ長年放置された仕事の依頼を受けました。アンデッド絡みの討伐で、普通の冒険者では手に負えなかったのです。エリザベート殿下と俺が聖属性魔法の遣い手なので最適であったと思われます」
「グーラーとはどんな魔獣ですの?」
「簡単に言いますと食屍鬼です。男性型だとグール、女性型だとグーラーです」
「まぁ女性だったのね」
食屍鬼の意味が分かっていなそうだが、詳しい説明はそれこそ食事時にはふさわしくない。
「そうです。彼女は結婚式の夜に花嫁衣裳を纏ったまま呪いをかけられ、ある館から出られないようにされていました。その呪いは強力なもので、死出の旅路すら許さないものだったんです。やっぱり食事時にする話ではありませんね」
「聞いたのはこちらだから不問にしよう。つまり呪いのせいでグーラーになってしまったのか」
こう言ったのはエーリアスだ。彼はこんな話は嫌いそうだな。ものすごく貴族的もといロイヤルなヤツだからな。ウチのクソジジイのせいで、俺まで気にするようになっちまったぜ。
「他にも要因はありますが、概ねはその通りです。でも面白いなと思うことがあったんです」
「それはなんだね」
「彼女は元々人間で、しかもさる国のやんごとなき姫君だったんです。隣国の王子と結婚できるぐらいのね」
すると全員が黙り込んだ。隣国と結婚する姫君がグーラーになる。それはどこの国であっても大スキャンダルであり、国益にかかわることだ。
「それが面白いことなのか?」
「いいえ、彼女は元々素晴らしい力の持ち主で俺たちに亡くなったいきさつの記憶を見せてくれました。そうして美しい魔石を残したんです。元は人間だったのに魔獣化するとこれほどの魔石を残すのだと思ったことが、私の驚きと興味をかき立てました」
「その、そう言うケースは少ないのですか?」
アリーシア夫人は素直で可愛らしいタイプだ。リュートがこういうタイプが好きならエリザは苦労するな。
「多くはありませんがございます。例えば同じアンデッドの中に、レイスやリッチがいます。これらは強力な魔法士が死んでからなることが多い魔獣で、この場合も魔石を残します。ですが今回亡くなったのは魔法士ではなく姫君です。しかも我々が呪いを浄化したとはいえ何の濁りもない、まるでダイヤモンドのような美しさなのですよ」
第一夫人のアリーシアがかすれる声で、ダイヤモンドとつぶやいた。
そのことからもわかる。あの石はかなりの貴重品だ。
エーリアスが内心を見せないように、注意深く聞いてきた。
「それを見ることは出来るのか?」
「もちろん、お見せします。
ですが食事中に席を立つのはマナー違反ですし、終わってからにしましょう」
さてこれであの石を高く売ることが出来るが……どうしようかな?
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