第106話 神力
お茶会を始めたエーリアス皇太子とエリザベートは最初は当たり障りのない話をしていたがようやく本題に入り始めた。
「聖女がこの国の皇族と結婚する、その意味はご理解いただけてますでしょうか?」
「いいえ、その理由については存じませんわ」
「そうですか。我々が神の血脈であるということはご存じですか?」
「こちらで信仰される国教では、そのように唱えていらっしゃいますわね」
「それは紛れもなく事実です。私には神力があります」
「神力ですか……それは魔力とは違うのですか?」
「もちろんかなり似ていますが違うものです。魔力とはこの世界にある魔素を取り込んで、己の力としたものです。ですが神力はただそこに在る。それだけでいいのです」
「魔素は取り込んでいないということですの?」
「もちろん人間ですので多少は取り込んでいます。ですが神力との大きな違いはそこなのです。そしてそれに一番近いのが聖属性魔法です」
「そう……なのですか」
わかったような、わからないような説明だな。いややっぱわからん。
「聖属性魔法は主な場合、光魔法が転化して昇華されたものとされていますよね?」
「はい、わたくしの力もそうですわ」
「だが水魔法や火魔法、物によっては土魔法でも発現するそうじゃありませんか」
「そうらしいですわね。わたくしは水魔法から転化した方しか存じませんが」
「実は私たちはすべての属性が聖属性魔法になりえると知っています。なぜなら重要なのは祈りだからです。あなたも誰か無事や幸福を祈ったのではありませんか?」
「……その通りですわ。幼友達のケガを癒したくて、発現いたしました」
「聖属性魔法を持つ者は多くはありませんが、それなりに数はいます。そちらの男性もお持ちでしょう?」
皇太子は目線で俺のことを示した。聴覚強化がバレないようポーカーフェイスを頑張ったよ。
「ええ、ユーダイは優れた聖属性魔法の遣い手ですわ。勇者ですもの」
彼女の言葉にエーリアスはニッコリとほほ笑んだ。
「でも治癒能力や防御能力を持つ者はそれなりにいても、聖女まで昇華できるのはとても稀です。我々が聖女という存在を尊ぶのはそのためです」
「それは聖女になれるほど祈りを捧げられること……でしょうか?」
「祈るだけなら誰にでもできます。それが無私の愛だからこそ、聖女になれたのです。だから私はエスメラルダ妃をあまり尊敬できません。先見は素晴らしい能力ですが、それだけで彼女を聖女認定していいのかと思います。ですがあなたは違います。会ってすぐわかりました。あなたは真の聖女です」
「そんなっ……恐縮ですわ」
うんうん、片思いとはいえカイルのために治癒、防御、支援、浄化、解呪、攻撃能力まで得たすごい祈りだものな。
「私は皇族ですので妻を何人も娶ることになります。大抵は3人です。それは神力を持つ神族が少なく、その血を確実に後世に伝えるためです。
私と結婚するとあなたはまず第3夫人になります。これは叔父上でも同じです」
「伺いましたわ。でもそれならどうして第2皇子までしか置かれませんの?
神族を増やすのが目的なら、もっと皇子皇女を増やせば勝手に増えますわ」
「私どもにヒトを治めるように定めた神が、神族を増やしすぎないように定めたのです。私は皇太子ですが、父の弟であるリュート叔父上と私は皇位継承を争っています。2人しか王子はいないのに争いが起きるのです。もっと多くなるとさらに激化するでしょう。
100年前に悪魔召喚を行ったバルティス王国のことはご存じですか?」
「ええ、わたくしの嫁入り先の1つと目されておりましたもの」
「あの国は我々と違って多産で王子も王女も多かった。その中の1人が心得違いをしたのです。しかも王子とされていたが、彼は王家の血筋でも神族でもなかった。そのことを彼にはっきりと言わなかったことが、あの恐るべき悪魔に付けこまれたのです」
「そうだったのですね。そこまでは存じませんでした」
「バルティスはもはや神に愛された国ではない。私たちはそう認識しています。
少し話が逸れてしまいました。
結婚後の話でしたね。あなたは第3夫人になりますが神力を持つ子を産んでくだされば、その子の力に合わせて第1夫人、つまり正妻に繰り上がります。
私はあなたにそれを目指していただきたいのです」
「わたくしが正妻ですか? ですがすでにお2人いらっしゃいますのに」
「あなたは亡命によって身分を失いますが、元はカイブライト王国の第2王女でいらっしゃる。ああもちろん、あなたのご母堂のことも存じております。ですが我々は血筋よりも能力を見ます。それに身分があることは対外的に悪いことではありません。
今回第2夫人の子が神力に目覚めました。これにより第1夫人に繰り上がります。彼女はこの国の侯爵家の出ですが、聖女と呼ばれるほど聖属性魔法に長けた女性ではありません。
勇者パーティーとして2年もの間戦い抜いた、真の聖女であるあなたが私の最愛になっていただきたいのです。
聖女エリザベート、どうか私の妻になってください」
そう言って彼はエリザベートの前に跪き、その手の甲にキスをした。
俺の感想と言えば、なんだかお芝居を見せられているような気がした。自分の子が神力を得ためでたい時に別の女にプロポースしているからだ。
エリザは困惑と恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。いや少し喜んでいるみたいだ。これまで能力を認められていなかったからな。それに受け入れられた方がずっと幸せだ。
「エーリアス皇太子殿下のお気持ちは有り難く存じますわ。
ですがあなた様のお2人の奥様はそれを良しとなさらないのではありませんか?
わたくし、心配ですの。この国に慣れる前にわたくしに何らかの危害が及ばないか……。
特に心配なのは今回第2夫人になられるお方です。元は別の方のご夫人だったとエスメラルダ妃から伺っておりますわ」
「はぁ~全く、あの方があなたにそんな不安を植え付けたのですね。
確かに彼女は亡くなった私の兄の妻でした。彼女は公爵家の出で王族の降嫁が多い、いわば準王族の血筋です。まだ若いということで私の妻にしましたが、どうにも気が合わぬのです」
「まぁそれはどうして? 多少年上であっても、ご親戚筋のよく知るお方ではなかったのですか? 幼馴染でしたらむしろ気心が知れるはずですのに……」
「よく知っているからこそ、疲れるのです。彼女は自分に甘く他者に厳しい女性です。苛烈な性格を隠し淑女のように見せかけていますが、私は幼いころから本性を知っていますので心から信じることが出来ないのです」
「大変難しい御方なのかしら?」
「それを否定できません。彼女にとって他者は自分に役立つか、そうでないかです。私は彼女の身分を落とさないために役立つ人間とされていますが、エリザベート殿は役に立たないものとして排除するかもしれません。もちろん私の名において、そのようなことはさせませんが」
「そうですの……。皇太子殿下、わたくしはこの国に来たばかりで何もわかっておりませんの。その方のことも含めて、皆様の事もっとよく知りたいと思いますわ。良き子を授かるためにもです。母親が健やかな心身を持っていなければ、授かるものも授かりませんものね。
お返事はその後でもよろしくて?」
「もちろんです。ただできれば私のことはエーリアスとお呼びください」
今度は掌のほうにキスをした。これはアナタを大事する、守るという意思表示だ。
今の話でわかった。彼の妻はどちらも貴族の娘で、聖女ではない。つまり聖属性魔法も弱いと言うことなのだ。
彼は一応皇太子だが、次代に強い神力の持ち主がいれば玉座につくのに有利なのだろう。だからエリザが王弟について、そのような子を産むのが怖いのだ。
「かしこまりました。ではわたくしもエリザベートと呼んでくださいませ。他の王族の方にも会えますかしら?」
「ええ、あなたが国教会に入信してくださった日にでも紹介しますよ」
「楽しみですわ」
エリザが嫁ぐ国がこんなのでよかったのか?なんかドロドロしすぎだろ。
でもいろんな男にたらいまわしされるのと、妻同士皇位継承者同士で争うのに参戦するのとどちらがいいんだろう?
ああヴァルティスだって、王位継承権争いぐらいあるか。
だったらまだたらいまわしがない分、こっちの方がいいか。
お読みいただきありがとうございます。




