第105話 褒賞の分配
俺たちはギルドに依頼達成報告と犠牲になった冒険者の遺品と思われるものを持ち込んだ。冒険者カードや折れた剣などだ。現金や宝飾品は俺たちで分けた。
元々アンデッドの巣窟と化した家の掃除として受けた依頼で、見つかった物は俺たちのものにしていいことになっていた。だからカード以外は引き渡す必要はないのだ。それでも壊れた武器とか、洋服の切れ端とかいらない。だけど遺族にとっては大事なモノだからな。
それとアグネス皇女については報告しなかった。ただグーラーが住み着いていて、あの家から出られなくされていたことだけ話した。これを話したのはアンデッドハウスであった理由の報告のためだ。
よくよく調べると、彼女がこの国の王子と政略結婚したのは80年前。そして結婚後すぐに呪われ、閉じ込められていた。夫となったクズ王子は彼女が故郷に近い田舎で静養したいと言っているとし、王都で女遊びに励んでいたようだ。その王子も5年ほど経っても愛人たちとの愛欲の日々を続け、とうとうその中の1人に刺されて死亡している。きっとミレーユが泥棒に来たのはその少し前だったんだろう。
サクリードへ戻る前に俺たちは宿で今回の褒賞の分配について話し合った。ギルドからの謝礼金やアンデッドたちの魔石、見つけた金と宝飾品については、1/3に分けるだけだから問題はない。問題はアグネス皇女の遺品とドロップである。
「悩む必要ないじゃん。売って1/3にする。それで終わりだろ」
「ユーダイ、普通の冒険者ならそれでいいけど、わたくしはサクリードの嫁ぐのよ。そしてこれらは皇室の宝かもしれない。売却は困るわ」
「殿下。この品々の所有権は夫が所属するこの国の王家のものかもしれません。嫁入り道具に記載されていればそうなります」
「その場合、王家が買い取ってくれるのか?」
「いいや、たぶん見つけたことの謝礼として、いくばくかの報奨金が出るだけだろう」
「全く儲からないな」
「彼女のあの苦しい過去を見せられて、王家に報告なんてしないわよ。王子は夫の務めを果たすどころか、妻を呪ってアンデッドに落としていたんだから。悪質な呪術師を雇う国であると世間に知らしめたほうがいいくらいだわ!」
「それも儲からないし、恨み買うだけだろ?」
「だって悔しいじゃない! 政略でも少しは幸せになれると信じてこの国に来て、死ぬよりも苦しい目に遭わされていたのよ?」
エリザはもしかしたら自分とアグネスを重ねているのかもしれないな。彼女も生きるために会ったこともない皇族に嫁ぐつもりだからな。
「でもサクリード側にも落ち度はある。普通なら嫁入りした娘を気遣って手紙のやり取りぐらいするものだろ? 彼女の安否に気遣うことがなかった。これも彼女が見下された原因だと思う」
「それは……そのとおりね」
「皇家とアグネス皇女は、仲が良くなかったんだろうよ。だから彼女は外に幸せを探すつもりだった。それが失敗してあんなことになってしまった……ってところじゃない?」
「私もユーダイの意見に賛成です。ただ売りつける先はサクリード側でもよくありませんか?」
売りつけると聞いてエリザはギョッとしていた。いやこれをタダで渡すとかないわ。
「どうして?」
「こんなこと、通常なら戦争案件ですよ。政略結婚ならお互いの国益を考えてなされたはずです。たとえ愛情がない姫でも彼女が王宮で力を持てば、サクリード側に利益もあった。まぁ実際には王都にも行くことがなかったのですが、国の代表者としての婚姻が最悪な扱いをされたわけです。そんな屈辱を黙って見ている必要はありません。このことが明るみに出れば、80年前の事でも戦争や賠償の話ができます」
「彼女がグーラーになったことを伏せればな」
「そうだな。平民とは言え冒険者を3人と、王子側妃のミレーユとその愛人を殺している。サクリードもそこを突かれると非があることになってしまいます」
「少しはわたくしのことを考えてもらえないかしら。ここで味方するのはサクリード一択でしょ?」
「俺は金になればいいし、戦争するかどうかは国のお偉いさんが決めることだ。ただ特別味方する気もない」
「殿下の嫁入り資金も細やかですか貢献出来ましたし、これはこれでいいでしょう。戻りましょうか」
エリザの立場云々は、タダで貢献することじゃないと思う。確かに心証は良くなるかもしれないけど、良いように使えると思われるのも癪だ。
むしろしっかり金をとって、それを彼女の財産にしたほうが俺はいいと思う。
そうして俺たちはサクリード皇国に戻ると、今度は皇太子殿下に謁見することになった。そう言えばエスメラルダ王弟妃は嫁入りしてきたヒトだから、生粋のサクリードの皇族を見るのはこれが初めてだ。
「あなたが聖女エリザベートですね。私はサクリードの皇太子エーリアスです」
皇太子エーリアスは素晴らしい美男だった。金髪に金色の瞳。下々のものとは違う圧倒的な存在感。気品ある物腰に穏やかな気配を纏っている。きっと見かけだけでなくかなり有能なのだろう。ゲオルグは少し圧倒された様子だ。
でも俺には慣れたものだった。彼の様子は俺の祖母や大伯父によく似ていたからだ。いやおばあさまや伯父様の方がもっと清廉で美しい。
挨拶をすませた彼はエリザの手を取ってエスコートをし、宮殿を案内し始めた。皇太子の護衛たちが2人を囲む。俺たちもエリザの側付き(冒険者)だから、その後をついて行った。そうして連れていかれたのは庭にある東屋だった。
お茶の支度がされ、2人はテーブルについた。
当然俺たちは皇太子の護衛よりも離れたところに立っているしかない。それで聴力を強化して話を聞くことにした。
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