第103話 塩漬け案件
俺たちが受けた塩漬け案件は、この町はずれの森にある古い館の掃除だった。元々は領主の館だったが使えなくなったので、別の所に立て直した新館の周辺が栄え始めた。それが今のこの町でだから町はずれになってしまったのだ。
その使えなくなった理由、それはアンデッドの住まいになってしまったからだ。
ただヴァンパイアとかグールとかゾンビとかのヒトを襲うタイプのアンデッドなら、わざわざ専門の冒険者や教会関係者を呼ぶところだがその館に入らない限り問題はない。問題がないなら、近づかなければいい。
そんなわけでいつか来るであろう、強力な聖属性魔法の遣い手が来るまで、何十年にもわたって塩漬けされてきたのだ。
でやってきたのが俺たちだったわけだ。
「森になるぐらいだから、相当な年月塩漬けされてきたんだろうな」
「依頼書、ボロボロだったしな」
「そんなこと、どうでもいいでしょ。さっさと片付けるわよ」
どうでもよくない。簡単に討伐出来ないってことはゴースト程度ではないってことだぞ。
「今回は私の仕事がきっとあまりありませんね」
首からかけた聖属性のお守り(エリザ特製)をつまんで、ゲオルグが申し訳なさそうにほほ笑んだ。
「悪いけどポーション係と、最悪魔力譲渡要員ね」
「実体がないと私の魔法は意味がないですから、仕方がないですね」
「いや古い館だと共生しているかもしれないから、警戒は怠らないでくれ」
古くなって人が住まない住居には蜘蛛とか蝙蝠とかイタチとか住みついてるじゃん。実体あるかもしれん。
館は田舎の男爵クラスが住まう、大きさとしても質としてもそれほどではない。だが見るからにおどろおどろしい姿をしていた。庭木も壁の蔦も全部枯れているし何か大物がいそうだ。
「リッチでもいるのかしら?」
「もらった資料では前の居住者は領主で、この館では死んでないようです。でも管理人は置いていただろうから、そいつが強力な魔法士ならありえますね」
「そう、わかったわ。まずは外から浄化するわね」
エリザはまず館全体に結界を張った。これは悪霊を不用意な攻撃で逃げさせて、別の誰か憑依するのを防ぐためだ。
「この地に彷徨いし霊よ。進むべき神の御許へ行け。『安らかな路』」
トランクイルロード、これは成仏できない魂を導びくための聖属性魔法だ。比較的穏やかな魔法だな。例えば自分が死んだことを認識していない子どもや若者、あるいは健康自慢で死にそうにもなかった人物のゴーストに効果がある。
リッチになり果てるような魔法士の中には自分が死んだことを知らずに研究を続けていることがある。そんな相手に死んでいることを突き付けると、案外効果がある。でも甘っちょろい魔法でもある。
「姫様はお優しいね」
「敵意のない霊を苦しめる必要はないもの」
こう言うところがエリザを聖女たらしめているのだろう。彼女は決して悪人ではないのだ。むしろあの環境で育って、よくぞ聖女になれたなって思う。やっぱりカイルがすごいのか? それとも恋の威力なのか?
魔法を掛けられた館全体が白く輝いたが、いくつかの魂が消えたけれど、おどろおどろしい気配は変わらなかった。
「どうやらここで死んじゃった冒険者の魂だけ浄化できたみたいね。後は悪霊ばかりよ」
長年の塩漬けでも何度か討伐はあったみたいだな。それで死人が出てさらに塩漬けられたと。これは片付けとかないとな。
「行こう」
ギルドから預かったドアのカギを開けるのは俺だ。状態異常無効の俺には鍵を開けただけで呪いはかからない。
ただし俺よりも強い魔力の持ち主だとかかってしまうけど。今のところ魔族のビアンカや魔王ぐらいしか思い当たらない。
「呪いは今のところなし」
俺が扉を開けると、そこにはおびただしい数の火の玉が現れた。
「ちょっと数多すぎ! ユーダイ、やっちゃってよ」
もし巨力な悪霊がいる場合、主力は俺よりエリザだ。だから雑魚は俺担当になる。
「はいはい、『聖焔』」
俺はカイブライト国から預かった聖剣を聖属性魔法の火で覆った。そのまま剣を揮うとその太刀風に乗った幽かな火の粉でウィプス程度なら消えるのだ。数が多いので闇雲に振るっても次々と消えていく。こんなの楽勝だ。
ちなみのこの『聖焔』、この世界に降り立っていろいろ試行錯誤して聖属性魔法を初めて得た時、最初に頭に浮かんだものだ。この火で体を覆えば結界の代わりになるし、解呪や浄化したいときもこの火にくべるだけでいい。結構なんにでも使えるし、悪霊や呪い以外には熱くない。だから例の『隷属の腕輪』は隷属の呪いが付与されているので結構熱くなる。だからアレをつけているときは使えなかったんだ。
エリザに便利そうだから教えてと言われて何度も教えたが、どうやら漢字で考えていることが重要らしくとうとう彼女には使えなかった。
俺以外の2人はただ眺めていたからだろうが、いつの間にか近づいてきたネズミに齧られそうになった。どれもゾンビ化している。
曲がりなりにもAランクのゲオルグは持っていたロッドではたき落とし、エリザはメイスで叩き潰した。
「ユーダイ、ついでに焼いちゃってよ」
「りょーかい。ゲオルグ、探してくれ」
「わかった。我らが敵の住処を現せ。『探知』」
ゲオルグがゾンビ化した鼠の巣を辿ると、地下に続いているようだ。
こっちの魔法はいちいち詠唱がいるんだよな。俺だとサーチって言うだけで良いんだけど。これは異世界転移チートなのかもしれない。
「どうする? ユーダイ。地下に先に行くか?」
「そうだな。上にいるヤツを倒して屋根事落ちてきたら困るからな」
こういう貴族の屋敷は大体が同じつくりだ。1階は手前が来客を迎える応接間や家族の居間や食堂。使用人たちの部屋は一部の上級使用人以外は館でも奥まったところに与えられるか、通いである。この館は狭いので通いだろうな。
あと2階が個人の部屋になる。そして地下は貯蔵庫やワインセラー、たまに牢がある。
だから地下に行くには厨房へ行くのが一番だ。そこから下に降りる階段がある。
『気配察知』で確認すると、アンデッドとそうでないものが半々いる。ほとんどが鼠や虫である。すごいな、共存しているのか? それとも餌用に飼われているのか?
探しているうちに巣の入り口を見つける。嫌だな、Gとかいないよな? あまり考えたくない。
「この穴から焼いてみるわ」
俺は巣穴に聖剣を突っ込んで、『聖焔』を放った。
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