第102話 冒険者ギルドへ
俺の態度にエリザがキレた。
「ちょっと! それじゃ約束と違うでしょ⁈」
「約束って何? 側付きの振りをするってやつか?
でも俺とアンタの関係って今切れたよな?」
「切れたって、一応わたくしたちは同じ勇者パーティーでしょう?」
「それだってアンタの結婚でなくなる。俺は今どこにも籍がないただの流浪の民なんだよ。ああ冒険者資格だけあるか。とりあえず平民と見なされるかな。
とにかく俺はもう奴隷になるつもりはない。当然契約更新もしない。パーティーは解散。以上だ」
「待ってよ。わたくしは別に奴隷にしようなんて思ってない」
「アンタがどう思おうと、サクリード側の考えがわからない。勇者として便利に使われる気はない。俺はこの世界に誘拐されて来た。呼びかけられたわけでも、俺が望んできたわけでもない。目の前でケガをしている妹たちを助けられなかったんだからな」
「そ、そんなこと言ってなかったじゃない!」
「アンタに言ってどうなる? 元の世界に返す気もないし、返せないだろ? すでに3年も時間が経っていて、それを簡単に戻せると思わないしな」
「カイブライト王国との契約はどうするのよ!」
「あの実行がほぼ不可能な契約か? 魔王はもしかしたら倒せるだろう。魔族の財宝も手に入るかもしれない。魔獣の被害も一時的ならなくせるだろう。でも元の世界には戻せないだろ? どうだ、ゲオルグ。お前の知識で戻すことが出来るのか?」
「いや……私には無理だ。ただこちらに引っ張り込むのと、同じ世界を探し出して送り出すのとではまるで方法が違うんだ」
「エリザはどうだ?」
「わたくしの力でも無理よ。全く方向性が違うもの。でもあの魔法陣を使うことは出来るはずよ。今度はユーダイの魔力も使えば100人もの人は使わなくていいかもしれないし」
「はぁ、あの魔法陣ならもうすでに俺は持っているし、再現だってできる。だからカイブライトに戻る必要はない」
俺の生体コンピュータの機能は一部生きている。元の世界と連絡を取ることは出来ないが見たものを撮影する機能は今もある。あの召喚された日に出来るだけ撮影したから、抜けはないはずだ。
エリザもさすがにそこまでできるとは思っていなかったのだろう。勇者チートならぬ、生体コンピュータチートだからな。
「アンタはこれから結婚して幸せかどうかは知らんが、それなりの待遇を得られる。ゲオルグもそうだ。なら俺が自由になって、行動したっていいはずだ」
「アンタって恩とか友情とかそういうのないの? 一緒に2年いたでしょう?」
「恩と言うものは着せられるものではない。友情と言うものは対等な立場だからこそ成立するものだ。『従属の腕輪』、『実行不可能な魔法契約』、『婚約』で縛られていたんだ。もういい加減開放してくれないか?」
「わかった。そんな風に思っていたのね。見損なったわ」
「俺は一貫してこの態度だ。カイルのことは残念だったが、俺はアンタがヤツと結婚してもいいと思っていたし、その協力はするつもりだったぞ」
「ならわたくしが亡命できるまで待ってよ。アンタだってエスメラルダ様の申し出を飲んだでしょう?」
「飲んだのはアンタで、俺じゃない」
ずっと黙っていたゲオルグが間に入った。
「言い合っても仕方がないでしょう。ユーダイ、気持ちは変わらないんだね」
「ああ」
「では冒険者ギルドに行こう。
殿下、これからパーティーを解散し、パーティー資金を取り決め通り分けて、それから私とユーダイに亡命できるまでの側付きの仕事を依頼してください。期間も依頼料も仕事内容も取り決めて下さったらついて行きますよ」
「ちょっと! それじゃあわたくしのお金がどんどん減るじゃない」
「ギルドを通すので無料と言う訳には参りません。それにお金だけではサクリード側が負担できるのでダメです。そうですね……依頼料は結婚祝いと言うことで手数料分だけにして、私たちが安全に国外から出られるようにしてください。期限内にわたしたちが戻らない場合はギルドから催促して、冒険者を不当拘束していると申し出てもらいましょう」
「わたくしはそんなに信用ならない?」
「ユーダイは信用していませんね。それに勇者はどこの国でも使い勝手のいい兵器ですから。私は殿下にはそういうお気持ちがないのはわかります。でもこれからは身分が低くなるんですから、これまでのようにご自分の意見が通るとは思わないでください」
「身分が下がるですって?」
「亡命なさるんでしょう? そうした時点であなたはもう王女じゃない」
そのことに思い至っていなかったようでエリザベートはひどく驚いていた。
「元々お母上は平民出の魔法士でしょう。そちらの身分に戻るんです。
私はあなたが貴族のように話さなくても注意してこなかった。殿下には平民に戻る、そういう道もあると思ったからです。私の縁者だったら絶対にゆるしませんよ。
でも殿下はこれからも貴族社会で生きる決意をされた。とりあえずはそれを誤魔化せる程度のマナーは身についていますし、わたしも何もいいません。
でも今までと同じだとは思ってはいけません。殿下は平民出の聖女となると思った方がいいです。
ユーダイ、これならどうだ? 君は冒険者として身の安全が守られる。ギルドにはその義務があるからね」
「……それなら、依頼として受けるよ」
俺たちはその足で冒険者ギルドに向かった。エリザは不機嫌だが、俺たちが側に居ないと彼女の立場がないからだ。
「依頼料は手数料だけなのに、そんなに怒らないでくださいよ。これでも元パーティーメンバーとして配慮したつもりですよ」
「ちゃんと約束通りするぞ。依頼料があればアンタの代わりにダンジョンで稼いできてもいいし。でも皇国の紐付きにはならない」
「それは私もそうですね。まだカイブライト王国オーレンドルフ伯爵家の籍がありますし」
「わかったわよ!」
もう昼近いので朝の混雑はすでになく、あとはまばらにしか冒険者はいない。
1人しかいない冒険者ギルドの窓口に久しぶりに冒険者証を出す。
「Aランクのユーダイ様、ゲオルグ様、エリザベート様ですね。長らくご利用がございませんでしたがご体調でも?」
「いいえ、いろいろ事情があったの」
「半年に1度は依頼を受けてもらわないとランクダウンします。ギリギリでしたね。それからお手紙が数通届いております。こちらは受け取りなさいますか?」
「拒否できるの?」
「拒否されたことがお相手に伝わります。よろしいですか?」
「受け取るわ」
冒険者ギルドは不思議な組織だ。世界中のほとんどの国にあり、同じシステムで稼働している。国によって通貨や依頼内容が違うだけで、どこでも同じランクで認められるし、なぜかどこでも手紙や預けたものが受け取れる。でもよく考えればインターネット上なら、世界中どこでもメールや添付資料が受け取れるのだからそれと同じなのかもしれない。ただこっちは物理法則も超えて手にできるけど。それは剣と魔法の世界だからな。
「今回は依頼を受けられますか?」
「ああ、ランクダウンは困るからな。その前にパーティー解散をしたい」
「解散ですか? せっかくのAランクですのに?」
「エリザが結婚して家庭に入るんだ。相手は俺たちじゃないから続けられない」
「なるほど、そういうご事情ですか。でもそれですとエリザベート様はランクダウンされてしまいますよ?」
俺がどうすると彼女を見ると少し悩んでいた。
これから平民になるが皇族にもなる。この資格が必要か考えていたのだろう。
「……受けるわ。でもできれば一緒に依頼受けてよ。ソロよりもパーティーの方が安全だから」
「わかった。ではランクダウンしないような依頼を1つ。期間が短くて済むのがいい」
「ちょうどいいのがあります」
見ると結構ややこしいものだ。
「これ……塩漬け案件だろ?」
「この辺にAランクパーティーなんて、いつもいないんです。本当はもっとやっていただきたいんですがご結婚前ですし。できればお二方は続きをやっていただきたいです」
「次の依頼が決まっている」
「ウチにはまだ来ていませんよ」
「パーティーを解散後に、エリザが出すものだ。急ぎだからそちらを優先する」
はぁ、まぁなんとかなるか。
俺たちはややこしい塩漬け案件を受けることになった。
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