第100話 皇弟妃との面談2
「もしリュート皇弟殿下の元に嫁ぐ場合は、寵愛に関わらず皆様に誠心誠意お仕えします」
このエリザベートの返事に皇弟妃エスメラルダはあまりいい顔をしなかった。
「其方はまだわかっておらぬな。
我が夫は皇弟としてまだ皇族の籍にある。だがそれは皇位継承者を減らさぬためであった。だが皇帝の第一皇子が皇太子となり、しかもその子が神聖力を得た。あの方の皇位継承権はさらにさがったのじゃ。
このままでは第2夫人であるわたくしの子は成人まで皇族でいられるかも怪しくなった。爵位を与えられ、家門を立てられるならまだよい。どこぞの貴族家に婿入りさせられるか、あるいは養子に出されるか、はたまた人質として他国に送り込まれるかのいずれかになるであろう。それはそなたの子とて同じこと」
皇弟妃はこの国に亡命しても、エリザの望む平穏などありはしないということだ。このまま皇弟リュートに嫁いで子をなしても、それは政治の駆け引きに使われる駒になるだけのこと、皇太子に嫁いだら今度は次期皇帝の帝位争いに巻き込まれるのだ。でも皇弟妃になるならすぐに殺されることはないだろう。むしろ皇太子妃になった方が危うい気がする。
「エリザベート殿下、皇弟妃殿下はこの国での婚姻の欠点を指摘くださいました。それでも亡命するか尋ねられています。いかがなさいますか?」
「わたくしが皇族の方以外に嫁ぐことはできませんか?」
「残念じゃが聖女の力を持つ者は皇族に嫁ぐとある。もちろん皇帝陛下の愛妾という立場、現在10歳の皇帝陛下の第2皇子殿下に嫁ぐことも出来なくはない。だが正式な妻でないことや8歳年下の夫では其方が辛くなるであろう?」
つまりこういうことだ。
この国では基本時にスペアとして第2皇子までしか残さず、それ以外はさっき言っていた婿入り、養子、人質として扱われるってことだ。
だから皇帝の兄弟はリュートしかいない。これはまあいい。
皇太子の弟は10歳の少年1人。つまり前の失脚した皇太子と現皇太子以外の子どもは皇族から外されたわけだ。だけど第1皇子が失脚していなくなったから、10歳の子どもが第2皇子となったんだ。
そして現皇太子には長男が生まれて、次にあと一人男子が生まれたらあとは置いておけないってことだ。そして多分それは年齢ではない。神聖力があるかないかで決まるということなのだ。たぶん皇弟妃の子と皇太子の子はどちらが先にそれを得るか競っていたに違いない。襲撃の理由はそれだ。
「銀鈴茸とさっきの魔石はその神聖力に必要なのか?」
俺ががそう尋ねると、すっと表情が消えた。どうやら図星だったらしい。
「余計なことに首を突っ込むな、勇者よ。それとも命が惜しくないのか?」
「いや俺はこの国に興味は少ししかない。その情報さえ手に入ればすぐにでも出ていくよ。今の情報はなくてもいいやつだ。エリザベート殿下の亡命は俺とは関係ないからな」
「あ、あなた、一応わたくしの婚約者でしょ!」
「誘拐されて脅されて結ばされた婚約に何の拘束力があるんだ?
実際俺はアンタに手を出さないって言う魔法契約も結んでいるしな」
「その契約は私も、亡くなったもう一人の仲間も結んでおります。長く殿下に仕えておりますが、この国に残るつもりはございません。私はただの魔法士に過ぎませんし、改宗する気がございません」
「エリザベート殿下は改宗するんだから、他の神様の元で決めた婚約など守る必要はないだろう。あっても俺がいる間なら解消でも破棄でもどっちでも受けるぜ。
あっ、でも賠償はなしな。こっちが貰いたいくらいだから」
「ユーダイ、言い方が悪い。
元々は殿下が魔王討伐の旅に出る時に、婚約者が同行するという名目のためのもの。愛情があったわけではございません。どうかお気になさいませんように」
すかさずゲオルグも言った。フォロー大変だね。
「其方、下の者に好かれておらぬのだな……」
「皇弟妃殿下、エリザベート殿下に好意を持ったものは全て退職させられたのです。それだけ母国では王太子テレジア殿下のお力が強いのです。エリザベート殿下お一人の責任ではございません」
一番親切にしていたカイルですら、迷惑そうだったしな。
悪いヤツじゃないけど、仕えたいと思うほどイイやつでもないんだよ。
聖女の活動にしてもカイル以外はビジネスライクで、治してもらったお礼の品を持って行ってもあんまり喜ばないし、治療も事務的で仕事じゃなければやりたくない感ありありだったものな。
たぶん上に立つ人間になければならない広い視野とか、公平性とか、冷静さとか、ちょっとした優しさとか、なんか吸引力みたいなものが足りないんだと思う。そういうのはある程度なら教育でなんとかなるはずなのに、そこんトコロが受けられていないんだよ。
「なるほど、それならこちらの国の普通の待遇でもさほど苦痛ではないか。何十人もの侍女を着けられ、何十枚でもドレスが与えられるような贅沢三昧出来ると思われては困るからな。だいたい妃の面目を保つための費用は出るが、それ以外は実家からの仕送りになるからな」
「それではわたくしの待遇はかなり悪くなるとのことですね……」
でもテレジアがいないだけましじゃね? 代わりのヤツにマウント取られるだけかな?
「迷うのならやめることだ。わたくしなら妹には勧めぬ」
「わたくしも覚悟を決めてきました。この2人は関係ありません。聖女なのはわたくしで、国を捨てると決めたのもわたくしです。どうか亡命させてくださいませ。ユーダイとの婚約も破棄しますし、改宗もいたします」
そうして皇弟妃との面談は終わった。
一応、完全に決まるまでは彼女の体面のため、側付きとして残って欲しいと言われた。改宗しない人間を国民にすることはないので、それを理由に俺たちを切るらしい。
宿屋に泊まることになった俺たちに対して、エリザは不機嫌だった。
「もう少しわたくしに協力してくれてもよかったんじゃない?」
「ですがこれ以上何ができます? さすがに私はこの国の人間になる気はありませんよ。ユーダイは一貫して元の世界に戻るつもりですし」
「それでもわたくしを立ててくれてもいいじゃない」
「俺とは名目上とはいえ、婚約者だからな。変に気があると思われたら困ると思ったんだ。俺はアンタのことを尊敬はしないが悪いヤツではないと思っているしな」
「尊敬……」
「でもこれからは尊敬されるようにしないとダメじゃん? 皇族になるんだからさ」
「そうね……」
「殿下はわがままが過ぎるというほどではありませんし、質素にも耐えられますから。それは美点ですよ」
「そうそう、この国に亡命出来たら、冒険者ギルドに行って金を分配しないとな。1/3にしようかと思ってたけど、四等分のままで騎士団長の分もエリザに進呈でどうだ? 今後はずいぶん金がかかりそうだしな」
「ああパーティー経費分だね。私もそれで大丈夫です」
「そんなに仕送りがいるんだったら、もっと冒険者活動をしておくんだったわ」
「結婚前ならできるんじゃない? その辺はサクリード側との相談だろうけど」
「条件は良いとはいえませんが何とか皇族との繋ぎが取れたわけですし、これからは先を見据えましょう。殿下はこの国に骨を埋めるとお決めになったのですから」
「……そうね。カイルとカイルの妻がいる国には帰りたくないわ」
ああ、この決断は失恋の痛手の結果だったのか……。
なんか俺、厳しすぎたかな。でも変に甘くしたら気持ちがあるって思われても困るし。
俺は神探し以外はこの国には用がないんだから。
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