表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女の企み  作者: まこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

【悲報】正妃の産んだ第三王子、試験放棄にブチギレる

翌日から、各国の王女たちを対象とした本格的な『王太子妃教育』の講義が始まった。

王女たちが講義に臨んでいる間、彼女たちに付けられた大王国の王子や、同じ年頃の準皇族らは執行部の会議室へと籠もり、今後のスケジュール調整や情報交換を行っている。

「うちの国の王女殿下は本当に完璧だよ。流石は歴史ある大国の貫禄というべきか、暇さえあれば熱心に読書をされていてね。執事である私と、その本の解釈について議論を交わすほどの才女なんだ」

(……ハハ、うちの王女は、暇さえあれば他国の地図を眺めて『他人の恋路と勢力図』を熱心に語っているさ)

「私のところの王女殿下も、完璧なまでの淑女だよ。一息つける空いた時間には、それは見事な刺繍を黙々と刺していらっしゃる」

(……うちの王女は、暇つぶしにチェスの駒をせっせとデコっているさ)

「うちの王女様はさ、いかにも王女って尖った雰囲気は全くないんだけど、いつもふわふわとしていてまるで天使のようだよ。側にいるだけで最高に癒やされるんだよねぇ」

口々に、自分の担当する王女の優秀さや愛らしさを自慢し合う王子たち。

それを横目に、少し離れたソファに深く腰掛け、死んだような目で会話を聞き流している男がいた──エドワードだ。

(……クソ。俺だけがハズレクジかよ……)

「おい、エド」

薫り高い紅茶のカップを片手に、エドワードの隣へと腰を下ろしたのは、彼の従兄である公爵令息のラインハルトだった。

「どうしたんだ、そんな浮かない顔をして。そういえばお前の担当は、南端の富裕国──ヴェルヴァス王国だったよな? あそこの姫君は滅多に社交界に姿を現さない隠し球だと聞いていたから、みんな期待を膨らませていたが……噂通りの絶世の美女じゃないか。会場でもみな、口を揃えて見惚れていたぞ」

「ふん。代われるものなら、今すぐお前と代わってやりたいさ」

ジロリと睨みつけるエドワードに、ラインハルトは面白そうに片眉を上げた。

「おいおい、何か問題でもあったのか?」

「むしろ問題ツッコミどころしかないって言っているんだ!」

エドワードはきっちりと整えられた前髪を乱暴にかき上げ、頭を掻きむしった。

彼が、昨夜部屋で繰り広げられた「個別面談パス制度はないのか」というルリネットとの不毛なやり取りをぼやくと、ラインハルトはついに吹き出した。

「クックックッ……! 悪い、笑っちゃいけないが……最高に面白いな。大王国の王太子との面会を『パス』しようとする王女なんて、前代未聞だぞ」

楽しそうに笑う従兄を、エドワードは般若のような顔で睨みつける。

「まあまあ、怒るな。その型破りな姫君の担当が、お前で本当に良かったよ。ほら、周りを見てみろ。誰も彼も必死だろう?」

ラインハルトが顎で示した先では、未だに王子たちが自国の王女をいかに王太子妃の座に据えるかで熱弁を振るっていた。

「自分の担当した王女が次期王妃になれば、執事を務めた自分も莫大な恩恵に預かることができる。今後の出世にも直結するからな。……その点、お前は最初から地位も将来も安泰だろう?」

そう、このダリス大王国には八人の王子がいるが、現国王の「正妃」が産んだ高貴なる王子は、第一王子のフリードリヒと、この第三王子のエドワードの二人だけなのだ。出世競争など、エドワードには最初から無縁の話だった。

「それなら、公爵家のお前だって、もっと必死になったらどうなんだ?」

「私か? 私はゆくゆくは大人しく親の公爵位を継ぐ身だからね。この三ヶ月間は、ちょっとした王女様のお守りという日常業務をこなしているだけさ」

気楽に肩をすくめるラインハルト。

エドワードがそんな従兄に、本日何度目か分からない大きな溜息を吐きかけた──その時。

執行部の重い扉が勢いよく開き、第五王子が血相を変えて二人のいるソファへと飛び込んできた。

「エド! お前、こんなところでのんびりお茶を飲んでいて大丈夫なのか!? お前のところのヴェルヴァス王女、もう試験を切り上げて部屋に戻って行かれたぞ!」

「は……!?」

驚きに、エドワードとラインハルトの顔が見合わせられる。

「に、逃げたのか……!?」

恐る恐る尋ねるエドワードに、第五王子は困惑気味に首を傾げた。

「いや、逃げたというか……本人は『終わったので失礼します』と言って優雅に出て行ったんだが。いや、でもあの制限時間で終わるはずが……やっぱり逃げたのかな?」

エドワードは、第五王子が話し終えるよりも早くソファから飛び起きていた。怒濤の足取りで執行部を後にし、ルリネットのあてがわれた客室へと向かう。

「ルリネット王女殿下!!」

ノックもそこそこに扉を激しく開け放ち、エドワードが部屋へ踏み込んできた。

突然の乱入に、ソファでくつろいでいたルリネットが目を丸くする。

「まあ、エドワード。ノックもしないなんて、大王国の王子ともあろうお方が──」

「貴女は、一体全体何をしておいでなのですか!」

ルリネットのお小言を遮り、エドワードは普段の冷静沈着な仮面をかなぐり捨てて興奮気味に声を荒らげた。

そんな怒髪天を突く勢いの執事とは裏腹に、ルリネットは首を小さく傾げて小首を傾げる。

「何って……見て分からないかしら? モニカの淹れてくれた美味しいお茶を頂いているのよ?」

「貴女は今、試験の真っ最中なんですよ! 他の各国王女方は、まるっと二時間の制限時間を目一杯使い、あの難問に全力を尽くして挑まれている。それなのに、貴女という人は……! 他の王女たちが血の滲むような努力をしている中で、貴女だけがここに引き揚げていい正当な理由が、一体どこにあるのですか!?」

息を切らしながら問い詰めるエドワードに、ルリネットは全く悪びれる様子もなく、ふう、とお茶の湯気を吹いた。

「だって、試験監督の官僚の方が『解き終わった者から退出して構わない』って仰ったのだもの」

すかさず、エドワードの鋭いツッコミが飛ぶ。

「貴女の言う『終わった』とは! ただ単に、今のお前の頭でパッと解ける問題だけを適当に埋め、残りの難しい問題には一切思考する努力もせずに、投げ出して帰ってきたという意味でしょうが!」

「……っ」

「一国の王女たる者、問題ができるかできないかではなく、最後まで諦めずにやり切る姿勢こそが大切なのではありませんか!?」

確実に見透かされ、痛いところを突かれたルリネットは、バツが悪そうに小さく溜息を漏らして視線を逸らした。

そんな彼女の態度にますます怒りを燃え上がらせたエドワードは、これ以上の会話は不毛だと判断したのか、乱暴に部屋の扉をバタン!!と閉め、嵐のように去っていった。

取り残された部屋には、静寂と、少し冷めかけた紅茶の香りが残るばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ