【朗報】口うるさいお兄様がもう一人増えました
フリードリヒ殿下が嵐のように去っていった後。
私はソファに強制的に座らされ、じっとお説教に耐えていた。
テーブルの上には、エドワードが事前に用意してくれた色鮮やかなマカロンをはじめ、私の大好物たちがずらりと並んでいる。それなのに、お預けを食らっているせいで指一本触れることすらできない。隣に淹れられた紅茶にいたっては、とっくに湯気さえも立ち上らなくなっていた。
「王女殿下。……貴女は、先ほどの殿下との貴重なお時間を、一体どのようにお考えなのですか?」
エドワードが冷ややかな笑みを浮かべながら、静かに私を睨みつけてくる。
「だって……『飾らず普段の装いで、素の姿を見せてくれ』って言ったのはエドワードじゃない」
上目遣いでチラリと様子を伺ってみたけれど、執事の冷徹な眼光は一ミリも和らがない。
「確かに私はそう申しました。……が! その言葉を額面通りに真に受け、本当に実家での寝起きのような姿で現れる姫君を、私は生まれてこの方ただの一人も見たことがありませんが!?」
「だってぇ……殿下だって別に怒っていらっしゃらなかったわよ? むしろお顔を真っ赤にされて、なんだかとても優しそうだったわ!」
「大王国の第一王子、つまり次期国王となられるお方ですよ? 心の中の動揺と、表面のポーカーフェイスを使い分けることなど呼吸をするより容易いのです。騙されてはいけません」
「ふーん……。でもエドワード、貴方も一応はこのダリス大王国の第三王子でしょう? なのに、心の中のイライラと表面の怒り顔が、完全一致しているわよ?」
「……一応、とは何ですか。まあ、私は今、王族ではなく貴女の『執事』として振る舞っておりますので、不届きな主を教育するために表情が出ているだけです」
「じゃあ、フリードリヒ殿下も執事になったら、今の貴方みたいにガミガミ怒るようになるの?」
「……こうなるの、って。まあ、それは……」
想像してみる。
私の自慢のウィルお兄様と、あの完璧なフリードリヒ殿下。──うん、あの二人がどれほど切羽詰まったとしても、絶対にエドワードみたいに眉間にシワを寄せて怒鳴り散らすような姿にはならないわね。
「あっ……! 分かったわ、エドワード!」
ポン、と手を叩き、私は本日二度目の閃きに顔を輝かせた。
「貴方、我が国のアルお兄様にそっくりだわ! っていうか、もう完全に一致してる! 中身を入れ替えても誰も気づかないくらい、どっちも口うるさくて心配性なんだもの。ね? そうでしょう?」
宿舎の馬車で小言を連発していた実の兄の姿とエドワードが完璧に重なり、なぜか一人で大満足してご満悦になる。
エドワードは天井を仰ぎ、本日何度目になるか分からない特大の溜息を吐き出すと、すっかり冷めきってしまった紅茶を自嘲気味に口にした。
「……貴女のその『分かったわ!』は、これまで一度たりとも本当に理解していた試しがありませんね」
「そんなことないわよ?」
お説教の終わりを「待ってました!」と言わんばかりに、私はすかさず、一番大きなピンク色のマカロンへと満面の笑みで手を伸ばすのだった。




