【悲報】うさ耳ツインテールの王女、第一王子を秒殺する
コン、コン、コン──。
控えめなノックの音が響き、扉が開く。
案内役のエドワードに先導され、ダリス大王国の第一王子、フリードリヒ殿下が静かに部屋へと入ってきた。
ルリネットはエドワードから「飾らず普段通りの装いで」と言われていたため、至って気楽に二人を出迎えた。
「ルリネット・フォン・ヴェルヴァスにございます。フリードリヒ殿下、以後お見知り置きを……」
さすがは数百年ぶりに誕生したヴェルヴァス王国の至宝。身にまとっている衣服が何であろうとも、その一連の動作、お辞儀の美しさは完璧で非の打ち所がない。
──が、その後ろでエドワードは、驚愕のあまり完全に凝固し、己の軽率なアドバイスを心の底から後悔していた。
事前に彼女の言う「普段着」がどんなものか、しっかりと確認しておくべきだったのだ。そう、ルリネットはあまりにもバカ正直に、自国でのプライベート空間そのままの装いでそこに立っていた。
純白のモコモコとしたニットのワンピースに、なんとウサギの耳が付いた愛らしい上着を羽織っている。おまけに、いつもは上品に結われている美しい髪はゆるいツインテールにされ、顔には化粧っ気すら全くない、完全なる「すっぴん」状態。
(ここまでの世間知らず……いや、天然素材だったとは……!)
エドワードが冷や汗を流しながら恐る恐るフリードリヒ殿下の様子を伺うと、完璧な王子様であるはずの殿下は、片手で口元をきつく押さえたまま、耳の付け根まで真っ赤に染まっていた。
……?
「(可愛すぎだろ……ッ!)」
殿下の口から限界交じりに漏れ出た極小の心の声は、ルリネットの耳には届かなかったようだが、背後に控えるエドワードの耳にはしっかりと拾われた。
「お忙しい中、お越しをお待ちしておりましたわ」
本当に実家のようなリラックスモードのルリネットに対し、フリードリヒ殿下はゴホンと一つ咳払いをし、必死に赤みを引かせながら微笑んだ。
「待たせたね、ルリネット王女。フリードリヒだ。こちらこそ、お会いできて光栄だよ」
促されるまま、殿下はソファへと腰を下ろした。
「王女、ダリスでの生活はいかがかな? もう慣れたかい?」
極上の気品をまとったその姿は、まさに絵本からそのまま飛び出してきたかのような理想の王子様だ。
(なるほど、これがアルお兄様の言っていた『王子様の仮面』ね。確かにウィルお兄様にそっくりだわ)
ルリネットは内心で観察しつつ、営業用の笑みを返す。
「はい、おかげさまで。毎日とても充実した時間を過ごしておりますわ」
「それは良かった」
それからは、お互いに差し障りのないマニュアル通りの退屈な会話で時間が流れていく。
だが、そんな中身の無いお茶会に、唐突に終止符を打ったのは他でもないルリネットだった。
「ところで殿下。殿下はどのような女性が、我がダリス大王国の王太子妃にふさわしいとお考えですか?」
(……王女殿下。貴女は一体どこの面接官ですか!?)
エドワードが心の中で激しいツッコミを入れる。
しかし、フリードリヒ殿下は少し驚いたように目を瞬かせた後、優しく目を細めて答えた。
「そうだね。将来的に国母となる女性だからね……。周囲への思いやりがあり、出来れば聡明な才女が望ましい、かな?」
その言葉を聞いた瞬間、ルリネットの顔にパッと大輪の花が咲いたような、嬉しそうな笑顔が浮かんだ。
そんな無防備な笑顔を至近距離で浴びせられ、フリードリヒ殿下は再び顔を真っ赤にして視線を泳がせる。
「殿下! それでしたら、アリア王国のマリアンヌ王女など最適ですわ! 彼女は大変な才女でいらっしゃいますもの。……思いやりの有無に関しては、私、まだちょっと分かりかねますけれど。でも、その点については他の素晴らしい王女様方もいらっしゃいますから、もう少しお時間をいただければ私の方で調査を──」
なぜか俄然やる気を出してワクワクしているルリネットと、自分を熱烈に売り込まれるどころか、他人の仲人を始められて完全に困惑しているフリードリヒ殿下。
(王女……貴女のその立ち位置、もはや王太子妃候補ではなく、ただの『小姑』ですよ。貴女自身も、一応はその妃候補の一人であることを完全にお忘れですね……?)
胃の痛むような思いで二人を見つめるエドワードの心境などどこ吹く風。
未来のお義姉様探し(と、高みの見物)のために、ダリスの第一王子の前で堂々と仲介人の本領を発揮し始めるルリネットであった。




