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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第四章 動き出す針と影
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第七十七話 家族の襲来

「さて、僕はそろそろ――」


ガタリ、と椅子を引いてグウェンが立ち上がろうとしたその時、

カチャン、とドアノブが下がる音が資料室に響いた。


自然と全員の視線が扉へ向く。


次に、ギィ……と軋むような音とともに、ゆっくりと扉が開いた。

その隙間から、ひやりとした空気が流れ込んでくる。


紡と鈴木の間に緊張が走り

ゴクリ、と喉が鳴った。


顔をのぞかせたのは―


フィーロだった。


きょろきょろと部屋を見渡し、

グウェンの姿を見つけると、頬を紅潮させて嬉しそうに微笑んだ。


「グウェン様、みつけた」


その姿を見て、紡と鈴木はほっと息をついた。


「あれ? フィーロちゃん! どうしたの?」


ミミルが声をかけると、フィーロはパタパタと駆け寄り、

そのままグウェンの腕に抱きついた。


「グウェン様を探してた」

「おや、フィーロ。迎えに来てくれたのかい?」


グウェンは笑顔を見せ、優しく頭を撫でると

フィーロは目を細め、嬉しそうにグウェンの腕に頬をすり寄せた。


ひとしきり撫でられ満足したのか、

顔を見上げながら呟いた。


「グウェン様。早くもどろ」


急かすようにぐいぐいと腕を引っ張るフィーロに、

グウェンは困ったような笑顔を見せた。


「フィーロ、早くって……

今度はちゃんと“30分後に戻る”って伝えてあっただろう?

まだそんなに時間たってないと思うけど……」


そう言いながら、グウェンは資料室の時計に目を向けた。

焦っていない様子から、まだ時間には余裕があるようだった。


「うん。でも……スヴェン様が怒ってる」


スヴェンの名を聞いた瞬間、

グウェンの笑顔がみるみる曇っていった。


「スヴェンが? なんで急に……

今日は来る予定はなかっただろう?」


グウェンの言葉にフィーロは小さく頷く。

「うん。でもグウェン様がこの前、無断で欠席した夜会について

今すぐ話がしたいって……」

「夜会……? あぁ……叔父上が無理やり予定にねじ込んできたあれか……」


グウェンは軽くため息をついた。


「はぁ……あれは体調が優れなくてすぐに帰っただけで、

主賓にも出席していた人たちにもちゃんと挨拶してから帰ったし……

無断で欠席したことにはならないと思うんだけど……」


フィーロは眉を下げ、心底困ったように言った。


「うん。でも、スヴェン様がグウェン様に直接聞きたいって……

今は執務室で兄さんがなだめてるけど……

スヴェン様、早くグウェン様に合わせろって……とても怒ってる……」


「そうか……それは厄介だね。やれやれ……」


グウェンはこめかみを押さえ、少しだけ疲れたように笑った。


そしてふと、紡の方へ視線を向ける。

「あぁ……アマノ君。最近、君の“縁”の様子を見てないけど……

体調に変化はないかい?」


「え? あぁ、はい。おかげさまで」


突然話題を振られて驚きつつも

何とか返事をすることができた紡に、

グウェンは、ほっと安心したような表情を見せた。


「よかった。でも一応見ておきたいから……

そうだね、1時間後くらいに来てくれるかな。

……その頃にはスヴェンも落ち着いてるだろうし……

スヴェンにもアマノ君のこと、ちゃんと紹介しておかないといけないしね」


話している間も、フィーロは不安そうにグウェンの腕をぎゅっと握っていた。

グウェンは苦笑しながら、わかったわかったとなだめるように

フィーロの頭をポンポンと優しく叩いた。


その姿は、まるで親子のようだった。


「お騒がせしたね。これで失礼するよ。皆。悪いけど引き続き頼むよ」


そう言い終えると、フィーロにせかされるように腕を引っ張られ、

グウェンは資料室から去っていった。


扉が閉まる音と同時に、資料室内にはざわめきが広がった。


「ねぇねぇ! リリアちゃん! 気づいた?」

「ね? グウェン様、いつもと違っていたわね」


ミミルとリリアの会話に、紡と鈴木は肩をびくつかせた。

二人は答え合わせをするように顔を見合わせ、声をそろえて言った。


「「香水がいつもとちがう!」」


答えがそろってキャッキャと喜ぶ二人を見て

紡と鈴木は思わず安堵の声が漏れた。


「なんだ……香水の話か……」


無意識に口に出してしまった紡は慌てて口を押さえた。

ミミルとリリアは目を丸くして首を傾げる。


「なんだって……まぁ男性はこういう話は興味ないか」


どうやら女性陣は香水に気を取られ

言動や行動が若干いつもと違っていたことには気づいていない様子だった。


ミミルとリリアは楽し気に会話を続けた。


「グウェン様、香水のつけ方も変えたのかしら……

ちょっといつもと香り方も違ったわよね」

「そうだね……ちょっと煙草臭かった気もするし……

あれ?でもグウェン様って煙草吸われてましたっけ?」


ミミルの鋭い指摘に、なぜか紡と鈴木の二人に緊張感が走った。

うーんと、しばらく悩んでいたリリアはおずおずと口を開いた。


「……確か前に煙草は好きじゃないって聞いたような気がしたんだけど……」


そう言うと、ミミルは何か思いついたかのように人差し指を立てた。


「あれじゃない?誰か煙草を吸う人と一緒にいて匂いが移っちゃったんじゃないの?」

「それもそうね…」


リリアは納得したようにうんうんと頷いた。

女性二人が納得した様子を見て、

鈴木は切り替えるように手を叩いた。


「さぁ、納得したようですし、

残りの書類も確認しましょうか!」


各々がはいと返事をする。

紡も、腕を上げしっかり体を伸ばすと、

「よし」と一言気合を入れ、

積み上げられた書類の束から一枚取り目を通した。

閲覧いただきありがとうございます。


数話ぶりに弟が襲来してきました。


明日も7時更新予定なのでよろしければ引き続き

覗いて行っていただければ幸いです、

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