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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第三章 変化の兆し
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第七十四話 静かな決心

紡はグウェンが廊下の奥へと消えていき、

その背中が見えなくなったそのあとも、

しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。


その隣で、レオンが深く息を吐いた。


「……アマノ君」


呼ばれて、紡はハッと顔を上げた。


レオンは壁にもたれ、腕を組んだまま、

険しい表情で廊下の先を睨んでいた。


「……さっきの、どう見えた?」


その問いは、

“外側の視点”を求めるものだった。


紡は喉を鳴らし、

言葉を探しながら答えた。


「……俺は……グウェンさんのことをよく知りません……

でも、なんだか……話すたびにどんどん遠く行ってしまうように感じる時があります」


レオンの眉がわずかに動く。

紡は続けた。

「グウェンさんは、いつも笑ってるのに………

何て言うか……”心がそこにない”って感じが……」


そう言いながら、自分でも背筋が寒くなるのを感じた。

レオンはゆっくりと目を閉じた。


「……やはり、そう見えるか」

その声は低く、重かった。


紡は思わず尋ねた。

「グウェンさんは、どうしちゃったんですか?

……レオンさんは、その……昔からの知り合いなんですよね?」


レオンはしばらく黙り、

言葉を選ぶようにゆっくり口を開いた。


「……あいつは、昔から

自分のことを話すのが得意じゃなくてな……

何かあったとしても、とにかくすぐに”隠す”んだよ」


「隠す……?」


「あぁ。

自分がどれだけ傷ついていても、

俺達や周りには、いつも大丈夫だって笑って見せる。

そんな奴だった…………でも……

俺が知っていたあいつは……

あんな空っぽな笑い方をするような奴じゃなかったんだがな……」


レオンは懐かしむように苦笑したが、

その目は笑っていなかった。


そして、誰にも届かないほど小さな声でつぶやいた。

「……あいつが今もそばにいれば……

違ったのかもしれないな……」


紡は瞬きをした。

「……あいつって……?」


「い、いや……何でもない。

話を続けるが――」


レオンは息を整え、言葉を続けた。


「俺から見ても、昨日からのグウェン様は明らかに様子がおかしい。

隠している……というよりも……

もっと遠くの……“届かない場所にいる”ように感じるんだ」


レオンは天井を見上げ、

深く息を吐いた。


「……あいつは今、

俺たちの知らない何かを抱えてる。

それも……相当重いものだ」


紡は思わず言った。


「……何か助けになれることはないんですかね」


レオンはゆっくりと紡の方を向いた。

その瞳には、怒りでも焦りでもなく――

深い、深い無力感が滲んでいた。


「助けか……そうだな。俺たちは……

何をしたらあいつの助けになるんだろうな……

こんなに長い間一緒にいても……

“何が”あいつの助けになるのか……わからないんだ」


紡は言葉を失った。

レオンは拳を握りしめた。


「アマノ君。

君は外から来た。

本来こんなことを言うべきではないのだろうが……

外から来たからこそ……見えるものがあるはずだ」


「見えるもの……?」


「あぁ。なんでだろうな……

なぜか……そう思えるんだよな。

不思議なんだけどさ……アマノ君を見てると。

お前なら……本当のあいつを見れる……

その手を掴んで、引き留めてくれる……そんな気がするんだ」


レオンは紡の肩に手を置くと、ニカッと爽やかな笑みを浮かべた。

紡は戸惑いながら言った。


「えっと……いや…………

なんかすごく……荷が重いというか……

俺にそんな力はないですよ……」


その言葉を聞いて、レオンは焦ったように手を顔の前で振った。


「あ~すまない!わかってる。

突然こんなこと言われても困るよな。

……変なことを言ってしまったな!

俺の悪い癖だな……ハハ……またグウェン様に叱られてしまうな」


申し訳なさそうに眉を下げて笑うレオンを見て。


紡は胸の奥が熱くなるのを感じながら、

俯きながらゆっくりと言葉を紡いだ。


「……確かに……正直困りました……

でも……」


紡は過去の自分を思い出し、

無意識に唇を噛み締めながらも、

何か、決心したように顔を上げ、

力強くレオンを見つめながら、

自分にも言い聞かせるように告げた。


「俺にも……こんな俺にも!

できることがあるなら…………力になりたい……!」


その言葉を聞いて、レオンは小さく笑った。


「本当に、頼もしいよ。

……これからもよろしく頼む」


その後、二人はしばらく黙って立ち尽くした。


だがその沈黙は、

先ほどの冷たい静寂とは違い――

“覚悟”の静けさだった。


閲覧いただきありがとうございます。

第三章はこちらで最後になります。

いつも通り短いですが、おまけもアップロードする予定なので、

お時間が合えればそちらも覗いていただければ幸いです。



引き続きお付き合いいただければ嬉しいです!

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