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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第三章 変化の兆し
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第六十四話 噂になるまでの経緯②

「兄ちゃんが着ていた服みたいな上等なもんじゃないが……

まぁ濡れたままよりかは幾分マシだろ」


「いやいや、十分だよ。ありがとう助かったよ」

グウェンは服を着替え、

店主から渡された温かいお茶の入ったカップを受け取ると、

素直に感謝を告げた。


「にしても、あんた身なりを見るに、

結構なとこのお貴族様なんじゃねぇのか?

こんなとこに一人で来てて大丈夫なのかよ」


揶揄うように眉を上げながらも、

店主は店の奥で慣れた手つきで開店準備を進めていた。


「ハハハッ、そう見えるか?

まぁ大丈夫。ちゃんと“すぐ戻る”って伝えてきてるんで」


へらへら笑うグウェンを見て、

店主は準備の手を止めた。


「そうだ……兄ちゃん、なんか大事なもん無くしたって言ってたけど……」


その言葉に、グウェンはハッとしたように目を見開いた。


「そうだった!! まずい、早く探しに行かないと!

弟に殺される!!」


慌ててカップをテーブルに置き、

足早に出口へ向かう。


「服は裏で乾かしてるから、あとでちゃんと戻ってきてその服返してくれよ!」

「わかってるよ!また後で!」


そう言って店を飛び出していくグウェンの背中に、

店主は小さく笑い、再び開店準備へ戻った。



――


「あ~、どこやったかなぁ……

おいノルン。お前知ってんだろ、教えろよ」


自分の中にいる存在に話しかけるも、

機嫌が悪いのか、まったく反応がない。


グウェンは小さく舌打ちし、

通ってきた道を戻りながら探し始めた。

「ったく……こういう時に限ってこれだよ」


しばらく、うろうろしていたが、

全く見つかる気配がない。


イライラが募り、

途中で見かけた店に休憩がてら入ろうとして――


財布を持っていないことを思い出し、

引き返す。

それを何度か繰り返し。


「うん。無理だ。諦めよう!

大丈夫、指輪は……最悪バレる前に作り直せばいいだろ……」


潔く探すことを諦めたグウェンだったが、

今の格好で、煙草以外何も持っていない状態で帰ったら――


ネロになんて言われるか。

想像した瞬間、顔が青くなった。


「とりあえず……服。

乾くまでは帰れないよな……」


その時、視界の端を黒い影が横切った。

グウェンは反射的にそちらへ視線を向ける。


路地を駆け抜けていく、小さな黒い生き物。

猫のような――不思議なやつ。


グウェンの目が細められる。


そいつからは、特有の“光の糸”が尾のように揺れて視えた。

(……今の…そうか…そうなるのか……)


グウェンはたった今視えたモノを

確かめるように目を閉じた。


しばらくして、

大通りの真ん中で立ち尽くしていたグウェンは、

吹っ切れたように声を上げた。


「よし!もう俺が探す必要もないみたいだし!

店に戻るか!」


そう決めた瞬間、

グウェンの足取りは恐ろしいほど軽くなっていた。


――


古樽の酒場(アルト・カスク)”へ戻る道すがら、

グウェンは鼻歌まじりに歩いていた。


「いや~……仕方ないよな。

服乾くまで帰れないし。うん、仕方ない」


完全に自分を納得させた顔だった。


店の前に着くと、

ちょうど店主が樽を運び込んでいるところだった。


「お、兄ちゃん。早かったな」

「まぁな!服乾くまで世話になるわ」


「はいはい。……で、探し物は?」

「それが……全然見つかんなかったわ!」

胸を張って言うグウェンに、店主は呆れたように笑った。


「開き直りがすげぇな兄ちゃん……」


「ハハハッ、人生は勢いが大事なんだよ」


店主は肩をすくめながら店内へ戻り、

グウェンもその後についていった。


――


昼間の酒場はまだ客も少なく、

広い店内には店主とグウェンだけ。


店主はカウンターに座ったグウェンにお茶を出すと、

奥で作業をしながら、ちらりとグウェンを見た。


「なぁ兄ちゃん、さっきから気になってたんだが……

なんでそんなに落ち着いてんだ?」


「ん? 何が?」

グウェンは出されたお茶の入ったカップに

口をつけながら返事をした。


「財布も大事な指輪もコートも全部なくしたんだろ?

普通もっと焦るだろ」


グウェンはカップから口を離すと、

そのまま中身を混ぜるようにくるくる回しながら、

へらっと笑った。


「焦っても戻ってこないしな。

それに……」


一瞬だけ、グウェンの目が細められた。

「“視れば”わかるんだよ。

誰がどこに持っていったのか……」


店主は目を丸くした。

「……誰がどこに持っていったのか見たんなら、

見つかってるようなもんじゃねぇか、なんで取りに行かねぇんだ?」

「ん~……というか。俺が取りに行く必要がないんだよなぁ」

へらへらとした笑顔を見せるグウェンに、

店主は呆れたように笑った。

「なんだそれ?やっぱり兄ちゃん、変なやつだな。

いったい何者なんだ?」


「ただの一般人だよ。

ちょっとだけ、目が良いだけの」


そう言って笑うグウェンの横顔は、

どこか寂しげにも見えた。


閲覧いただきありがとうございます。


明日も回想編が続きます。

良ければまた破天荒なグウェン様を楽しんでいただければ幸いです

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