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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第三章 変化の兆し
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第六十三話 噂になるまでの経緯

「レオン……大丈夫?」

フィーロは並べた椅子の上に横になっているレオンの顔を、

心配そうに覗き込んだ。


そこへ店主が薬と水を持ってくる。


「旦那、ほら胃薬だ。

これ飲んでしばらく寝とけ」


それだけ言うと、「ごゆっくり」と階段を下りていった。


「薬……飲めそう?」


「……あぁ……すまない」


フィーロに肩を支えられながら、

レオンはゆっくりと起き上がり、薬を口に含んで水で流し込んだ。


「紅茶ごときで難儀だな、お前」


グウェンは心配するそぶりも見せず、

一人椅子に座って出されたお茶に口をつけていた。


「あのですね……この際だから言いますけど!」


レオンは飲み干したコップをテーブルに叩きつけるように置いた。


「グウェン様が淹れたのは“紅茶”とは言い難い、

ただの成分だけが濃縮された抽出物ですからね!!」


レオンにそう言われたグウェンは悔し気に目をそらすと

ぼそぼそとつぶやいた。

「……なんだよ……せっかく淹れてやったのに……

二人して倒れやがって……」


そんな中、紡がおずおずと手を上げた。


「あのぉ……お取込み中申し訳ないんですが……

その……グウェンさんのこれはどういうことなんでしょうか……?」


一瞬の静寂。


グウェンは腕を組み、困ったように唸った。


「うーん。まぁ……かなり端折って説明するとだな……」


そして、へらりと笑いながら紡の肩を軽く叩いた。


「精霊術使いすぎると反動でこうなるっていうか……

まぁそのうち勝手に戻るから! そんな気にすんなって!」


「精霊術の代償……ってことですか?」


鈴木が確かめるように尋ねると、

グウェンはパチンと指を鳴らした。


「そうそう! さすが鈴木は話が早くて助かるわ!」


ハハハと荒っぽく笑うグウェン。


その様子を見て、ネロは顔を手で覆った。


「はぁ……そんな代償もあるんですね……

というか、鈴木さんも知らなかったんですか?」


「えぇ……こんなグウェンさん初めて見ました……

しかし……精霊術の代償って……何をなさっていたんですか?」


(確かに……代償っていうくらいなんだから、

直前に何か精霊術を使ってたってことだよな……?

ネロの話だと、普通に仕事してただだと思ってたけど……)


鈴木の質問は、ネロたちも同じ疑問だったようで、

全員が黙ってグウェンの返答を待った。


グウェンはフッと笑い、

人差し指を口に当てて言った。


「ヒミツ」


「な――」


紡が問い詰めようと口を開きかけたが、

グウェンがその声をかき消すように続けた。


「そんなことよりも!

この俺が何をしてたのか聞きたいんだろう?

なぁ? フィーロも気になって気になって仕方ない、

“早く教えて”って顔してるもんな!」


皆の視線がフィーロに集まる。


フィーロはいつも通り、眉一つ動かさずグウェンを見つめていた。


「無表情に見えますけど」


「よし! そうだなぁ……どこから話そうか~」


(また無視された……!

どうもこのグウェンさん苦手だ……)


紡がそんなことを思っているとも知らず、

グウェンは嬉々として、

自分がここに来るまでの経緯を語り始めた。


―――

――



ガチャン――

カップが手を離れ、床に叩きつけられる。


ドサ。


遅れて、二つの身体が力なく崩れ落ちた。


まるで糸が切れたように、

ぴくりとも動かない。


その様子を静かに見ていたグウェンは、

ティーカップから口を離し、静かにテーブルへ置いた。


「……酷いなぁ、せっかく淹れたのに」


そう言うと、床に落ちたティーカップを拾い上げ、

割れていないことを確認してから、そっと戻す。


そして、動かない二人を一瞥すると、

執務机へ歩き、迷いなくペンを走らせた。


『少し席を外します。

  グウェン・スクルディガー』


紙を置くと、何も言わずに執務室を出た。

――

商業区域の通りは、午前中にもかかわらず賑わっていた。

復興が進み、街はすっかり元の姿を取り戻しつつある。


グウェンは広場の噴水に腰を掛け、

行き交う人々をぼんやりと眺めた。


「すっかり元通りだな……あんなにボロボロになってたのに……」


そのうち、一人の男が人知れず路地へ入っていくのが視界に入った。


その男をじっと見つめるグウェンの目は、

サングラス越しに赤く光りを帯びた。


男が路地の奥へ消えたのを見届けると、

グウェンはゆっくり目を閉じ、静かに呟いた。


「……そんなことをしても結果は変わらないぞ、ノルン」


それは、自分の中にいる存在へ語りかけるようだった。

路地の入口を見つめ、吐き捨てるように言う。


「諦めろ。運命を変えることはできない……

受け入れるしかないんだよ。何事もな」


そう言って立ち上がり、ゆっくり歩みを進めた。


――


気づけば、グウェンは商業区域の端にある川辺に座り込んでいた。


ポケットから煙草を取り出し、火をつける。

ふぅ、と煙を吐き出すと、不思議と満たされるような気分になった。


もう一度、煙草に口をつけながら、

先ほど自分が言った言葉を思い返す。


(“運命は変えられない”……?

なにが運命だ……気色悪い)

自分の口から出た言葉に嫌悪感が湧き、

煙草をくわえたまま頭をかき乱した。


「だーーーもう! 本当に嫌になる!!」


そう叫ぶと、勢いよく立ち上がり

シャツのまま川へざぶざぶと足を進め、

冷たい水を手ですくうと、頭からかぶった。


冷たさが一気に体を包み、

何かが洗い流されるような感覚がした。


目を閉じ、しばらく川の中で気分に浸っていると――


「おい!兄ちゃん、そんなところで何やってんだ!」


橋の上から、大柄な男が心配そうに覗き込んでいた。


「あ~いや。別に……そういう気分だったんですー」


グウェンが返すと、男は目を丸くし、

次の瞬間には豪快に笑い出した。


「気分か! まだ肌寒い時期だってのに、面白いな兄ちゃん!」


「ハハハッ、どうも~」

(やばい、見られてた……確かに震えてきたな

……さすがに戻るか)


男に言われて初めて寒さを感じたグウェンは、

川辺に戻りコートを取ろうとして――


「あれ? 俺のコート……どこやったっけ?」


コートがなくなっていることに気づいた。


口に手を当て考える。

「たしか……ここに座って煙草吸っていた時には……

もう脱いでたし……あ~……どこやったっけ?」


見渡すもどこにもコートが見当たらなかった。


「仕方ない、どこかで新しく買うか……」

ポケットに手を突っ込むも、出てくるのは煙草だけ。

財布もない。


少し考えたグウェンは、取り出した煙草に火をつけると

落ち着くために深呼吸をするように煙草を吸った。


「うん。やばい。煙草以外全部なくしたわ」

乾いた笑いが漏れる。


現実から目を背けるように、

もう一度煙草に口を近づけようとして――

重大な事実に気づいた。


指に着けていた“家紋付き指輪(シグネットリング)”も無い。


「はぁ!!?」


慌てて周囲を見渡すが、どこにもない。


「あ~~やばい。流石にやばい。

ネロどころかスヴェンにもキレられるぞこれ……」


煙草をくわえながら川辺をぐるぐると回る。

ネロとスヴェンという脅威に対し、

どう言い逃れできるか考えるも、

一考に打開策が思い浮かばず―


最終的に、グウェンは考えるのをやめた。

(もういいや……なるようになるだろ……)


そんな挙動不審なグウェンを見て、

橋の上の男が再び声をかけた。


「兄ちゃん、本当に大丈夫か?」


男の方へ顔を向けると、にっこりと笑顔を見せながら

上に向かって叫んだ

「ハハハッ! 正直死ぬほど寒いし、

ピンチどころの騒ぎじゃないなぁこりゃ!」


ピンチと言いながら、

余裕な様子で笑いながら煙草をふかすグウェンに、

男は呆れたように笑い返した。


「金は貸せねぇけど、

服と暖かい飲み物くらいは出してやるぞ」


グウェンは改めて店主の顔をじっと見ると、

にっこりと笑った。

「いや~助かるわ~!

じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

疑うことなく、グウェンは男について行った。


ついて行った先には――

古樽の酒場(アルト・カスク)”と書かれた年季の入った看板がぶら下がっていた。


「へぇ……あんた、ここの酒場の人だったのか」


「この酒場の店主だよ。

……って、兄ちゃん知らずについてきたのか? 不用心だな」


「ハハハッ、まぁ信用できそうなのは“視れば”わかるからな」

「へぇ。兄ちゃんはお目が高いんだな」

「それを売りに生きてるんでね」


そう呟くグウェンは、

どこか”諦めた”ような顔をしていた

閲覧いただきありがとうございます。


今回から怒涛の回想シーンが続きます。


明日も続きを7時にアップ予定なので

よろしければまた見てくだされば幸いです

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