第六十話 聞き込み
四人はそれぞれ別の方向へ散り、
事件のあった付近の商業区域の人々へ聞き込みを開始した。
だが――
喪服の男についての情報は、驚くほど少なかった。
「黒い服の男? さぁ……見てないねぇ」
「喪服?そんな恰好でこの辺りを歩いてたら
さすがに気づくと思うが……見てないと思うよ」
その後も何人にも声をかけたが、
決定的な情報は得られなかった。
(……思ったよりも目撃証言が少ないな…。
表通りは歩いていないのか……)
紡は焦りを感じながら聞き込みを続けていたが、
その途中―
「変な男なら見たよ」
と、魚を売っていた中年の女性が声をかけてきた。
「変な男……?」
紡が聞き返すと、女性は眉をひそめた。
「まだ寒いってのに……川に入って、じっとしている男がいたんだよ。
喪服じゃなくて白いシャツだったけど……この時期にしては薄着でね。
なんか……妙に気味が悪かったよ」
「薄着で川に…? ちなみにその男を見たのってどこのですか?」
「あぁ、あっちの商業区域と住宅区域の境目の橋の近くだよ」
紡は女性は指をさした方角へ目を向けた。
(喪服じゃない男……一応確認するか……)
「貴重な情報ありがとうございます」
紡は礼を言い、その橋へ向かった。
――
―
女性が指さした方向へ歩いていると、
すぐに橋にたどり着いた。
橋の上から川を見下ろすと、
膝ほどの水位の川が静かに流れていた。
(確かに……今日この川に入るのは、
さすがに寒いよな……)
紡は想像するだけでぞくぞくとした寒気を感じた。
(……川に入ってじっとしていた。
って言ってたけど、その男は……ここで何してたんだろう……)
周囲を調べても、特に変わった点は見つからなかった。
さらに橋の周辺でも聞き込みをしたが、追加の情報は得られずにいた。
その時、遠くで正午を知らせる鐘が鳴った。
(昼か……そろそろ集合場所に戻るか……)
紡は胸に残る違和感を抱えたまま、
約束の広場へ向かった。
――
―
正午。
四人は広場に集まった。
レオンが腕を組み、短く言う。
「……収穫は?」
ネロは首を振った。
「喪服の男を見たという話は、一つもなかった」
フィーロも沈んだ表情で続ける。
「私も……目撃証言はなかった……」
鈴木も肩を落とした。
「僕もダメでした……
あ、でも関連性はわかりませんが、不審な男の噂はありました」
鈴木は聞いた話を説明した。
「粗い麻のシャツに濃いズボンの男が、
目的もなくふらふら歩いていたらしくて……
街に慣れていない感じだったそうです」
「それなら俺の方でも……」
紡は鈴木の話に乗るように続けた。
「喪服じゃないけど……
白いシャツで薄着の男が、川に入ってじっとしてたって話を聞きました」
レオンは眉をひそめた。
「……どちらも、事件とは関係なさそうだが……」
ネロは腕を組み、考え込む。
「だが……どちらも”男”で”目的が不明”っていうのは気になるな」
フィーロも小さく頷いた。
鈴木が不安そうに言う。
「喪服の男に、不審な行動をする男の噂……
同一人物。という線は無いでしょうか。
例えば……喪服の男がどこかで着替えたとか……」
レオンは少し考えた。
「確かに……ここまで目撃証言がないと、
どこかで着替えた、という可能性は高いだろうな。
……だが噂の男はどちらも服装が違うようだ……
仮に同一人物だとしても、どちらか片方だけだろうな…」
ネロは悔しそうに歯を食いしばった。
「見た目を変えられていては探すのは困難だ……
くそ……こんなことで足止めを食っている暇はないのに……」
沈黙が落ちる。
レオンは深く息を吐き、
しぶしぶといった様子で口を開いた。
「……仕方ない。
情報に長けた者の力を借りるしかないか……
非常に不本意だが……」
そういうレオンは明らかに嫌そうな顔をしていた。
――
―
レオンの後について行った先は――
紡も見覚えのある場所だった。
「ここって……ラオフさんのいる冒険者ギルドじゃないですか」
「そうだ」
レオンは苦虫を噛み潰したような顔で、ギルドの入口を睨んでいた。
(……そんなに嫌なのか)
紡が首をかしげていると、ネロがため息をつきながら言った。
「ラオフが、その“情報に長けた者”だ」
「え?! ラオフさんが?!」
「そうだ。
あの人は冒険者ギルドのトップであり、
商業でも名の知れた伯爵家の次期当主……
情報網は街一番だ」
(ラオフさんって……そんなすごい人だったの……?
というか、グウェンさんといい……この国の貴族って変わった人が多いのか……?)
レオンは扉に手をかけながらも、なかなか中に入ろうとしない。
「……あいつは情報を持っていても、聞き出すのが本当に面倒なんだ……」
その時――
「なんや、人聞きの悪い。
商人が情報をタダで売るわけないやんなぁ?」
背後から声がして、全員が振り返った。
そこには、へらりと笑うラオフが立っていた。
「うわぁぁ! ラ、ラオフさん?! いつからそこにいたんですか!」
紡が飛びのくと、ラオフは楽しそうに笑った。
「いつからって……まぁええですやんそんな細かいこと……
ほら、立ち話もなんやし、中入ったらどうです?
お茶ぐらい出しますよ?」
ラオフはレオンの横をすり抜け、扉を押し開けた。
「ほら、どいてくれます?
入口に立たれたら邪魔やで」
「……本当、性格の悪さも街一番なんじゃないか?」
「褒め言葉として受け取っとくわ、レオン君」
二人は火花を散らしながらも、ギルドの中へ入っていった。
閲覧いただきありがとうございます。
久々のラオフが登場回になりました。
次回は一気に進展することになりそうなので、
良ければまた見ていただけると嬉しいです・・・!




