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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第三章 変化の兆し
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第五十八話 路地に沈む不安

レオンはしばらくその場に立ち尽くし、

男の言葉を反芻するように目を伏せた。


その横顔は、

普段とはまるで違う――

”何かを恐れている”ような、張り詰めた表情だった。


(……まただ。

ネロも、フィーロも、レオンさんまで……

みんな“何か”を恐れてる……

一体、何を……?)


紡は自分だけが状況を理解できていないような、

置き去りにされた感覚に襲われた。


その時、背後から、息を切らした声が聞こえた。


「天野さん……!レオンさん……!」


振り向くと、

人混みをかき分けるようにしてフィーロと一緒に鈴木が駆け寄ってくる。


「鈴木さん?!なんで……」

紡が驚くと、鈴木は苦笑いを浮かべた。


「いや……レオンさんを様子を見ておいてほしいって言われてたけど……

当の本人が、あの後すごい勢いで飛び出して行っちゃって……

心配になって、つい……!」


フィーロは鈴木の言い訳を聞きながらも、

視線はずっとレオンの横顔に向けられていた。

その表情は、紡以上に不安と緊張に満ちている。


やがて、騒ぎを聞きつけ集まってきた衛兵たちに

男を引き渡すと、レオンとネロはゆっくりと路地の奥へ視線を向けた。


その目は、

まるで“何か”を探すように細められている。


紡もつられて路地に目をやるが、

薄暗い通路には、

風に揺れる紙くずと、

湿った石畳が続くだけだった。


沈黙が重く落ちる。


それに耐えきれず、紡は口を開いた。

「あの……グウェンさんに何かあったのであれば、

身内であるスヴェンさんとか……”再編の針(リ・ウィーヴ)”の職員にも伝えて

一緒に探した方がいいんじゃないですか?」

そう提案するも、レオンは渋い顔をした。


「いや、スヴェンはともかく……職員達には……まだ言えん」

「なぜですか?天野さんの言う通り、人手を増やした方が

得策ではないですか?」

鈴木はレオンの判断に異を唱える


「い、いや……それはそうなんだが……」

レオンは言い淀み、視線を逸らした。

その横で、ネロもフィーロも、同じように口を閉ざしている。


その“沈黙”が、紡の胸をさらにざわつかせた。


そして――

ついに紡は我慢しきれず、声を荒げた。


「ネロも……フィーロさんも、レオンさんも……!

いったい何を隠しているんですか?!

さっきから三人とも、何かに怯えたような顔をして……!!」


紡の叫びが路地に響いた。


その瞬間、

ネロもフィーロもレオンも――

まるで胸の奥を突かれたように、

一瞬だけ表情を強張らせた。


だが、誰もすぐには答えない。


沈黙が、重く落ちる。


レオンが最初に口を開いた。

だが、その声はいつもの落ち着きとは違い、

どこか慎重に言葉を選んでいるようだった。


「……アマノ君。

君に隠し事をしたいわけじゃない。

ただ……まだ“確定”していないことを、

軽々しく口にするわけにはいかないんだ」


“確定していないこと”。

その言い方が、逆に紡の不安を煽る。


「じゃあ……何か“起きている”んですね?」


紡が詰め寄ると、

ネロが苦しげに顔を歪めた。


「……グウェン様は……

普段なら絶対にしない行動を……している可能性がある」


「普段なら絶対にしない……?」


紡が問い返すと、

ネロは唇を噛み、視線を逸らした。


フィーロが代わりに小さく呟く。


「……グウェン様は……

自分の感情を乱すことがほとんどない人なのに……

今日は……気配が……すごく不安定で……」


“気配が不安定”。


その言葉が、紡の胸にざわりと引っかかった。


レオンは深く息を吸い、

紡の目をまっすぐに見つめた。


「……アマノ君。

グウェン様は……強い人だ。

誰よりも冷静で、誰よりも自分を律している。

だが――」


そこで言葉が止まる。


紡は息を呑んだ。


レオンは、

言いたくないことを無理に押し出すように続けた。


「……もし、“自分を保てなくなっている”としたら……

それは……俺たちにとって、最悪の兆候なんだ」


“自分を保てなくなっている”。


その言葉の意味は、

紡にはまだ完全には理解できない。


だが――

三人の怯えた表情が、

その言葉の重さを物語っていた。


フィーロが震える声で付け加える。


「……グウェン様は……

“そういう状態”になると……

誰にも言わずに姿を消す癖があるの……

昔から……」


紡の背筋に、冷たいものが走った。


(……昔から?

じゃあ、これは初めてじゃない……?

三人とも……それを知っている……?)


ネロが拳を握りしめ、

悔しさを押し殺すように呟いた。


「……だから……探さなきゃいけないんだ。

誰よりも早く……俺たちが……」


レオンは静かに頷き、

路地の奥へと視線を向けた。


「……ここまで来たら。アマノ君、それにスズキ、

君達二人にも、いずれ話す。

だが今は――

グウェン様を見つけることが先だ」


その声は、

祈りにも似た切実さを帯びていた。


紡は唾を飲み込み、

三人の背中を見つめた。


(……三人が恐れている“何か”。

それは……グウェンさん自身に関わること……?

いったい……何が……)


胸の奥がざわつき始めていた。

閲覧いただきありがとうございます。


ついにグウェン様の謎にとりかかっていこうと思いますので

こうご期待で御座候


以上、次回もよろしければお付き合いくださいませ

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