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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第三章 変化の兆し
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第五十七話 落とし物


フィーロは慌ててネロを止めようと後を追いかけていった。

紡も続くように廊下へ出たが、

すでにネロの姿はどこにも見えなかった。


「いきなりどうしたんだよ……」


廊下の真ん中で立ち尽くすフィーロに近づくと、

その横顔は焦りと不安が入り混じり、

何かを必死に考えているようだった。


少し遅れて鈴木も廊下に顔を出す。


「ネロ君は……グウェンさんを探しに行ったのでしょうか……」


その言葉に、フィーロは唇をきゅっと噛みしめた。

胸の奥に押し込めていた“ある可能性”が、

一気に形を持って迫ってきたような表情。


「……私も行く」


小さく呟くと、フィーロは紡に視線を向けた。


「……アマノさん。私についてきてほしい……」

「俺?いいけど……ネロの場所がわかるのか?」


紡の問いに、フィーロは小さく首を振る。

「……でも、心当たりはある」


その目は、決意と恐れが混ざったような色をしていた。

フィーロは鈴木に向き直り、声を張った。


「私は、アマノさんとネロと、グウェン様を探しに行ってくる。

スズキさんは、レオンの様子を見ていてほしい」


そう言うと、紡の手を掴み、返事も聞かずに駆け出した。


――


紡はフィーロに手を引かれ、施設を出ると、

二人は商業区域付近まで来ていた。


フィーロはきょろきょろと周囲を見回し、

ある一点で視線を止めた。


紡がその先を見ると、

ざわざわと人だかりができており、

その隙間から―― 一瞬だけネロの姿が見えた。


その一瞬だけであったが、

ネロが男性につかみかかっているようだった。


「何やっているんだアイツ!」


紡はフィーロの手を振りほどき、

人の垣根をくぐってネロの元へ急いだ。


「おい!!離せネロ!」


慌てて止めに入ると、ネロは苛立ったように舌打ちした。


「邪魔をするな!」

「何があったか知らないが!とりあえず落ち着け!」

「だまれ!……おい!お前!答えろ!

なんでお前がグウェン様のコートをもってやがる!」


ネロの言葉に驚き、男の手元を見ると、

確かに見慣れたコートが握られていた。


「だから!路地に落ちてたから拾っただけだって言っただろ!」


男は苦しげに叫ぶ。


その瞬間、ネロの動きがぴたりと止まった。


そして――

ギラリと男を睨みつけ、

氷のように冷たい声で言った。


「……拾っただけ。だと?

見え透いた嘘をつくな……」


ネロは男の襟を掴む手に力を込め、

ギリギリと持ち上げる。


「うぐっ……た、たすけ……」


男の足が浮き、

首が締まっているのか、泡混じりの唾液が口端から垂れた。


「やめろ!ネロ!それ以上は……!」


紡がネロの手をこじ開けようとするが、

びくともしない。


(このままじゃ……!)


紡が殴ってでも止めようとした、その瞬間――


紡の後ろから手がひゅっと伸び、

ネロの手首を掴んだ。


「それくらいにしておけ」


低く、腹の底から響く声。


振り向くと、レオンが立っていた。


「レオンさん!?」


紡が名前を呼ぶと、レオンは目だけ動かし、

“安心しろ”と言うように軽くウィンクした。


すぐに鋭い目つきに戻り、ネロを睨む。


「……ネロ。やめろ、と言っている」


それでも手を離さないネロに、レオンは小さくため息をつき、

掴んでいた手に力を込めた。


ぎしり、と骨が軋む音。

ネロの手が自然と開き、男は解放された。


どさりと地面に落ち、涙をこぼしながら咳き込む。


「なぜ邪魔をする……!!」


「そんな方法じゃ、グウェン様の場所を吐かせる前に、

その男が先に死ぬぞ」


ネロは男を睨みつけたまま、

やっと冷静さを取り戻したのか、

ッと舌打ちし、一歩下がった。


入れ替わるようにレオンは男の前に膝をつき、

視線の高さを合わせると――

その目つきが、さっきまでの柔らかさとはまるで別物になった。


静かで、冷たくて、

獲物の逃げ道を一つずつ塞いでいくような目。


男はその視線を受けた瞬間、

肩をびくりと震わせ、呼吸が浅くなる。


「……さて。落ち着いて話せるな?」


レオンの声は低く、穏やかに聞こえる。

だが、その“穏やかさ”が逆に恐怖を煽る。


男は喉を鳴らしながら、かすれた声で答えた。


「お、落ちてたんだよ……そ、そこの路地裏に……ほんとだ……!」


レオンはゆっくりと首を傾けた。

その動きは優雅ですらあるのに、

なぜか背筋が凍るほどの威圧感があった。


「落ちていた? このコートが?」


男の手元に視線を落とす。

その視線だけで、男は息を呑んだ。


「こ、こういうのは……高そうだし……届けようと……!」


「届けようと……ね?」


レオンは微笑んだ。

だが、その笑みは目に一切届いていない。


「なら…その内ポケットに入っている物も

もちろん届けるつもりなんだよな?」


男の顔色が変わる。

「……な、なにいって……」


「おいおい、とぼけるのか?

……それはもう、“届ける気はなかった”って言ってるのと同じだろ」

恐怖のためか、男の体が硬直する。


それを見て、レオンは、ハァとため息を吐くと、

動けない男の代わりに、ゆっくりとコートの内ポケットに手を入れた。


そして――

“それら”を取り出す。


「……財布と……ハハ…

おいおい、グウェン様はこんなものも”落として”いったのか……?」


レオンの手には―

家紋入りの指輪(シグネットリング)”があった。


紡は思わず息を呑んだ。

(……”家紋入りの指輪(シグネットリング)”って……なんでそんなものを……)


男はしどろもどろになりながら言葉を探す。


「ち、違う! 俺は……!」

「言い訳はいらない」


レオンの声が一段低く落ちた。


「お前が嘘をついているのは、

その手の震えと、視線の泳ぎ方でわかる」


男の肩が跳ねる。

レオンはさらに一歩、男の心に踏み込むように言った。


「……これらはすべて、グウェンのものだ。

あのグウェンが“落とす”はずがない。

ましてや、家紋入りの指輪(シグネットリング)まで、路地裏に置き去りにするなどありえない」


その言葉には、

“絶対的な信頼”と“強い焦り”が混ざっていた。


紡はその微かな変化に気づき、胸がざわつく。

レオンは男の目をまっすぐに見据えた。


「だから――お前が見たものを、全部話せ」


男は完全に怯え切り、

涙と鼻水を垂らしながら震える声で叫んだ。


「み、見たんだよ!

喪服みたいな真っ黒な服を着た男が……このコートを持って……

路地の奥に消えていくのを……!」


レオンの表情が一瞬だけ強張った。


紡はその変化を見逃さなかった。


(……喪服?)


フィーロも息を呑む。


レオンはゆっくりと立ち上がり、

男から視線を外さないまま、低く呟いた。


「……喪服の男、か」


その声には、

怒りとも焦りともつかない、

深い感情が滲んでいた。

閲覧いただきありがとうございます。


今回レオンさんはちゃんと副隊長として仕事してたんじゃないですかね?

今後もちゃんとギャグ要因じゃないレオンも頑張って書いていきます。


な?やれるよな?レオン。



あと……予約投稿失敗してました。

またやってしまいました。

すみません……


あの……次回も、よろしければ見てやってください。

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