おまけ 影に潜む男達
「それじゃあねぇ。
せいぜいグウェン君に喰われないよう気を付けるんだよぉ」
魔法具に魔力を流すのをやめると、
光を失いあっけなく通信は途切れた。
後には重たい静寂だけが残った。
「はぁ……これでやっと帰れますよぉ。
本当に疲れましたぁ」
大きく息を吐く。
――帰ろう。
そう思った瞬間。
「帰るな。まだ用がある」
背後から、低い声が聞こえ、
振り返ると、マスクをつけた男が
静かに、無駄のない足取りで距離を詰め、
そのまま隣に並んだ。
セラフは露骨に顔をしかめると、
手にした紙をひらひらと揺らす。
「はいはい、わかってますよ… これでしょ」
男は、無言で頷くだけ。
その反応に、セラフはもう一度ため息をついた。
「で? なんなんですか、これ」
「指令書だ」
短い返答。その声に感情はない。
「指令書ぉ?これがぁ?」
「そうだ」
どうやら説明する気は一切ないらしい。
セラフは呆れたように肩を落とし、紙に視線を戻す。
そして、そこに書かれた文字を読み――眉をひそめた。
「……これをわざわざ僕に持ってきたってことは、
最優先任務、って理解でいいんですよねぇ?」
紙には、たった一言だけ。
《たばこ》
と書かれてた。
「……これ指令書じゃなくて
ただのお買い物メモですよねぇ?」
軽く笑いながら確認する。
だが――
返ってきたのは、笑いを許さない視線だった。
「指令書だ……あの人からの命令に向くのか?」
一瞬にして空気が、張り詰める。
「い。いや、……従いますけどぉ……」
セラフはわずかに肩をすくめ、言葉を選ぶ。
「僕が言いたいのはですねぇ、
さっきの任務を放り出してまで、
たばこを買うのを優先すべきなのかって話でしてぇ……」
恐る恐る顔色をうかがう。
しかし――
「いいから。さっさと買って来い」
苛立ちを隠そうともせず、小さく舌打ちをすると
男はセラフを手で追い払った。
「はいはい、わかりましたよぉ」
肩をすくめ、背を向ける。
一歩、踏み出すと同時に――
セラフの輪郭が、ゆらりと揺れた。
人の形がほどけ、組み替わる。
次の瞬間、そこにいたのは――
どこにでもいる、特徴のない男だった。
「じゃあ、買ってきますから、
後はいつものとこでお願いしますよぉ」
軽く言い残し、肩越しに振り返る。
―しかし そこにはもう、男の姿はどこにもなかった。
「…………さっさと買って帰ろ…」
小さくこぼす。
特徴のない男は、そのまま大通りへ歩き出す。
人の流れ、ざわめきの中へ――
輪郭が、静かに溶けていった。
お待たせしました。
やっとまとまった休みが取れたので、
とりあえずおまけですが投稿することができました……
短いですが……
本編もお休みをいただいた間に、いろいろと整理をしたので、
また毎日投稿できるようこの休みの間に頑張ります……!
引き続きお付き合いいただければ幸いです……!




