第五十四話 グウェンの意外な一面
「天野さん、その……今回はありがとうございました。
なんとお礼を申し上げたらいいか……」
おずおずしゃべりだしたヨハンは、深々と頭を下げた。
「いえ、俺は別に、大したことはしていないというか……」
(実際、直感的に動いていただけだし……)
「それでも……僕の容疑が晴れるきっかけになったのは、
間違いなく、天野さんのおかげです」
「グウェンさんにも、多大なるご迷惑をおかけしてしまって……」
そういうと、グウェンにも頭を下げようするが、
それを手で制された。
「いえ、その件についてはどちらかと言えば、
僕が君を巻き込んでしまったかもしれないわけだから」
グウェンは申し訳なさそうに眉を下げた。
「……あれ。そういえば。グウェンさんって、
向こうに行った後、拘束されたんですよね?
スヴェンさんが、グウェンさんから指示されたって言ってましたが、
どうやって状況を把握してたんですか?」
紡が純粋な疑問からの発言だったが、
皆気になっていたのであろう、部屋の空気が一変した。
視線が一気にグウェンに集まる。
「……そうだね。結論から言えば……感かな?」
おそらくこの場にいたであろう、
皆の頭に?が浮かんだ。
「グウェン様……どういうこと?」
フィーロがズバリ皆の言いたいことを率直に聞いた。
グウェンは、うーんと困ったように唸ると、
説明を続けた。
「実はというと、魔術連邦国の使者の方々が来た時から、
なんか厄介そうな”縁”を持ってきているなぁとは思ったんだけど…」
「ん?ちょっと待ってください。
それって最初からこうなることがわかってたってことですか?」
紡がすかさず、疑問を口にした。
その問いに、グウェンはすぐに否定した。
「いやいや、さすがの僕も未来が見えてるわけじゃないよ」
「僕が見たのは彼らの……わかりやすく言うならば、
最終的な運命。ってことになるかな?」
「感覚的なものだからうまく説明しづらいんだが……
あの三人のうち、特にあのサイラス君は色濃く見えたからね。
まぁ、近々何らかの形で”破滅”するだろうなって……」
《破滅》、そんな物騒な言葉が出てきて、
ごくりとのどが鳴った。
「まぁ、運命ってのは変わりやすいし、
絶対ではないからね。見えたところで
いちいち干渉しないようにしているんだ」
「現に残りの二人は最後に見た時は
もう平気そうだったし、まぁサイラス君は仕方ないよ。
それだけのことをしたんだからね」
「その言い方だと、残りの二人も本来は《破滅》する
運命が見えてたってことですか?」
ヨハンが恐る恐る尋ねた。
驚いたように、目を見開くと。
静かに答えた。
「そうだね……でもそうならなかった。
……ということは、彼ら自身が変わったのか……
誰かによって変えられたのか。だろうね」
「まぁ珍しいことでもないよ、
さっきも言ったけど運命っていうものは、
些細なことで変わりやすい」
「でも、そんな変わりやすい運命を見たところで、
的確な指示ができる事とつながる気がしないんですが……?」
「フフッ、だから感。っといっただろう?」
グウェンの言葉を聞いて、
一人紡が、考え込んでいたかと思うと、
ゆっくり口を開いた。
「……それは、だれの縁を見ての感。だったんですか?」
グウェンは無表情でただ黙って見つめていたかと思うと、
フッと笑った。
「……アマノ君は、
本当に”縁”に対して鋭い感性を持っているみたいだね。
その体質と何か関係があるのかな?それとも……」
グウェンは紡の影を見つめた。
「誰かの干渉によって高められているのかな……?」
「答えて……くれないんですか?」
紡がグウェンを確かめるように尋ねる。
しばらくにらみ合いが続き、
グウェンが先にフッといつものように穏やかに笑った。
「降参だ。アマノ君が思っている通り、
僕が想像できたのは、3人の”縁”をみただけじゃない―」
「――全員だ」
「この街にいるすべての人を”視た”だから
向こうで少し情報を聞いてある程度想像できた。それだけだよ」
紡は絶句した。
(全員の”縁”を視る。
それは、想像できるものじゃないが。
人のたどる運命をが視えてしまうのは
耐えられるものなのだろうか)
(俺は、たぶん。何かのきっかけで”縁”がわかる時がある。
その一瞬だけでも、気が狂いそうになるほど苦しくなるのに。)
(全員を視る。それってつまり、
常に視えてしまっている。ということなんじゃないのか?)
(今この時も……)
紡は全身から嫌な汗が出てくるのを感じた。
「大丈夫だよ」
そんな紡を見透かしたように、グウェンが笑いかける。
「慣れてるからね。それがスクルディガー家に生まれた者の
”運命”なんだよ」
そう言うグウェンの目には、珍しく悲し気に見えた。
「――っ」
紡が何か口を開きかけた瞬間―
くぅ。というかわいらしいお腹の音が鳴った。
音の出所に自然と視線が移る。
その先には、お腹を押さえたフィーロがいた。
「グウェン様……話聞いてたらお腹すいちゃった」
「今の話でお腹すく要素なかったよね?!」
ヨハンが思わずツッコミを入れた。
グウェンがフフフと口を押えて笑った。
「そういえば、フィーロもお昼まだ食べてなかったからね。
仕方ないよ。遅くなったけど食事にしようか」
そう言うと、グウェンはフィーロの頭をなで、
出口に向かって声をかけた
「ネロとレオンも、一緒に食事にしよう。
あと……そこにスヴェンもいるんだろう?」
そういうと、ゆっくり扉があき、
バツの悪そうな顔をした三人が顔を出した。
「いつから……気づかれていたんですか?」
ネロが申し訳なさげに眉を下げながら尋ねた。
「いつからって……君たち、
僕の後ろにずっとついてきてただろう。
部屋に入ってこないから不思議には思っていたけど」
ギクッと、3人の方が跳ねる。
その様子を見てグウェンはクスクスと笑いだした。
「フフッ……アマノ君が心配なら素直に入ってくればいいのに。
本当に…君たちって不器用というか……」
その後もグウェンにからかわれるように笑われ、
みるみる顔が赤くなっていった。
笑い続けるグウェンの服の裾を、フィーロが控えめに引っ張る。
フィーロは、「早く」と言いたげな目で見上げていた。
「フフッ……さぁ。移動しようか」
グウェンはフィーロと手をつなぎ、
さっさと部屋から出て行ってしまった。
残されたものは、気まずい雰囲気のまま、
無言を貫いていた。
紡が耐え切れず、口を開いた。
「……俺達も行きましょう」
そう言うと、黙って頷き、各々食堂へと足を進めた。
――
―
遅い時間の食堂は人がまばらだった。
だが――
「グウェン様だ……!」
「スヴェン様もいらっしゃるぞ?」
「ご兄弟で珍しい……食堂に来るなんて……」
「公爵家の方々が、我々と同じ場所で……?」
「どうしてこのようなところに?」
ざわり、と空気が揺れる。
紡は横目でグウェンの横顔を見つめた。
当の本人はまったく気にしていないどころか、
どこかワクワクしているようだった。
スヴェンはというと、
グウェンとは違う意味でそわそわとしているように見えた。
ここの食堂はビュッフェ形式だ―
(貴族の偉い人って、こういうビュッフェ形式の
食堂何て来ないんだろうけど……
システムとかてわかってるのかな……
って、もう並んでる!!)
グウェンはにこにこしながらトレーを手に並んでいた。
スヴェンもグウェンを見ながら真似るように立っていた。
グウェンが料理を前にしてトングを取ろうとした瞬間
「グウェン様とスヴェン様の分は僕がやりますよ」
ネロがすっと手を伸ばして制した。
グウェンは笑顔のまま固まる。
その横で、スヴェンは少し安心したように見えた。
「ネロ?僕だってビュッフェの取り方くらい知ってるよ?」
「いえ、そうではなくて。
グウェン様に任せますと“お肉しか”取らないので」
グウェンが珍しく目を見開き、
ショックを受けたような顔をした。
「僕がしっかりバランスよく取り分けます。座って待っててください」
ネロはトレーを奪い、
せっせと料理を取り分け始める。
スヴェンはキラキラとした笑顔を向け
「ネロ、すまないね。さ、兄さん。
向こうで座って待っていよう!」
とグウェンの腕を引く。
「……わかった。頼んだよ、ネロ」
あきらめたように去っていくグウェンの背中は、
なぜか少し小さく見えた。
「ネロ、やらせてあげればいいのに」
「ダメです。グウェン様はお疲れなんですから。
しっかり栄養を取っていただかないと」
真剣に選ぶネロの横顔を見ていると、
心なしか“お肉多め”にしているのがわかり、
紡は静かに笑った。
全員分の食事がテーブルの上に並び、
皆が席に着いたところで、
食堂はなぜか静まり返った―
「では、いただこうか」
グウェンが落ち着いた声が食堂に響くようだった。
食事が始まると、周囲から感嘆の声が漏れた。
「さすがグウェン様……食べてる姿も素敵……」
「同じもの食ってるとは思えないな……」
「スヴェン様も……素敵だわぁ」
「なんか、あそこだけ高級レストランに見える……」
周りからの視線に慣れていない
紡やヨハンは少し気まずく感じながら、
食事を口に運ぶ。
ふと、グウェンに目が行くと、
丁寧に肉を切り分け、
優雅に口へ運んでいるところだった。
確かにその姿は、
テーブルマナーを完璧にこなしていて美しかった。
(……さっきからこの人肉しか食ってないけどな)
ネロが折角バランスよくお皿に盛りつけてくれたというのに、
グウェンは他には目もくれず、ひたすらに肉を食べていた。
グウェンの意外な面に、思わず笑いが洩れてしまった。
グウェンが顔を上げたことで、目があい、
紡はあわててごまかすように声をかけた。
「えっと……、
グウェン様って、本当にお肉が好きなんですね!」
それを聞いて、目を丸くしたかと思うと、
次の瞬間には目を細めるように、柔らかく笑い
「うん。好き」
と短く返した。
その瞬間――
その瞳が、
ほんの一瞬だけ 赤く光ったように見えた。
その後、グウェンは何事もなかったように、
また肉を切り分けていた。
こちらで2章は完結。となります。
3章にはいる前にある人物視点でのおまけを書きたいなぁと思っております。
よろしければ、まだまだお付き合いいただければ幸いです・・・




