第四十八話 ”ヨハン”の施し
昼下がりの街。
人通りの多い通りを、ヨハンの姿をした“何か”が歩いていた。
その歩き方は穏やかで、
声も優しく、
誰が見ても“ヨハンそのもの”だった。
だが――
その笑みの奥には、底知れない愉悦が潜んでいた。
”ヨハン”はある人を見つけると、
後ろからそっと声をかける
「こんにちわ、おばあさん。
この前は店に来てくださってありがとうございました」
振り返ったおばあさんは、
見慣れた薬師の姿に安心したように微笑む。
「あらヨハン先生。どうしたんだい?」
"ヨハン"はにこりと笑う。
「いえ。少し買い出しに。
おばあさんはもう腰は平気なんですか?」
「えぇヨハンさんからもらった薬はよく効くからね」
「それは良かったです。他にお困りごとはありますか?」
「あぁ、実は最近孫がよく疲れが取れないって言っててねぇ……」
「疲れですか……あぁ、それなら丁度いいものがありますよ?」
というと懐から淡い緑色の小瓶を取り出した。
「よければこちらを試してみてください」
「おや、これは?」
おばあさんは見慣れないその”薬”を見つめる。
「栄養剤です。いつも利用いただいているのでサービスで差し上げます。
飲んだら元気になるって、なかなか評判がいいんですよ?」
というと笑顔を向ける
「あらまあ……ありがとうよ」
おばあさんは疑いもせず受け取った。
「いえいえ、お大事になさってください」
”ヨハン”は満足げに笑った
何度もお礼を言いながら去っていく
おばあさんの背中に手を振りながら見送る。
「さて……次はだれにしようかな」
とつぶやくと”ヨハン”はまた歩き出す。
そして
道端に座り込む老人、
若い冒険者、
売り子の女性
声をかけられそうな者に片っ端から声をかけていく。
そして、
その相手は緑色の“薬”が握られていた。
街に静かに、しかし確実に”それ”は広がっていった。
”ヨハン”は楽しに歩き続ける。
――
―
ヨハンの無実を証明するため、
ナディアの指示のもと、再編の針の職員たちは一丸となって動いていた。
紡と鈴木も、情報集めのため街へ出ていた。
「緑色の魔力増強剤について、
何か心当たりはありませんか?」
「最近、ドッペルゲンガーの噂があって……」
聞き込みを続ける中、
一人の男性が思い出したように言った。
「あ、そういえば……
さっきヨハン先生から栄養剤だって、これもらったんだけど……」
紡と鈴木の動きが止まる。
「……ヨハンさんから?」
ヨハンは今、再編の針で保護されている。
街に出ているはずがない。
男性がポケットから取り出した小瓶は――
淡い緑色の“魔力増強剤”だった。
紡は思わず声を上げる。
「これ……飲みましたか!?」
「い、いや……仕事が終わってから飲もうと思って……まだ……」
男性は紡の勢いに一歩引きながら答える。
鈴木は深刻な顔で頭を下げた。
「申し訳ありません。
その栄養剤、こちらに譲っていただけませんか?」
「え?いや……でも」
「お願いします!どうしてもそれが欲しいんです……!!」
紡たちの必死さに押され、
男性は引き気味に小瓶を渡した。
「……あぁ、そんなにいうなら……どうぞ……」
「ありがとうございます!
……ちなみにどこでヨハンさんに声をかけられましたか?」
「ヨハン先生?それならあっちの通りで声をかけられたんだけど……」
「あっちは、大通りのほうですね……行きましょう!」
男性にお礼を言うと、紡たちは急行した。
大通りにつくと、多くの人が行き交っていた。
「これだけ多いなら目撃証言も多いでしょう。
手分けして探してー」
鈴木がそう言いかけた時――
「きゃあああああああ!!」
突然女性の悲鳴が響く、
その後も次々と別方向からも叫び声や怒号が飛び交う。
「な、なんだ……!?」
突然の出来事に、通りはパニックに陥り
奥から逃げ惑う人たちが押し寄せてきた。
紡達は人の波をかき分け、
パニックの中心となっている先へ進み、
目に入ってきたのは
理性を失い、精霊術をめちゃくちゃに放ち
暴れている精霊術士たちだった―
「これは……!まずい!紡君今すぐここから離れー」
「!鈴木さん伏せて!!」
鈴木がいいわ終わる前に紡が押し倒すと
頭上に精霊術士が放った礫がすごい速さで通過していく。
「……助かりました」
「いえ……それよりこれは…」
「最近話題になっていた、”精霊術士の暴走”でしょうね」
鈴木は努めて冷静に分析をする。
「ど、どうすれば……!」
「落ち着いてください。先ほどナディアさんには
連絡を入れました。きっとすぐに―」
その瞬間――
暴走した市民が数名、紡と鈴木へ突っ込んできた。
(危ない!!)
そう叫びかけたところで、
上空から二つの影が飛び込んできた。
その二人の姿を見て紡は驚きの声を上げる
「ミミルさんに…リリアさん?!!」
二人は着地と同時にリリアが魔術を展開する。
「《拘束陣》!」
暴走者たちが一瞬で地面に縫い付けられる。
ミミルは獣のような鋭い気配をまとい、
足技で次々と暴走者を無力化していく。
「ミミルさん……すご……」
紡は口をあんぐりと開けた。
鈴木は安堵の息を吐く。
「さすがですね……!」
その小さなつぶやきにも気づいたミミルが、
いつもの明るい笑顔で親指を立てた。
「ここは私たちに任せてください!」
そんなミミルにリリアは抱きつきながら叫ぶ。
「ミミルちゃん! 頼もしい! かわいい!」
この混乱の中でも二人はいつも通りだった。
状況を飲み込めず戸惑う紡の視界に――
ふと、一人の男が入った。
その瞬間。
紡の“縁”が激しく震えた。
(この……“違和感”……!)
男は紡の反応に気づいたのか、
心底嬉しそうに目を細め、
誘うようにふらりと路地へ入っていく。
「……あいつ……! 待て!!」
紡が駆け出す。
「ちょ!天野さん?!」
鈴木も慌ててあと追う。
路地の奥で男を追い詰めると、
男はにやりと笑いながら振り返った。
「うれしいなぁ……やっぱりわかるんだぁ……フフッ」
その声は、
あの日、紡が感じた“違和感”そのものだった。
鈴木が息を呑む。
「天野さん……この人は?」
紡は震える声で答える。
「……この前見た顔とは違いますが……
間違いありません。この人……あの時の“同じ人”です!」
それを聞くと、男は腹を押さえながら笑い出した。
「アハハ!すごいねぇ!ねぇどうしてわかるのぉ?!」
笑いすぎて涙を流し、
それを指で拭いながら、
心底楽しそうに紡を見つめる。
紡は一歩前に出て言った。
「……あなたがヨハンさんの姿で
“魔力増強剤”をばらまいていたんですか?」
男は――
ぞっとするほど嬉しそうに笑った。
閲覧いただきありがとうございます。
やっと古の戦いがおわったので、
やっとまともに寝れる……
なんだかんだ、毎日投稿続けられてよかったです……
明日もよければまた見て下さい




