第四十七話 動き出す影
グウェンが連行され、扉が閉まった直後――
部屋には、重苦しい沈黙だけが残った。
ネロは拳を震わせ、
今にも壁を殴りつけそうな勢いで叫んだ。
「……クソッ……!なんで……グウェン様が……!」
レオンは深く息を吐き、
怒りを押し殺した声で言う。
「ネロ、落ち着け。
ここで俺たちが暴れれば、あいつらの思う壺だ」
ネロはギッとレオンを睨む
「落ち着けだと……?これが落ち着いていられるか……!」
その時――
サイラスがゆっくり振り返った。
「さて。
あなた方にも”事情聴取”が必要だな」
その声に合わせて、
周囲に控えていた魔術官たちが杖を構え、ネロたちを囲む。
レオンは冷静に言った。
「……俺達も拘束するつもりか?」
サイラスは薄く笑った。
「拘束? ……ハハッ、まさか。
あなた方は“保護”しますよ。大事な証人ですからな」
丁寧な言葉とは裏腹に、
その奥に潜む意図は明らかだった。
(外部との連絡を遮断するつもりか……)
(外部との連絡を取らせないつもりか……)
ネロは怒りをにじませる表情で静かに言う。
「つまりは……軟禁だろ」
サイラスは否定しなかった。
ただ、不気味に笑った。
「ご理解が早くて助かります。
では――案内しろ」
魔術官たちはそれぞれ、
グウェンと同行してきた職員たちを挟み、塔の奥へ歩き出す。
ネロは抵抗しようとしたが、
レオンが肩を掴んで止め、小声で囁く。
「ネロ。今は動くな。
ここで暴れれば、本当に全員拘束される」
「……ッ……!」
ネロは悔しさで歯を食いしばり、
拳を握りしめたまま歩き出した。
――
案内された部屋は、
何も置かれていない、妙に静かな部屋だった。
扉が閉まると同時に、
カチリ と重い鍵の音が響く。
ネロが振り返る。
「……鍵、かけやがった……!」
レオンは扉に手を触れ、魔力の流れを探る。
「……内側からは開かない。
結界も張られている……完全に閉じ込められたな」
ネロは壁を殴りつけた。
「ふざけやがって……!
あいつら……絶対に許さん……!」
レオンは静かに言った。
「ネロ。
怒りはわかる。
だが――今は状況を見極める方が先だ」
ネロは肩で息をしながら、
ゆっくりと壁から手を離した。
「……レオン。
お前、今日は妙に冷静だな……」
レオンは自嘲気味に苦笑した。
「前にグウェン様に叱られたからな。
“落ち着いて動くべきだ”って……」
そして伏せていた目をゆっくり上げる。
「それに――
グウェン様は連れていかれる前に、こう言っていた。
『心配することは“何も起きない”』ってな」
ネロの目が見開く。
「それって……?」
レオンは静かに頷いた。
「信じよう。
ノルンの契約者――
グウェン・スクルディガーを」
――
―
誰もいない廊下に、
コツ、コツ、と規則正しい足音だけが響いていた。
男は周囲を一度だけ確認すると、
自室の扉を静かに開け、中へ入る。
扉が閉まる音はやけに重く、
続けて――
カチリ と鍵を施錠する音が響いた。
部屋の主であるサイラスは、
誰にも聞こえないほど小さく息を吐く。
そして、
袖に隠していた小型の魔法具へ指先をそっと触れた。
淡い光が一瞬だけ揺らぎ、
“誰か”との通信が繋がる。
次の瞬間――
耳元に、ねっとりとした声が響いた。
『そちらはうまくグウェンさんを拘束できたみたいですねぇ……』
くすくすと笑う声。
男とも女ともつかない、湿ったような声音。
サイラスは眉一つ動かさず答える。
「当然だ。
こちらの段取りに抜かりはない。
……そちらは計画通り進んでいるんだろうな」
『えぇ、概ね計画通り進んでますよぉ。
……ご心配なく』
声の主は楽しげに笑い、
まるで“遊び”の続きを期待しているかのようだった。
サイラスは冷たく言い放つ。
「ならばいい。
こちらは予定通り次の段階へ移る」
通信が切れ、光が消える。
サイラスはもう一度だけ小さく息を吐き、
椅子に深く腰を下ろした。
その表情には、
先ほどまでの“公的な顔”は一切なかった。
――
―
薄暗い路地裏。
魔術具の光が消えると同時に、
“声の主”は肩を震わせて笑った。
「面白い人も見つけましたしぃ……
フフッ、想定外でしたがぁ……良い報告ができそうですねぇ……」
舌で転がすような声音。
「ある程度手伝ったら適当に引き上げるつもりでしたがぁ……
もう少しだけ付き合ってあげますかぁ……」
その笑みは、
人間のものとは思えないほど歪んでいた。
次の瞬間――
その身体が煙のように揺らぎ、
輪郭が崩れ、
形が変わっていく。
影が伸び、縮み、ねじれ――
そこに立っていたのは、
ヨハンの姿をした何かだった。
「……さて。
次はどんな顔をしてくれるでしょうねぇ……」
ヨハンの顔で、
ぞっとするほど楽しげに笑った。
まぁですよね。って感じですよね。
わかります。でも私はこういう展開。
好きなのでこの王道真ん中をロードローラーで突き進む気持ちで押し通ります。
もしこのロードローラーに相乗りしていただけるなら
明日もよろしければお付き合いください。




