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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第二章 覚悟
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第四十六話 罠

扉が静かにパタンと閉まった。

紡は反射的に駆け出していた。


「天野くん!?」

背後で鈴木の驚く声が聞こえる。


勢いよく扉を開け放ち、外へ飛び出す。

だが――


さっき出ていったはずの職員の姿は、どこにもなかった。


「今の人……どこに行ったんだ……」

悔しさを噛みしめながら、紡は周囲を見渡す。

だが、もう“違和感”はどこにも感じられない。


(さっきの……なんだったんだ……

グウェンさんなら、何かわかるのかな……)

胸の奥に残るざわつきを振り払うように、紡は頭を振った。


「天野さん! 突然走り出したと思ったら……何をしているんですか?」

息を切らしながら鈴木が駆け寄ってくる。


「あ、あの……怪しい人を見かけた気がして……」

「怪しい人? どんな?」

「いや……見た目は普通なんですけど……なんか……こう、“違和感”があって……」

「……はい?」

「いや、冗談じゃなくて……直感的な……!」

必死に説明しようとする紡だったが、

鈴木の表情はどんどん困惑に染まっていく。

「……すみません。僕にはちょっと……わからないです…」

「ですよね……」

紡は苦笑するしかなかった。


鈴木が思い出したように言う。

「そうだ。ナディアさんから追加で共有したいことがあるらしいんです。

その天野君が見たという怪しい人も気になりますが、一旦ロビーに戻りましょう」

「……はい」

紡は一度“違和感”を胸の奥に押し込み、

ロビーへ戻った。


ロビーでは、ナディアが深く息を吐いていた。


「どうされたんですか?」

鈴木が駆け寄る。


ナディアは深刻な表情で言った。

「さすがにここまでの事態となると、グウェン様に報告せねばと思い、

先ほどから連絡用の魔術を使用しているのですが――」

一拍置いて。


「――連絡がつかないんです」


「……え?」

紡は思わず声を漏らした。


ナディアは続ける。

「連絡用の精霊術を使える職員にも試してもらいましたが、

反応がありません」


鈴木の顔が強張る。

「そんな……グウェン様が連絡を無視するなんて……」

「ありえません。

だからこそ、私は“向こうでも何か起きている”と考えています」

ナディアの声は落ち着いていたが、

その奥には焦りが滲んでいた。


「今はとりあえず、内部の安全確保を最優先します。

グウェン様への連絡は……引き続き試みましょう」


紡の胸の奥で、

“縁”がかすかに震えた。

(……グウェンさん……?)


――

同じころ。


マルクシオン魔術連邦・中央研究塔。


帰還術の最終調整を終え、

書類へのサインなど、事後処理を終わらせたグウェンは、

静かに書類を閉じて席を立った。


「さて……そろそろ戻らないと。

ナディア君達も心配しているだろうしね」

その声はいつも通り穏やかだった。


「はい、グウェン様準備をしてまいります」

とネロが頭を下げ準備に取り掛かろうとする。


だが――

部屋の扉がノックもなく開いた。


黒いローブをまとった三人の魔術官が入ってくる。

先頭に立つのは、ローブを着た男性――サイラス・グレイン。


「グウェン・スクルディガー殿。

少々、お時間をいただきたい」


グウェンは眉をひそめた。

「……サイラス殿。

勇者帰還術後の事務処理はすでに完了しております。

これ以上、私に用は――」


「ありますよ」

サイラスは笑っていなかった。


その目は、冷たく、計算された光を宿している。

「あなたがグラウフェルト王国から持ち込んだ“薬品”について、

いくつか確認したい点がありましてね」


グウェンの表情がわずかに揺れる。

「薬品……? 魔力増幅剤のことかい?

あれは帰還術の補助のためにと、

あなたの要望で用意したものですが?」


「ええ、その“魔力増幅剤”です」

サイラスは書類を一枚、机に置いた。


そこには――

淡い緑色の液体が残った小瓶の写真。


「この薬品が、現在グラウフェルト王国で多発している

“精霊契約者暴走事件”の現場から見つかっています」


グウェンの瞳が鋭くなる。

「何を言っているのですか…?

用意していた薬は“青色”のはずです。

その事件となんの関係が?」

「おや?

しかし記録には”これと同じものをあなたが大量に持ち込んだ”と残っている」

サイラスの声は淡々としていた。


だがその背後で、魔術官たちが静かに杖を構える。

グウェンは一瞬で状況を理解した。


(……罠か)


サイラスは続ける。

「容疑者である薬師ヨハン・リンドホルム。

そして、ヨハンから仕入れた大量の薬をマルクシオン魔術連邦に持ち込んだあなた。

どちらも、我々としては調査せざるを得ない」


「サイラス殿。

あなたは――」


「グウェン殿。

あなたを“保護拘束”します」


その言葉と同時に、

魔術官たちの足元に魔法陣が展開された。


グウェンは反射的に精霊術を練る――

だが、部屋全体に張り巡らされた封印術式がそれを阻む。


(!?……この部屋自体が、最初から“拘束用”に準備されていたのか)


サイラスが静かに告げる。

「抵抗は無意味です。

あなたほどの精霊術師を相手にするため、

特別な封印室を用意しましたので」


グウェンは深く息を吸い、

ゆっくりと手を下ろした。

「……なるほど。最初からそのつもりだったわけですか」


サイラスは薄く笑う。

「ご協力、感謝しますよ。

あなたほどの人物が暴れれば、

こちらも被害が出ますからね」


魔術官たちが近づき、

封印具をグウェンの手首にかける。

冷たい金属が触れた瞬間――

グウェンの全身の力が抜ける感覚がした。


目の前でグウェンの手に拘束具がつけられ、

苦しげな表情のグウェンを見て

ネロの中で何かが切れた。


「貴様ら……ふざけるなッ!!」


ガンッ!


ネロは床を蹴り、サイラスへ飛びかかろうとした。

が、それらは近くにいた魔術官に阻まれ、

サイラスには届かなかった。

だがネロの目は殺気を浴びた獣のように鋭く光っていた。


レオンも即座に反応し、

魔術官たちの前に立ちはだかった。

「これ以上の無礼は許さない。

説明もなく拘束とは……魔術連邦はどういうつもりだ」

その声は低く、怒りを押し殺している。


サイラスは振り返り、

まるで虫を見るような冷たい目で二人を見た。


「先ほど説明をしたのを聞いていなかったのか?

……お前らも抵抗するなら……どうなるかわかっているな?」


その一言で、

魔術官たちが一斉に杖を構え、魔法陣が展開される。


ネロはさらに一歩踏み出そうとした――


だが。

「ネロ、レオン……やめなさい」


グウェンの声が、

封印具で弱ったはずなのに、

不思議と強く響いた。


ネロは振り返る。

「で、でも……!グウェン様が……!」

グウェンは静かに首を振った。

「大丈夫……心配することは”何も起きない”よ……」


その言葉に、サイラスがピクリと反応し

憎らし気にグウェンをにらみつけた。


レオンは低く唸るように言う。

「サイラス殿。

あなた方のやり方はあまりに強引だ。

正式な手続きもなく拘束とは……」


サイラスは薄く笑った。

「正式な手続きなら、ここにありますよ」


魔術官が差し出したのは――

“拘束命令書”。


「なっ!?」

レオンの表情が凍る。


(……完全に準備されている)


ネロは怒りで顔を真っ赤にし、

今にも飛びかかりそうだった。

「貴様ら……!

最初から仕組んでいたのか?!」


再び魔術官たちが一斉に魔力を高める。

その瞬間――


グウェンが叫んだ。

「ネロ!! 下がりなさい!!」


ネロの身体がビクリと止まる。

グウェンは優しく、しかし強い声で続けた。

「……君がここで傷つくのは、私が一番望まないことだ」


ネロの瞳が揺れる。

「……グウェン様……」


レオンがネロの肩を掴み、

静かに言った。

「今は……従うしかない。

ここで戦えば、全員捕まる」


ネロは悔しさに震えながら、

ゆっくりと拳を下ろした。


サイラスは満足げに頷く。

「賢明な判断です。

では――連れて行け」


魔術官たちがグウェンを囲み、

封印室の奥へと連行していく。

ネロはその背中を見つめ、

拳を強く握りしめた。


扉が閉まる音が、

やけに重く響いた。


本日も閲覧いただきありがとうございます。

ナディアさんの懸念した通り、グウェンさんのほうでも

大変なことが起きちゃうわけですね。

現場からは以上です。


明日もよろしければお付き合いください……頑張って投稿できるようにしますので……

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