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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第二章 覚悟
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第三十九話 魔術連邦の使者

「さて、天野君。仕事に戻ろうか。

午後からは僕の隣でサポート業務の研修予定だから」

鈴木は頑張ろうと腕を上げる。


「はい」

ロビーに戻り、受付窓口で業務説明を受けていると――

ちょうど入口から見覚えのある白衣の青年が入ってきた。


「……ヨハンさん?」

紡が声をかけると、ヨハンはぱっと顔を明るくし、

受付まで駆け寄ってきた。


「天野さん! それに鈴木さん! お久しぶりです!」

鈴木も笑顔で返す。

「ヨハンさん。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


そしてふと首をかしげる。

「……あれ? 天野君とはどこかでお知り合いだったんですか?」

ヨハンが嬉しそうに頷く。

「ええ。確かあの時は、ラオフさんのお使いで私のお店にいらしたんですよね」

「あぁ、なるほど」

鈴木が納得したように頷く。


ヨハンは純粋な目で紡を見る。

「その制服……天野さんこちらで働いているんですか?

てっきりラオフさんのところで働いているのかと思ってました」


紡は少し気まずそうに笑う。

「えぇ、まぁ……色々ありまして」

鈴木が話題を切り替える。

「ところで今日はどういったご用向きですか?」

ヨハンは「あ、そうでした」と手を叩き、

発注書を差し出した。

「グウェンさんからのご依頼で、こちらにご注文のお品をお届けに参りました」

鈴木は発注書を受け取り、目を通す。

「実物を拝見しても?」

「はい。表に用意してます。数が多いので」


鈴木は紡に目を向ける。

「天野君、確認を手伝ってくれる?」

「はい!」


二人はヨハンと共に外へ出て、荷物を確認した。

木箱がいくつも積まれ、中には瓶入りの薬品がぎっしり詰まっている。


鈴木が一本手に取りチェックを始める。

紡は木箱の数を確認しながら、横目で鈴木の手元を見てふと気づいた。


(あれ……?鈴木さんが持ってるあの薬……

今朝倉庫で見た……”魔力増強剤”ってやつに似てる?)

気になった紡はヨハンに声をかけた。

「ヨハンさん。この薬って”魔力増強剤”ですか?」

ヨハンは少し驚いたが、すぐに答えた。

「…!え、えぇその通りです。よくご存じでしたね」

「今朝、倉庫整理のときに教えていただいたんですが……

色がよく似ていたので。俺が見たのはこれより少し色がくすんでた気がしますが……」


それを聞くと、ヨハンは嬉しそうに木箱から一本取り出し語り始めた。

「”魔力増強剤”は使った素材によっても色が異なるのですが、

この国でとれる素材を使うとどれも”青”に近い色になるんですよ!

今回ご用意したものはすべて僕が作った薬なんですが、

素材を厳選しておりまして!

市販のよりも透き通っていてきれいな”青色”をしているんですよ!

さらに!効果も市販のものよりも持続性・効能も高まっておりまして――」

「あはは……そうなんですねぇ」

(めちゃくちゃ語りだしたぞ……ヨハンさん相当こだわりがあるんだな……)

その後も嬉々として薬の研究について語り続けるヨハンの話を

紡は笑顔で聞きながら、

(今後ヨハンに薬の話を振るのはやめよう)

と静かに決意した。


ーーーーーーーー


「……はい。問題ありませんね。ありがとうございます」

鈴木は発注書にサインをしてヨハンに返す。

ヨハンは営業スマイルを浮かべた。

「いえいえ。今後もごひいきにとお伝えください」


紡はふと疑問を口にする。

「そういえば……“魔力増強剤”って……グウェンさん、何に使うんですか?

結構な量ありますよね?」

鈴木は腕を組み、少し考えてから答える。

「おそらく、マルクシオンに持っていくものでしょうね。

《勇者帰還》の術は魔術だから……しかしなぜグウェン様がご用意を……?」


(あぁ……差し入れ的なやつ……?

いや、そんな軽い話じゃないのか……?)


そう考えていると――

入口の扉が開き、ネロが大きな荷物をいくつも抱えて出てきた。


「おい、入り口をふさぐな」

「あ、ごめん!」

紡は慌てて端に寄る。

鈴木がネロに声をかける。

「手伝うよ」

鈴木はネロから少し荷物を受け取った。

「この荷物……もう出立するのかい?」

ネロは苛立ちを隠さず答える。

「あぁ……あいつら、グウェン様の都合も考えず……」


ネロの険しい表情を見て、

紡は嫌な予感を覚えた。


―――

――

執務室の前に着くと、扉の向こうから複数の声が聞こえた。

ナディアが軽くノックするとネロが扉を少し開け確認する


「グウェン様、ナディアが来ました」

「どうぞ」グウェンの声が聞こえ、

ナディアは「失礼します」と中へ入った。


そこには――

すでに三人の“マルクシオン魔術連邦”の使者が立っていた。


黒髪をきっちりまとめ、無駄のない動きで淡々と書類を確認している女性。

腕を組み、こちらを値踏みするような鋭い視線を向ける気難しそうな青年。

そして、不機嫌そうに座るローブを着た男性。


ローブの男はナディアを見ると、

ほんの一瞬だけ口元を歪めた。

挑発とも嘲笑ともつかない、嫌な笑み。


部屋の中央にはグウェンが立っていた。

いつもの落ち着いた表情だが、瞳は鋭い。


「急に呼び出してすまなかったね、ナディア君。来てくれてありがとう」

「状況は把握しました。

グウェン様、すぐに出発されるのですね」

「あぁ。帰還術の準備が整った以上、こちらも迅速に動く必要があるからね。

急で悪いけどーー」

グウェンがナディアに話し始めると

真面目そうな女性使者が一歩前に出て話に割り込んできた。

「スクルディガー家の契約者、グウェン殿。

準備はすでに整っております。

本日中にマルクシオンへ向かっていただきます」


気難しそうな青年が鼻を鳴らす。

「遅れは許されん。帰還術は繊細なのだ。

そちらの都合で時間を無駄にされては困る」


ナディアが一瞬だけ眉をひそめるが、

グウェンは静かに受け流した。

「ご心配なく。すぐに出発します」


「ナディア君。すまないがしばらく留守にする。後を頼めるかな。

引継ぎしたい急ぎの件はこれにまとめたから確認してくれ」

グウェンは書類の束を渡す。


ナディアは姿勢を正し、深く頷いた。

「お任せください」


「もういいか?さっさと出発してもらわないと今日中につかないだろう」

青年使者が嫌味な笑顔で言い放つ。


グウェンは落ち着いた声で指示を出す。

「承知しました。ネロ、先に行って荷物を運んでおいてくれ。

すぐに僕も行く」

ネロは深くお辞儀をし、すぐに行動に移った。


「では、我々は一足先に出発するよ。

お待ちしておりますよ、グウェン殿」

三人の使者は執務室から退出していく。


最後の一人、ローブの男が出ていく直前に振り返る。

「そうだグウェン殿、お願いしていたものは用意できたかね?」


グウェンは笑顔で答える

「えぇ、何とか手配できました。

もう届いていることかと思いますのでご安心ください」


「そうか、それを聞いて安心したよ」

満足げに言い残し、男は部屋を出ていった。


三人が去ったのを確認すると、

ナディアが小さくため息をつく。

「そんなに急ぎなら、事前にご連絡をいただければ……」

グウェンは手で制しながら苦笑した。

「仕方ないさ。

共同研究とは言え、現状は魔術連邦に任せっきりになってしまっているからね」

そういうとグウェンはナディアに向き直り

「では、任せたよナディア君」

と告げ、グウェンも執務室を後にした。


――

―――


レオンが黒い馬車を表に用意し、

ネロは無駄のない動きで荷物を積み込んでいく。

鈴木と紡、そしてヨハンもその手伝いに加わった。


「これ、そっちにお願いします」

ヨハンが冒険者たちに指示を出しながら、軽やかに動く。


そんな中――

入口から三人の人物が出てきて、紡の横を通り過ぎた。


最後に出てきたローブの男を見た瞬間、

紡の背筋がぞくりとした。


(あの人…!ミミルさんに暴言を吐いていた……!)


男は紡に気づいたようだが、

フン、と鼻で笑い、そのまま止めてあった白い馬車に乗り込んだ。


馬車はすぐに走り出し、視界から消えていく。

紡が険しい表情で馬車の去った方向を睨んでいると、

鈴木が気づいて声をかけた。

「どうしたの?」

「今のローブを着た男の人……ミミルさんに暴言を吐いてた人です」

鈴木が驚いたように目を見開く。


その横で、ネロが低い声で言った。

「あいつらはマルクシオン魔術連邦から来た使者だ」

その声音には、はっきりとした不機嫌さが滲んでいた。


レオンが荷物を抱えたまま近づいてくる。

「なんかあったのか?」

鈴木は苦笑しながら肩をすくめた。

「いや、まぁ……色々あってさ」


準備が終わったころ、

執務室からグウェンが姿を見せた。

「みんな、準備ありがとう。……おや、ヨハン君。久しぶりだね。

君も手伝ってくれていたのかい?」


ヨハンはにこりと笑う。

「あ、はい。荷物は届け終わって時間もあったので」

「そうですか。ありがとうございます。

今度何かお礼をさせていただきますね」

「恐縮です」

二人は穏やかに微笑み合う。


ネロがグウェンの前に立ち、深く頭を下げた。

「準備、整っております」

「じゃあ、出発しようか。レオン君も準備は良いね」

「はい。護衛部隊、準備万端です」

グウェンは満足そうに頷き、

鈴木と紡の方へ向き直った。


「じゃあ、少し離れるけど……後は頼んだよ。

アマノ君も、無理はしなくていいから。

まずはここに慣れることを優先して」

紡はしっかりと頷いた。

「はい」


グウェンは微笑み、馬車に乗り込む。

黒い馬車はゆっくりと動き出した、


その背中が見えなくなるまで、

紡は静かに見送っていた。



いつもご覧いただきありがとうございます。

小説を書き始めてあっという間に1ヶ月がすぎて

時の流れに驚いております!


明日もよろしければ閲覧いただければ幸いです

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