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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第二章 覚悟
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第三十八話 静かな午後に落ちた影

ナディアに案内され、紡とミミル、そしてリリアは応接室へ移動した。

ミミルはまだ泣き止んだばかりで、肩が小さく震えている。


ナディアは静かに扉を閉め、ミミルの前に膝をついた。


「ミミルさん。まずは深呼吸をしましょう。

大丈夫、ここは安全です」


ミミルはこくりと頷き、震える息を整えようとする。

リリアはミミルの隣に座り、そっと手を握った。

「ゆっくりでいいからね。安心して……」


ミミルはぎゅっと唇を噛み、しばらく俯いていたが――

やがて、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……街で……男の人とぶつかってしまって……

その人が……“獣人は穢らわしい”って……」

声が震え、涙がまた滲む。

「“大通りを歩くな”って……怒鳴られて……

わたし……怖くて……」


リリアがミミルの背中を優しく撫でる。

「ミミルちゃん……そんなこと言われたのね」


ナディアの表情がわずかに険しくなる。

「その男は、どんな格好をしていましたか?」

ナディアは紡にも事情を確認する


「……ローブを着てて……貴族みたいな……

近くにいた店主の人が、“マルクシオン魔術連邦の人だろう”って……」

ナディアは小さく息をつくと、紡の方へ向き直り

「アマノさんは”マルクシオン魔術連邦”についてどの程度ご存じですか?」

「えっと……魔術師が多くて、魔術の研究で発展した国で……

あ、あと……」


言いづらそうに続ける

「魔術を使わない種族――獣人や精霊術師なんかを見下す人もいるって……」


ナディアさんは眼鏡を指で上げる

「もちろん、全員がそうではありません。

ですが確かに、魔術連邦の一部の上層部にはその思想が強い者がいます。

今回のようなことは……悲しいですが、珍しくないのです」


ミミルはリリアの肩に寄りかかりながら、

すすり泣く。

紡は拳を握りしめ、そっとミミルの隣に座った。

「ミミルさんは、何も悪くないです」

ミミルは涙を拭いながら、紡を見上げた。

「……アマノさん……ありがとう……」


その時、控えめにコンコンと扉がノックされる。

「鈴木です。少しよろしいですか」


「……どうぞ」

ナディアが声をかけると、鈴木がゆっくり入ってくる。

「ナディアさん。少しいいですか」


鈴木が耳打ちすると、ナディアは短く頷いた。

「すみません。少し席を外します。

ミミルさん、しばらくこちらで休んでください。

リリア、付き添ってあげて」


「もちろんです」

リリアはミミルの背中を優しくさすりながら言う。

「大丈夫。ここにはミミルのこと好きな人しかいないよ」

ミミルは涙をこぼしながらも、小さく頷いた。


ナディアは紡に目線を向ける。

「アマノさんも、一緒に来てくれますか」

ナディアに促され、紡は応接室を後にした。


廊下に出ると、鈴木が少し困ったような、しかし落ち着いた表情で待っていた。

ナディアが小声で尋ねる。

「……それで、先ほどの話とは?」

ただならぬ雰囲気に

(俺はこのままいても大丈夫なのか?)

と不安に思っていると


鈴木は一度紡の方を見て、

「聞かれても問題ない内容です」と軽く頷いてから説明を始めた。


「先ほど、マルクシオン魔術連邦の“使い”の方が来まして……

一名分の《勇者帰還》術の準備が整ったとの連絡が入りました」


ナディアの表情が一瞬で引き締まる。

「……そうですか。思ったより早いですね」

鈴木は続ける。

「そのため、グウェンさんがすぐにでも

魔術連邦へ向かわなくてはいけなくなったようで……

ナディアさんに引継ぎしたい件があるから急ぎ執務室に来てほしいと……」


ナディアは短く息を吸い、眼鏡を押し上げた。

「……わかりました。すぐに向かいます」

そして紡の方へ向き直る。


「アマノさん。先ほどはミミルさんのそばにいてくれて、ありがとうございました。

急ぎの要件のため、こちらで失礼いたします」

その声はいつも通り落ち着いていたが、

その奥には“急ぎの用件”特有の緊張が滲んでいた。

「ミミルさんのことは、鈴木さんに任せます。

アマノさんも、午後は予定通り鈴木さんの隣についてサポート窓口の仕事の研修を受けてください」

「……はい」

紡が頷くと、ナディアは軽く会釈し、

足早に廊下を進んでいった。


その背中は、

“グウェンの右腕”としての責任を背負う者のものだった。



ナディアが去ったあと、鈴木が紡に向き直る。

「天野君。色々あったようだね。お疲れ様」

紡は小さく息を呑む。

「……あの、《勇者帰還》って、異世界人を元の世界に戻す術ですよね」

「……そう。一応“各国で共同研究”という建前だけど、

実際は魔術連邦が中心になって“帰還魔術”を研究・開発しているんだ」


鈴木は続ける。

「グウェンさんは“再編の針”のリーダーとして異世界人の付き添いをするだけじゃなく、

《勇者帰還》でも重要な役割があってね」


「役割?」

「うん、天野君はグウェンさんの精霊術について……何か聞いてたりする?」

「…いや、正直全然」

「そっか。

グウェンさんは代々一族で精霊ノルンと契約していて、

“縁”を操作する精霊術に長けてるんだ」


「精霊……ノルン?」

「うん。《勇者帰還》には魔術が使われるんだけど、

今の技術では“帰還先の座標”がまだ安定してなくてね。

そこで、精霊ノルンの契約者であるスクルディガー家が

精霊術で“異世界人と元の世界の縁”をつないで

座標を安定化させる役割を担ってるんだ」


(そんなすごい役割も担ってるのか……)


「だから、グウェンさんが直接向かう必要があるんだ」

紡は胸の奥がざわつくのを感じた。


(魔術連邦……

さっきミミルさんを傷つけた男の国……

そんな場所に、グウェンさん達が……)


鈴木は紡の不安を察したのか、

優しく肩に手を置いた。

「大丈夫。グウェンさんは強いし、ネロ君とレオンさんもついていくから。

それに、僕たちもここで支えるからね」



紡はレオンの名前を聞いて少しぎょっとする。

「そんな重要な役割を控えてるのに……大丈夫なんですか、その……」


鈴木は苦笑しながら肩をすくめた。

「言いたいことはわかるよ。

でもレオンさんも、いつも悪いことばかり起こすわけじゃないしね。

戦闘部門の副リーダーとしての実力を見れば、

グウェンさんたちの護衛としては他にいないくらいの逸材なんだ。

それに、グウェンさんがいればレオンの変な”縁”は事前に対処してくれるだろうしね」

そう言って笑って見せる。

紡は鈴木のその笑顔を見て少し安心した。


少し長めでかつちょっと説明が多くなってしまったのですが、

わかりづらいところがあればコメントいただければ補足などをどこかで入れようと思います……


引き続きお楽しみいただければ幸いです

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