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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第二章 覚悟
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第三十六話 業務開始

朝。

薄い光が差し込む部屋で、紡はゆっくりと目を覚ました。


「ん……ふぁぁ……」


まだ眠気は残っているが、

生活支援部門の職員になってから数週間、

この時間に起きるのはすっかり習慣になっていた。



ベッドから起き上がり、

支給された制服に袖を通す。


(……今日も一日、やるかぁ)


胸元の紋章を軽く整え、

紡は朝食を摂るために部屋を出た。



食堂には、朝早い時間だというのに

すでに何人かの職員が朝食をとっていた。


紡は食事を乗せたトレーを持って

窓側の席へ向かうと――


「おはようございます。アマノさん」


明るい声とともに、リリアが手を振ってきた。

その隣では、ミミルがパンをかじりながら

軽く会釈をする。


「あまのさん…おはようございますぅ……」

ミミルは朝が弱いのか、いつものこの時間だけは元気がなく、

今も目を閉じ、半分寝ながら食事をしている様子だ。


「リリアさん、ミミルさん。おはようございます」

紡が笑顔で返すと、

リリアが「どうぞ」と席を示してくれた。


少し離れた席では、鈴木がコーヒー片手に書類を読んでいた。

紡に気づくと軽く手を上げる。

「お、天野さん。おはようございます。今日も早いですね」

「なんだかこの時間に目が覚めるようになりました」

「あははは、もうすっかり慣れたみたいだね。今日もよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


談笑しながら食事をとっていると、

奥からナディアが姿を見せた。


「アマノさん。おはようございます。

朝食が終わりましたら、本日の業務を割り振りますので、

後程事務室まで来てくださいますか」


「わかりました」


ナディアは相変わらずの落ち着いた表情で

紡に軽く頷いて去っていった。


(……なんか、この生活にも慣れてきちゃったな)


スープを口に運びながら、紡はふと自分の変化を感じていた。


以前は、他人とかかわることを避けがちで、

バイト先でも同僚や上司と食事をしたり

談笑するなんて考えられなかった。


けれどこの世界に来て、

グウェンさんや再編の針(リ・ウィーヴ)の職員たちと関わる中で、

他人と話すことへの恐怖が少しずつ薄れていった。


定期的にグウェンさんが“縁”の調整をしてくれているおかげだろうか。

心がほぐされていくような、不思議な感覚があった。


そうこう考えている間に食事も終えたため、

紡はナディアの元へ向かった。


事務室では、ナディアが予定表を手にして待っていた。


「では、アマノさんの本日の業務を説明します」

ナディアが淡々と読み上げる。


「午前中は館内の掃除。今日はロビーと受付窓口をお願いします。

その後は倉庫の整理。ミミルが一緒に担当します」

「はい」

「午後は、整理の際に不足していた備品の買い出し。

それが終わり次第、鈴木さんの隣について

異世界人サポート業務の実践研修を受けてください」



「……異世界人サポート。ですか」

不安そうな紡に、ナディアはまっすぐ視線を向ける。

「ええ。アマノさんも生活に慣れてきたようですし、

そろそろ実務を経験していただきます。

あなたは“異世界人”としての視点を持っています。

それは私たちにはない強みです。自信を持ってください」


「……はい!」

期待されていることが嬉しくて、

胸の奥が少しだけ熱くなる。


その時、ミミルがひょこっと顔を出した。


「アマノさん!私は先に倉庫で整理を始めてるから、

掃除が終わったら来てね!

今日はめっちゃ散らかってるから覚悟してきたほうがいいよ~!」


朝食で完全復活したのか、

ミミルはいつも通り元気いっぱいだ。


ふとミミルの発言が引っかかった。


なぜなら、倉庫は一昨日鈴木と一緒に掃除をしたばかりだったのだ。

その際はきれいに整頓されていたはずだ。


(嫌な予感がする……)


「ちょっと待ってください。倉庫は一昨日掃除したばっかですよ。

なんで散らかってるんですか?」


紡が疑問を口にすると、

ミミルが指をいじりながら恥ずかしそうに言った。

「うん……実は昨日……ちょっといろいろありまして……」


紡はミミルの様子を見て察する。

(これは何かやらかしたんだろうか……)


鈴木が苦笑をしながら声をかける。

「天野君。午後は僕がフォローするからね。

まずは午前中、頑張ろう」

「……はい。頑張ります!」

紡は気合を入れなおし

紡は気合を入れ直し、ロビーの掃除へ向かった。


こうして――

紡の”再編の針(リ・ウィーヴ)での本格的な日常”が始まっていく





ロビーと受付の掃除を手際よくこなす紡。

数週間前はぎこちなかった動きも、今ではすっかり板についていた。


受付の準備をしていたリリアが微笑む。

「アマノさん、すっかり慣れましたね」


紡は手を動かしながら、苦笑いをしながら返す

「そうですねぇ……なんか、気づいたら手が勝手に動くようになってきました」


そこへ同じく受付の準備をしている鈴木が近づいてきて、

軽く笑う。

「確かに。掃除ならもうミミルさんより上手だよ」


リリアはうっとりした顔で頷く。

「そうね!きっとミミルちゃんの教育の賜物ね!」


「ははは……」

紡は苦笑いを浮かべる

(確かに、確実にミミルさんのおかげではあるけど)


――回想


「アマノさーん!ここを掃除する時にはね!

この棚を、こう、ガッとやれば――」


バギッ。


「あ」



「……え?今なんか壊しました?」

「えーと、あはは!ちょっと棚がもろくなってたのかも!

紡さんも気を付けてね!」


ミミルは元気いっぱい過ぎて、力加減がおかしいところが多々あり、

掃除というよりも破壊に近い。


「ミミルさん!それは優しく扱わないと……!」

「大丈夫!まだまだ掃除しなくちゃいけない部屋がたくさんあるんだから!

手早く済ませないとね!」


(いや、早く終わらせたいのはわかるんだけど……)


バキッ、

ゴッ


といった何かを破壊する音が次々に聞こえてきて、

紡は頭を押さえた。


(このままじゃ、掃除じゃなくて破壊行為をして回ることになる…!

俺が何とかしないと……!)


紡がミミルの掃除研修から使命感に目覚め

結果として、掃除スキルがメキメキと異常な速さで

上がっていったのであった。


――回想終了


「うん、ロビーと受付の掃除はもう大丈夫だから、

ミミルちゃんのところに行って大丈夫だよ」

リリアが柔らかく言う。


鈴木も苦笑しながら続ける

「そうだね。早くしないともっと整理が大変になるかもしれないしね」


「い、行ってきます!」

紡は慌てて掃除道具を片付け、ミミルの待つ倉庫へ向かって走り出した。



倉庫の前につき、扉に手をかけた瞬間――

ガシャーンという音とともに

「わー!またやっちゃった!」という

声が聞こえてきて慌てて中に飛び込む。


紡に気づいたのか、ミミルが笑顔で手を振りながら

「アマノさーん!こっちです!」

と元気いっぱいに駆け出す。


「ミミルさん!こんなところで走らないで――」

言い終わる前に、

ミミルの足が箱に引っかかり――


ガタンッ!

バタバタゴロゴロ!


積まれていた箱が一気に崩れ

箱の中身が床に散らばった


「ミ、ミミルさん!大丈夫ですか?!」

紡は慌ててミミルさんのもとに駆け寄り助け起こす。


「いてて……だ、大丈夫!

もう……なんでこんなところに箱があるの?!」

ぷんすかと怒るミミル。


(さっそくか……これは前途多難だな……)


あはは、と苦笑いしながらも、

紡は急いで散らばったものを拾い集める。


その中に見慣れない青い液体が入った小瓶が

転がっていた。


「……ん?これ……」

透明な瓶には見られない文字が書かれたラベルが貼ってあった。


紡がその瓶を拾い上げ、ミミルに見せた。

「ミミルさん。これって何ですか?」


ミミルがどれどれっと覗き込み、パット表情を明るくした。


「あぁこれね!これは”魔力増幅剤(ブースター)”だよ!」

「”魔力増幅剤(ブースター)”……?」


ミミルは紡から瓶を受け取ると、得意げに説明を始める。


「うん!これ体内のマナの総量とかを一時的に増やす薬なの。

魔術士とかが、魔術の効率を上げたいときとかに使うんだよ!

再編の針(リ・ウィーヴ)は精霊術士のほうが多いけど、魔術も使うから念ストックしてあるの!」


「へぇ……」

紡は興味深そうに瓶を観察し、

ミミルの手からさりげなく取り上げると、

そっと箱に戻した。


(青くてきれいな色なんだな……飲みたくはないけど)


落ちていたものをすべて箱に入れ、

棚に戻そうとしたところで、

紡はふとミミルのほうを見た。


ミミルは、また別の箱を持ち上げようとしている。

思わず声をかける。


「ミミルさん!」

びくっとしたミミルは驚いた顔をしながら

「え?なに?」と返す


「ええっと……俺が数量の確認や、整理するので、

ミミルさんはそこで指示を出しながら、不足している備品の

チェックリストの作成をお願いできますか?

指示してくれるだけで大丈夫です!あとは俺がやりますから!」

ミミルは押しに弱いので畳みかけるようにお願いをする。


「えっ、うん。わかった。じゃあ私ここから指示出すね!」


(ふぅ……ミミルさんには悪いけれど、これ以上倉庫があれるのは防がないと)


紡は心の中でため息をつきつつ、

散らかった倉庫の片付けに取り掛かった。


ミミルは上機嫌で腕を組み、

紡に指示を飛ばす。


「よーし!アマノさん!次は右の棚の箱からやっちゃおっか!

あー違う違う。もう少し右の棚の奴!」


(ミミルさん……指示が雑すぎる……まぁこれもいつものことか……)


紡は苦笑しながら、

今日もミミルのフォローに回るのであった。

今日から2章が始まりました!

皆様いつも閲覧いただきありがとうございます。

初めての評価もいただきまして…恐悦至極でございます…

これからもできるだけ毎日7時投稿できるよう頑張るのでよろしければお付き合いくださいませ



でわ、明日もまた閲覧いただければ幸いです

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