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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第一章 再編の針
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第三十五話 縁に振り回される異世界生活

先ほどのやり取りで噂をされ気まずい雰囲気の中で

食事とり終わり、さっさと退散しようと思ったその時


再び ドスドス と重い足音が近づいてきた。


ネロだった。

その顔は、朝よりさらに不機嫌そうで、

周囲の空気が一瞬で冷え込む。


「……アマノ。グウェン様がお呼びだ」


不愛想というより、

“怒りを必死に押し殺している”声だった。


「わ、わかった……」

紡は慌てて立ち上がり、

ネロの後ろについて歩き出す。


(……ネロの怒りよう……やっぱり昨日のことだよな……)

不安を抱えたまま、

二人は執務室の前に到着した。


ネロがノックし、扉を開ける。

中には――


ナディア、鈴木、そしてソファに座るグウェンがいた。


グウェンは穏やかに微笑み、

紡に向かって手を軽く上げた。

「アマノ君。座って」


促されるまま、紡はソファに腰を下ろす。

紡がソファに座るのを確認すると、

ナディアが書類を手に立ち上がった。


表情はいつもの冷静そのもの。

だが、どこか“仕事モード”の鋭さがある。


「アマノさん。

昨日、冒険者ギルドで起きた件で、今回お呼びしております」


紡はある程度覚悟していたので、

背筋を伸ばし、静かに返事をした。

「はい」


ナディアは頷き、

手元の書類を整えながら続けた。

「まず、ラオフさんとの金銭トラブルについて。

こちらで確認したところ――」


グウェンが穏やかに口を挟む。

「アマノ君の落ち度は一切ないよ。

むしろ被害者だ」


紡は思わず目を見開いた。

「え……」


ナディアも頷く。

「はい。そのため、ラオフさんには正式に注意処分を行いました。

今後アマノさんに接触する際は、必ずグウェンさんの許可を取るよう通達済みです」


(……え、そんな大事になってたの?)


鈴木が心配そうに紡を見た。

「天野君、どんまい……」

紡は曖昧に笑うしかなかった。


ナディアはさらに書類をめくり、

淡々と続ける。

「次に――

アマノさんの“借金返済”についてですが」


紡の心臓が跳ねた。

(あ、これ絶対ろくな話じゃない……)


ナディアは淡々と告げた。

「本日より、正式に“生活支援部門”で働いていただきます」

「えっ」


グウェンが優しく微笑む。

「アマノ君。ここで働けばすぐ返せるからね」

「え、いやでもそんないきなり!?」

ネロが横から冷たく言い放つ。

「お前、どういった方に借金の肩代わりをさせたと思っているんだ。

借金している以上、働くのは当然だ。というこの件に関してお前に拒否権があると思うな」


(いや、言い方……!)


ナディアは淡々と書類を差し出した。


「こちらが正式な雇用契約書です。

内容に問題がなければ、サインをお願いします」

紡は紙を受け取る。

周りから集まる視線に思わずごくりとのどが鳴る。


震える声で言った。

「……あの、俺……選択肢は……?」


グウェンは優しく微笑んだ。

「そうだね……生活支援部門で働くのが嫌なら……

僕の使用人として働くという手もあるけど……」


ネロからものすごい視線を感じる。

見なくてもわかる。使用人として働くと言ったら俺の命はない。


「生活支援部門で働きます」

わかっていたことだが、俺に選択肢などなかった……


鈴木が苦笑する。

ネロは「当然だ」と鼻を鳴らし、

ナディアは淡々とペンを差し出した。

「では、サインをお願いします」

紡は観念して、

ペンを握った。


(……なんでこうなるんだ……)


紡がサインを終え、ペンを置いたところで――


ナディアは書類を回収し、静かに一歩前へ出た。

「では、アマノさん。

生活支援部門での仕事内容について説明いたします」


その声はいつも通り落ち着いていて、

“逃げ道はありませんよ”という優しい圧があった。


紡は背筋を伸ばし、思わず息を飲む。

ナディアは手元の書類をめくりながら淡々と続けた。


「生活支援部門でアマノさんに行っていただく主な業務は三つです。

一つ、館内の清掃。

二つ、備品の補充と管理。

三つ、依頼者や来客への簡単な案内です」


(……1,2は良いとして…3つめって…)

ナディアはさらに続ける。

「ただし、アマノさんは異世界人ですので、

最初は鈴木さんがついて指導します。

無理のない範囲で進めていただければ大丈夫です」


鈴木が優しく微笑む。

「天野君、安心して。

僕は天野さんのサポート担当だからね。サポートする内容が変わっちゃったけど」

「はい……よろしくお願いいします」

鈴木さんの優しさが染みる……


ナディアは淡々と説明を続ける。

「また、生活支援部門は“ギルドの裏方”として非常に重要です。

アマノさんの働き次第で、ギルド全体の動きが変わります」


(すごいプレッシャーかけてくるじゃん……)


グウェンが穏やかに微笑んだ。

「アマノ君なら大丈夫。

君は“縁”を呼ぶ人だからね。

きっとすぐに馴染めるよ」


(いや、その“縁”が問題なんだよ……!)


そのとき――

足元の影がふわりと揺れた。


「いやぁ〜、面白くなってきたねぇ」

ケットシーが影からひょこっと顔を出した。


「アマノ君が”再編の針(リ・ウィーヴ)”で働くなんて、

これは絶対に何か起きるよ。うん、間違いない」

「お前は黙ってろ!!」

紡が叫ぶと、

ケットシーはケラケラ笑いながら尻尾を揺らした。


「だってさ、君の“縁”は強いんだよ?

働き始めたら、もっと色んなことが起きるに決まってるじゃないか」


「やめてくれぇぇぇ……!」


ナディアはケットシーの存在に気づくも、仕事モードだからか完全にスルーし、

淡々と説明を続ける。

「ではアマノさん。

初日は鈴木さんが案内しますので、

この後、生活支援部門の部屋へ向かってください」


鈴木が手を挙げる。

「天野君、行こうか」

紡は立ち上がりながら、

心の中で叫んだ。


(……俺の異世界生活、なんでこうなるんだ……)


ケットシーは影に沈みながら、

楽しそうに呟いた。


「ふふ……本当に面白くなってきたね」


閲覧いただきありがとうございます。

こちらで1章は完結となります。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


次回より2章 再編の針職員編を書いていこうと思っております。

よろしければまだまだお付き合いいただければうれしいです。





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