第三十三話 一日の終わり
ケットシーが紡の影に逃げ込んだ直後――
レオンは状況を理解できず、部屋の中をきょろきょろ見回した。
「え、え? なんでみんなそんな顔して……?」
グウェンが静かに一歩前へ出る。
「レオン君」
「は、はいっ!」
「……ノックしなさい」
その声音は穏やかだが、背筋が凍るほどの圧があった。
レオンはビクッと震え、直立不動になった。
「す、すみませんでした……!」
ネロは額を押さえながらため息をつく。
「……だから言っただろ。間が悪いって」
フィーロは紡のそばに寄り、そっと手を当てた。
「アマノさん、体調はどうですか? まだ苦しくないですか?」
紡は少し驚きながらも微笑んだ。
「大丈夫。さっきよりずっと楽だよ」
フィーロはほっと胸をなでおろす。
「よかった……」
その様子を見て、グウェンは柔らかく頷いた。
「今日はもう遅い。みんなもゆっくり休みなさい」
「わかりました」「おやすみなさい、アマノさん」
ネロ、フィーロはレオンの横を通り廊下に出る
取り残されたレオンも
「あ、じゃあおやすみさい……」と帰ろうとした
その時――
「レオン君は」
グウェンの声が、静かにレオンを呼び止めた。
「……この後、執務室に来なさい」
レオンの顔から血の気が引いた。
「えっ……あ、あの……グウェン様……?」
「来なさい」
逃げ道はなかった。
レオンは魂が抜けたような顔で、
「……はい……」と蚊の鳴くような声で返事をし、
グウェンに肩を叩かれながら部屋を出ていった。
扉が閉まり、
部屋には紡と鈴木、そして――影に潜むケットシーだけが残った。
静寂が落ちる。
鈴木は気まずそうに笑い、
「じゃ、じゃあ私はお水を取ってきますね……」
とそそくさと部屋を出ていった。
紡はベッドに座り直し、深く息をついた。
(……なんか、すごいことになったな……)
そのとき。
足元の影が、ふわりと揺れた。
「……アマノ」
小さな声がして、ケットシーが影から顔を出した。
「っ……!びっくりした」
紡は思わずのけぞる。
ケットシーはひそひそ声で言った。
「忠告しておくよ。君、これから“縁”がもっと強くなる」
「え……?」
ケットシーは真剣な目で紡を見た。
「いい縁も、悪い縁も、全部寄ってくる。
君はそれを“選ばされる”立場になる」
紡は息を呑む。
「……俺が……?」
「そう。
そして――」
ケットシーはちらりと扉の方を見た。
「グウェンも、君の“縁”に巻き込まれる。
……昔みたいにね」
紡は言葉を失った。
ケットシーは影に戻りながら、最後に一言だけ残した。
「気をつけて。
君はもう、ただの“迷い人”じゃないんだよ」
影が静かに沈み、
部屋には紡の鼓動だけが残った。
今日おまけも合わせて投稿しているので
良ければそちらもご覧ください。




