第三十二話 黒猫
グウェンの言葉を聞きながら、
紡はふと、黒猫が言いかけていた言葉の続き―
『お前は“不幸”を呼んで―』
その先が、ようやく腑に落ちた気がした。
ぽつりと、思わず口が動いた。
「お前は“不幸”を呼んでない”縁”を呼んでるんだ」
その瞬間。
グウェンの表情が、
ほんの一瞬だけ固まった。
「……アマノ君。今、なんて?」
「え? あぁ……たまに来る黒猫がいるんですけど、
そいつがさっき来て……なんか言いかけてたんですよ。
それって、たぶん――
“不幸じゃなくて縁を呼んでる”って意味だったのかなって……」
言いながら顔を上げると――
グウェンが無表情で、
じっと紡を見つめていた。
(……え?
なんでそんな顔してるんだ……?)
「……あの、どうかしました?」
困惑する紡に、
ベッド脇にいた鈴木が心配そうに身を乗り出した。
「天野さん……黒猫って。猫が“本当に”しゃべったんですか?」
その瞬間、フィーロが真面目な顔で口を開いた。
「アマノさん。猫はしゃべらないよ」
「え? いや、でも――」
「猫はしゃべらない」
二回、同じトーンで言われた。
(……二回言われた……
え、俺おかしいのか……?
ファンタジー世界だから猫もしゃべれるもんなのかと思ったんだけど……)
地味にショックを受けて固まる紡。
そんな中、
グウェンは顎に手を当て、
紡をじっと観察するように見つめていた。
しばらく沈黙が続き――
「アマノ君、動かないで」
「えっ?」
グウェンがすっと手を伸ばしてきた。
紡は驚いて、
反射的に目をぎゅっとつぶる。
(な、なに!?まさか怒って――)
恐る恐る目を開けると。
グウェンの手が――
紡の“影”に沈み込んでいた。
「えっ……?」
鈴木は口を押さえて後ずさる。
「え……影に……手が……?」
ネロでさえ、目を見開いた。
フィーロは口を押さえて震えている。
そんな中、
グウェンだけは落ち着いた声で言った。
「……ふふ。やっぱりね」
そして――
「捕まえた」
影から手を引き抜く。
その手には――
黒猫が、首根っこをつままれた状態でぶら下がっていた。
その顔には、明らかな焦り。
「にゃ!?ちょ、ちょっと待てグウェン!」
と黒猫は必死にジタバタしている。
紡は叫んだ。
「しゃべってるじゃないですか!!!!」
フィーロは真顔で言った。
「……猫はしゃべらないよ」
「いやいやいやいや!!!
今しゃべったよね!? 完全にしゃべったよね!?」
黒猫はぶら下がりながら、
尻尾をだらりと垂らして落ち込んだ。
「……バレちゃったか」
グウェンのこめかみがピクッと動いた。
「……さて。
説明してもらおうか、ケットシー」
黒猫――ケットシーは、
観念したように肩を落とした。
「……にゃはは……
やっぱり逃げられないかぁ……」
紡はただただ呆然とするしかなかった。
―――
―
「グウェン。そろそろ離してよ」
そう言うと、グウェンはため息をつきながら、
ケットシーをベッドの上にそっと下ろした。
解放されたケットシーは、やれやれと毛づくろいを始める。
グウェンは細めた目で
まるで”昔の悪友”を見るような視線を向ける。
「久びりだね、ケットシー。
まさかアマノ君の影に隠れているとは思わなかったよ」
ケットシーはむすっとした顔で言い返した。
「ふん……別にお前になんか会うつもりはなかったけどね。
……今の君は見ていて気持ちが悪い」
部屋の空気が一瞬止まった。
ネロが「おい……」と呟き、
フィーロが悲しそうに眉を寄せる。
静まり返る中、
グウェンだけはふっと笑った。
「君は相変わらず口が悪いね……」
ケットシーは視線をそらす。
紡は驚いてケットシーとグウェンを見比べた。
(……昔のグウェンさん……?
ケットシーは、昔のグウェンさんを知ってる……?)
グウェンは軽くため息をつき、
「それで、どうしてアマノ君の影に隠れていたのかな?」
ケットシーは耳を伏せ、
気まずそうに尻尾を巻き込んだ。
「別に……面白そうだったから見てただけさ」
「見るだけならアマノ君にかくれてずっとくっついてる必要はないよね?」
ケットシーはぐぬぬとした顔をしたが、
観念したのか、ぼそぼそと話し始めた。
「最初は……こいつが“変な縁”を呼びまくるから、
見てて面白かっただけなんだ」
紡は「変な縁……」と呟く。
鈴木が黙って紡のかたをぽんと叩く。
ケットシーは続けた。
「でも途中から……昔のグウェンを見てるみたいでさ」
グウェンの目がわずかに揺れた。
「だから――」
「もういいよ」
グウェンが静かに遮った。
紡は驚いて息を呑む。
しばらく沈黙が流れたあと、
グウェンは小さく笑った。
「ケットシー。やっぱり君は優しいね……変わらない」
その言葉に、
グウェンもケットシーも、どこか寂しそうに見えた。
しんみりした空気が広がる中――
バンッ!!
突然、扉が勢いよく開いた。
全員が驚いて跳ね、
ケットシーは反射的に紡の影へ逃げ込んだ。
「アマノ君が起きたって本当か!!?」
レオンが心配そうに駆け込んでくる。
ネロはわなわなと震え、顔を手で覆った。
「……お前は本当に間が悪いというか……」
鈴木も苦笑しながら言った。
「レオンさん……今はちょっと……」
「……え?」
その場にいた全員から白い目で見られ、
レオンは心底困惑していた。
レオンがどんどんギャグ要因になってしまって……
そのうちかっこいいシーンもちゃんと作ってあげようと思います…
では明日もよろしければ閲覧いただければ幸いです




