第二十七話 薬師
あれよあれよという間に7万クラウン(7億)もの借金を負うことになった紡。
冒険者ギルドから出て、ラオフから渡された地図を見ながら、
(帰りたい)
と切実に願っていた。
紡が見つめていた地図をカティアとエイラも覗き込むように見る。
「 “Greenveil・Elixir”……ってヨハンさんのお店ですね。ここ」
カティアさんがそう呟くのを聞いて
「知り合いですか?」
紡が尋ねると、カティアが頷いた。
「えぇ、ヨハンさんはアマノさんと同じく異世界から来た人なんです」
(本当に異世界人が多いんだな……)
「ヨハンさんのお店ならこっちです」
とエイラが道案内をしてくれる。
道中、紡は二人を巻き込んだことを謝った。
「いや、私たちも興味につられて止めなかったし……」
カティアは一番盛り上がっていたので気まずいのか少し恥ずかしそうに言う。
「気にしないでください。
戦闘部門とはいえ、私たちも“再編の針”の一員ですから。
異世界人のサポートはお仕事です」
エイラも優しく笑った。
その後もエイラの案内通りに街の大通りを抜け、細い路地へと入っていった。
「この先ですよ」
エイラが指さした先に、
木製の看板に “Greenveil・Elixir” と書かれた店が見えてきた。
扉を開けると、
薬草の香りと、薬草とアルコールの混ざった香りがふわりと漂う。
「いらっしゃいませ」
奥から現れたのは――
茶色い髪を一つに結び、緑色の瞳をした青年だった。
柔らかい微笑みを浮かべ、
まるで春の風のような穏やかさをまとっている。
(……優しそうな人だな)
「あれ?カティアさんにエイラさん?お久しぶりですね」
ヨハンは満面の笑みを向ける
「ヨハンさんもお元気そうで」
とカティアも嬉しそうに話す。
カティアはヨハンに紡を紹介する。
「こちら、最近異世界に来たアマノ・ツムグさん」
紡も「初めまして」とあいさつをする。
「初めまして。ヨハン・リンドホルムといいます。
私が言うのも変ですが……ようこそ、異世界へ」
冗談めかしたその言葉に、紡の緊張が少しほぐれた。
「それで今日はどうされましたか?」
紡はラオフから渡された処方箋のような紙を差し出した。
「あの……これを頼まれてきて……」
ヨハンは紙を受け取ると、
一瞬だけ目を細め――すぐに柔らかい笑顔に戻った。
「なるほど。ラオフさんのところですね。今準備してたところです。
もう終わるので、少しお待ちください」
ヨハンは棚から瓶を取り出し、
薬草を計量し、魔力で封を施す。
その手つきは迷いがなく、
まるで長年の職人のようだった。
(……すごい。
同じ異世界人なのに、こんなふうに自立して働いてるんだ……)
紡は思わず見とれてしまう。
「お待たせしました。こちらがご注文のポーションです」
ヨハンが渡してきた箱を見て、紡は固まった。
「……多くないですか?」
箱は大人が両手で抱えるほどの大きさ。
しかも――
「これ、あと3箱ありますよ?」
ヨハンもさすがにこのメンバーで来るとは思っていなかったのか
少し困ったように笑った。
「…………」
(往復……? いや、無理だろ……)
紡が絶望しかけたそのとき。
「大丈夫だよ、アマノさん」
エイラが一歩前に出た。
「”エアリス”少しだけ力を貸して」
エイラの周りに、ふわりと風が集まる。
彼女は軽く息を吸い――
鼻歌を歌い始めた。
(……え?)
風が箱の周りを包み込み、
まるで重さが消えたようにふわりと浮き上がる。
その様子に驚くこともなく、
カティアはなれたようにその箱を手に取ると
「よし、これで軽くなったよ。
運ぶのは私がやるから、アマノさんは前を歩いてね」
カティアは軽々と3箱を持ち上げた。
(すご……!重いはずなのに、余裕そう……)
残りの箱もエイラが持ち、店を出る。
「あの、気を付けてくださいね」
ヨハンさんは心配そうに見送ってくれた。
しばらく大通りを歩く、
紡は周囲の視線が気になって仕方なかった。
(なんで俺男なのにひと箱も持たせてもらえてないんだ)
いたたまれず、カティアに声をかける。
「あの……俺も持ちますよ?」
「大丈夫。エイラのおかげで軽いし、アマノさんは道に慣れてないでしょ?
手がふさがるし、足元も見づらくなって危ないから」
と気にしないでと笑うカティア
(そうはいっても……)
エイラを見ると、
「ふんふん〜♪ ……ふふ〜ん♪」
と楽しそうに鼻歌を歌いながら余裕そうに歩いている。
(……なんか楽しそうだな)
そう思っていると
「エイラ、無理しないでねつらくなったらやめていいから」
カティアが心配そうに声をかける。
「だいじょうぶ〜♪ 」
と歌いながら返す。
(つらい??楽しそうだけど……)
と疑問に思っていると、カティアが
そっか。と紡に説明を始める
「アマノさんは精霊術の”代償”についてはまだ詳しく説明されてないんだっけ?」
「あぁ……そういえば」
「エイラは精霊”エアリス”と契約している精霊契約者なの。
精霊契約者は精霊の力を借りることができるけど、力を使うには代償が必要になる」
カティアはエイラを見ながら続ける。
「エイラの場合精霊”エアリス”の力で風を操ることができるの。
その代償は”歌”、エイラは今力を使うために代償をはらっているの」
「気にしないで~♪ これくらいは楽勝~♪」
とエイラは笑いながら歌い続ける。
紡は完全に勘違いしていた。
エイラは“余裕そう”なのではなく――
精霊術の代償として、ずっと歌い続けなければならないのだった。
新しい異世界人が出てきました。
ヨハンさんの出番は今回少ないですが今後増えていく予定です
では明日また7時に……




