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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第一章 再編の針
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第二十六話 今から入れる保険ってありますか?

「さぁ、着きましたえ。ようこそ、冒険者ギルドへ」

ラオフはお辞儀をしながら紡を招く。


冒険者ギルドに足を踏み入れた瞬間、

紡はその活気に圧倒された。


(……すご……)


再編の針とはまるで違う。


酒場のようなざわめき、依頼掲示板の前で揉める冒険者、

受付前には行列ができ、武器の手入れをする者もいる。


「ここが冒険者ギルド……」

そう呟いたとき

中にいた冒険者たちが一斉にこちらへ視線を向けた。


「お、ギルマス戻ってきたぞ!」

「ラオフさん、お疲れさまです!」

「おう!ギルマス!今日も世話になるぜ!」


口々に声が飛び交い、

ラオフはそれに軽く手を振って応える。


「はいはい、みんな元気やなぁ。

無茶したらあかんで?」


その柔らかい声に、

冒険者たちは嬉しそうに笑った。


中には、

「ギルマス、また今度飲みに行きましょうや!」

と肩を組みに来る者までいる。


ラオフは苦笑しながらも、

「しゃあないなぁ。ほな今度な」

と気さくに返す。


その光景を見て、紡は思わず目を瞬かせた。


「どうや、アマノ君。活気あるやろ?」

ラオフが得意げに胸を張る。


その姿に、紡は少し意外に思った。


(……思ったより悪い人じゃないのかも……?

冒険者からも慕われてるみたいだし……)


そんなことを考えていると、ラオフが手招きした。


「ほな、例のもん見せたるわ。こっち来て」

レオンたちに囲まれながら、紡はギルドマスター室へと案内される。


部屋に入ると、ラオフが机の中から厳重に保管されていた何かを取り出した。


「これですわ」

差し出されたのは――


カップ酒だった。


「…………え?」

紡は固まった。


(カップ酒……?いや、どう見てもただのカップ酒……)


しかし、カティアとエイラは目を輝かせた。

「わぁっ……! これ、ガラスですか!? すごい透明度です!」

エイラはキラキラした目でカップ酒を覗き込む。


「これはすごいものです!

気泡が全く入っていない、それにこの歪みのなさ!

さぞ巧妙な職人によって丁寧に作られたんでしょうね!

それに!! この絵柄はなんですか!?

ガラスに絵をつけてる!? 一体どんな技術で――!」

カティアは早口で興奮し、完全に職人モードに入っていた。


紡がぽかんとしていると、レオンが肩をすくめる。

「カティアは工房の娘だから、こういう造形物には目がないんだよ」


ラオフが説明を続ける。

「これはある異世界人から買い取った品物でな?

聞いたところによると、なんと!この中に酒が封印されてるらしいねん」


「なるほど! この中に入っていた液体は異世界のお酒だったんですね!

すごい……どうやって封印されてるんでしょう!」

カティアはラオフの持つカップ酒をまじまじと見つめている。

エイラも興味津々だ。


ラオフは得意げに紡へ視線を向けた。

「どうや、アマノさんもびっくりしたやろ?」


紡は――

完全にガッカリした顔をしていた。


「……全然興味なさそうやん!!!!」

ラオフが思わずツッコむ。


レオンは勝ち誇ったように笑った。

「ほら、アマノ君興味ないってさ」


「いやいやいや、興味ないことないやろ!?

めっちゃ珍しい品物って聞いてんねんで!?」

ラオフは必死に紡の興味を引こうとする。


紡は苦笑しながら、

「そうですね。いいと思います」

と適当に返す。


「うそやん!? そんな興味ないことある!?」

ラオフは心底信じられないといった声で叫ぶ。


レオンが紡の肩に手を置く。

「ほら、もう見せたいものも見せたんだし、次行こうか」

「そうですね」

二人が退出しようとすると――


「待ってくださいよ!!」

ラオフが必死に止めてきた。


「異世界の酒ですよ!?

ほんまに興味ないんですか!?」

涙目で紡に縋ってくる。


紡はため息をつきながら尋ねた。

「……一応聞きますけど、その酒、いつもらったんですか?」

「えーと……確か……五年くらい前やろか?」

「じゃあ多分その酒、とっくに賞味期限切れてますよ」

紡はかわいそうな人を見る目でラオフを見た。


「しょうみ……きげん……? ってなんや?」


「賞味期限っていうのは、その食品を美味しく味わえる期限のことです。

あー、パッケージに書いてあると思いますけど……

カップ酒は未開封でも一年くらいしかないですよ」


「え? じゃあこれもう飲まれへんってこと??」

「飲んでも死にはしないと思いますが……

風味とかは落ちてるんじゃないですかね。

まぁ飲まない方がいいと思います」

それじゃとレオンと紡が立ち去ろうとすると――


「えっ、その……しょうみきげんってどこに書いてるんです?

教えてくださいよー!」

ラオフが縋ってくる。


紡は折れた。

「あーあー、わかりました……」

ラオフが嬉しそうにカップ酒を手渡そうとした、その瞬間。


紡は――

ラオフから“寒気を感じる視線”を受け、思わず手が止まった。

カップ酒は受け取り損ねて――


パリンッ!


床に叩きつけられ、粉々に割れた。


レオン、カティア、エイラ、紡――

全員が固まった。


ラオフは割れた破片を見下ろし、


「あーあ、割れてしもた」

と呟いた。


次の瞬間――

さっきまでのフレンドリーな雰囲気が一変する。


「……どう落とし前つけてくれますの?」


冷たく刺すような怒気が紡に向けられた。

紡は青ざめる。


(やばい……これ、ただのカップ酒とはいえ

この世界では貴重なものだったんだ……)


「す、すみません……!」

「“すみません”で済んだら衛兵なんていらへんねん」

ラオフはゆらりと紡に近づく。


紡は恐怖で声が漏れた。

「ひっ……!」


その間にレオンが飛び込み、紡を庇う。

「お前、わざとやっただろ。何が狙いだ」

「わざと? わざと割ったんはそっちちゃいます?」

二人は睨み合う。


カティアとエイラは真っ青になり、互いに手を握りしめて震えていた。


「あ、あの!!」


紡が声を上げると、

全員の視線が一斉に向いた。


「俺の不注意でした。本当にすみません。

弁償します……!」

紡ぐはラオフに向かって頭を下げる。


ラオフは冷たい声で言う。

「弁償? 昨日今日来た異世界人に弁償なんてできますの?」

「……時間はかかるかもしれませんが……責任は取ります……」


ラオフは紡をしばらく見下ろし――


突然、笑顔に戻った。

「えぇ根性しとるやん。気に入ったで!」


肩をポンポン叩く。

紡がホッとした瞬間、

ラオフは紡の顔に近づき――耳元で囁いた。


「アマノ君が一生かかっても弁償できる額とちゃいますけどな?」


ゾクリと背中に冷たい汗が流れた。


レオンが怒鳴りかけたところで、

ラオフが破片を拾いながら言った。

「まぁ? 僕の不注意でもあったし、全額払えとは言わへんけど……

半分くらいは負担してもらいたいなぁ」


「……半分……?」


「7万クラウン、払ってくれるか?」


「…………なな???」

紡は思考が止まった。


(えーと。1クラウンが大体1万円くらい……

70000クラウンだと……7…億???

カップ酒だぞ!?

こいつ一体いくらで買い取ったんだ……!?)


レオンがブチ切れる。

「お前、なめてんのか」


「お前らこそ舐めてんとちゃうぞ」

ラオフが言うと、

後ろの扉から屈強な男たちがぞろぞろと入ってきた。


空気が一気に張りつめる。


ラオフは胸元からタバコを取り出し、火をつけた。


「物はいつか壊れるもんや。割れたもんはしゃーない。

せやけどな、これは“メンツ”の話になってんねん。

このまま“しゃーないから帰っていいですよー”とはいかへんねん。

わかるか?」


煙をふーっと吐きながら、

ラオフは紡を見据えた。


「で? アマノ君どうする?

7万クラウン払う? それとも踏み倒す?」


その目は――

獲物を見つけた虎のようだった。

紡は震えながらも、覚悟を決めた。


「……払います。

お金を稼いで……必ず返します」


ラオフはタバコを咥えたまま笑った。

「ええやん。やっぱり気に入ったわ」


紡に再度近づくと肩に両手を置き、明るく言う。

「じゃあ仕事やるわ。一生懸命働いてな?」


その声色は優しいのに、

紡には冷たく容赦ないものに聞こえた。


レオンが詰め寄る。

「アマノ君に何させる気だ」

「いややわぁ。

流石に高ランクの仕事させるわけないやろ?

ちょっとした“お使い”とか頼むくらいや」

「お使い……?」

紡が聞きなおすと、ラオフはへらへらと笑いながら答える。


「そうそう。

ここにいる屈強な冒険者たちは魔物討伐とか護衛はできるんやけど、

事務的な仕事はからっきしでな?

僕一人じゃ追いつかへんのですわ」

ラオフはやれやれと肩をすくめる。


「せやからアマノ君に、その事務的な危なくない仕事を手伝ってほしいねん。

簡単に言ったら――僕の助手や」


紡は頭を抱えた。


(……めちゃくちゃ面倒なことになった……

ネロ君の言葉、もっとちゃんと聞いとけばよかった……)


レオンがすごい形相でにらみつけているのを見ると

「あ、せや」ラオフがレオンにクエストの紙をひらひらさせる。

「まぁ、レオン君が代わりにこの魔物討伐手伝ってくれるんなら、

アマノ君の借金ちょっと減らしてあげてもええよ?」


レオンはぐぬぬと唸り、

紙をひったくった。

「やってやる。

だがアマノ君にはカティアとエイラを必ずつける。いいな!」


レオンは後ろの男たちを押しのけて出ていった。


ラオフはヘラヘラ笑う。

「ほんまレオン君は短気で困るわぁ」

一ミリも困ってなさそうだった。


ラオフが紡に紙を渡す。

「さて、じゃあアマノ君。

早速やけど、ここに行って薬とってきてもらえる?」


薬屋までのルートが書かれた地図と、

処方箋のような紙を手渡される。


こうして――

紡とレオン、そして巻き込まれたカティアとエイラの

多難なお使いが始まるのだった。


朝街に出て数分で7億借金背負うことになってしまいました。

これから借金返済の日々が続くのか


よろしければ明日も閲覧いただければ幸いです

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