第二十五話 トラブルと怪しい人は向こうからやって来る
施設の門を出ると、紡は思わず息をのんだ。
(……すごい……)
石畳の大通り。
空には魔力で浮かぶ光球がゆっくりと流れ、
露店からは香辛料の匂いが漂ってくる。
獣人、エルフ、角の生えた人――
様々な種族が行き交い、活気に満ちていた。
「どうだい、アマノ君。この街は」
レオンが得意げに胸を張る。
「この前歩いたときはそれどころじゃなくて全然見れてなかったんですけど……」
(これは……ファンタジー世界だ……)
行く先々に見たこともない不思議なものにあふれていて、
色んな店をのぞいたりと興味津々な紡をみて
レオン達三人も嬉しそうに微笑む。
街を歩いていると、露店の前で紡の足が止まった。
「……これ、いくらなんだろう」
並んでいたのは、見たことのない果物。
値札には “12R” と書かれている。
「アマノさん、気になります?」
カティアが覗き込む。
「えっと……この“R”って……?」
「あ、ルーンのことですよ」
紡はさっき鈴木から聞いた説明を思い出す
(つまりこの果物は120円くらいってことか……高いのか安いのかよくわからないな)
「ちなみにこの果物って一般的には高いんですか?」
「ん~、安くはないですが高級品ってわけでもないですね」
カティアが優しく答える。
(じゃあ感覚的には日本の果物と同じ感じか……)
「ちなみに、聞いていいのかわからないんですが、
一般の人の月収っていくらくらいになるんですか」
「そうですね……一般的だと、800〜1500ルーンってところですかね」
(1000ルーンが1クラウン……つまり月収は1クラウン前後。
日本円で言うと1万円くらい……
じゃあ、1000クラウンとかになったら……桁が違いすぎる……)
紡は想像しようとして――
すぐにやめた。
(……いや、そんな大金、俺には関係ないし)
カティアは微笑む。
「アマノさんも、慣れればすぐわかりますよ」
エイラも果物をつまみながら笑う。
「これ果物美味しいんですよ。買ってみます?」
「じゃあせっかくなので……」
紡は財布代わりの袋を握りしめ、
そっと果物を一つ買ってみた。
「12ルーンになります」
「……はい」
小さな買い物なのに、
紡は少しだけ胸が高鳴った。
そんなふうに街を歩いていると――
「おやおやぁ? アマノ君やないか。偶然やなぁ」
聞き覚えのある京都弁が背後から響いた。
振り返ると、
白黒の中華服をゆったり着こなした男――
ラオフ・レグナが手を振りながら近づいてくる。
「……っ!」
レオンが即座に紡の前に立ちふさがった。
「ギルドマスター様が昼間っからプラプラして暇なんですか?」
(いや……この人が言える立場じゃない気が……)
紡は心の中でツッコミを入れる。
ラオフは肩をすくめ、飄々と笑った。
「暇やないよー。だから“偶然”やって言いましたやん。
そう言うレオン君こそ、副リーダーなのに部下連れて見回りですか?
……性が出ますねぇ?」
「はぁ?」
二人の間にバチバチと火花が散る。
圧に押されて固まっていると、
隣のカティアが小声で説明してくれた。
「レオンさんとラオフさんって、家同士あんまり仲良くなくて……
いつもああやっていがみ合ってるんです」
「家同士……? レオンさんとラオフさんって……?」
エイラが補足するように
「レオンさんもラオフさんも、それなりの貴族出身なんだよ」
と紡にそう耳打ちする。
「おいそこ! アマノ君に余計なこと教えなくていいの!」
レオンが慌てて二人を止める。
「とにかく! 用がないなら俺たち先に行くから!」
レオンは紡の手を引いて立ち去ろうとする。
しかし――
「ちょいちょいちょい。
せっかくやし、アマノ君、冒険者ギルドに遊びに来てよ」
ラオフが前に回り込み、にこにこと誘ってくる。
(冒険者ギルド……正直ちょっと見てみたいけど……)
紡はネロの言葉を思い出す。
――“アイツには関わらないほうがいい”
「い、いや……大丈夫です」
紡が断ろうとすると、ラオフがさらに一歩近づく。
「まぁまぁ、ちょっと待ってくださいよ」
レオンが苛立った声で言う。
「興味ないって言ってるだろ。しつこいな」
しかしラオフは完全に無視して紡へ向き直った。
「アマノ君に見せたいもんがあんねん」
「いえ、本当に結構です……」
セールスマンを断るように笑って立ち去ろうとしたその時――
「異世界から持ち込まれた珍しいものでも?」
紡の足が止まった。
「……異世界から持ち込まれたもの?」
ラオフの目がキラリと光る。
「せやねん! ほんま綺麗でな?
でもどんなもんか詳しく知らんから、アマノ君に見てもらいたいねん。
頼むわぁ」
キラキラした目で見つめられ、紡は思わず息をのむ。
レオンがクソでかいため息をついた。
「……しつこいぞ、お前」
しかしラオフは嬉しそうに笑う。
「ほらほら、アマノ君は興味あるみたいやで?」
正直紡は完全に興味を引かれてしまっていた。
「……少しだけ、なら……」
「よっしゃ! じゃあさっそく行きましょか!」
ラオフは紡の手を引き、
半ば強引に冒険者ギルドへと連れていく。
レオンたちは慌ててその後を追いかけた。
異世界に来て初めての買い物。
価値観の計算をすると頭痛くなってきますね。
私は数の計算とか苦手なので、そのうちぼろが出そうで怖いですw
では明日もよろしければ閲覧いただければ幸いです




