第二十一話 それマジ?
「話を戻そうか。改めて、僕がこれから天野さんの生活支援の担当をさせてもらう。
生活支援について、簡単に説明するね。」
そう前置きしてから、落ち着いた声で話し始める。
「まず、天野さんは“異世界来訪者”として正式に登録される。
だから、この世界で生活するための最低限のサポートは、国が保証してくれるんだ。」
紡は思わず姿勢を正す。
「サポートって……具体的には?」
「大きく分けて三つあるよ。」
鈴木は指を三本立てて見せた。
「まずは住む場所。
本来なら、来訪者は中央棟の寮に数日だけ滞在して、
その後は街の住居を紹介される流れなんだ。
でもアマノさんの場合は、グウェンさんの判断で“しばらくここに滞在”になってる。
理由は……まあ、“縁”の件もあるって聞いてるよ」
(さっきフィーロさんに聞いていた通りだな…
やっぱり普通は数日だけなのか……)
紡は胸の奥がざわつくのを感じた。
「次に生活費。
最低限の衣食住に困らない程度の支給がある。
ただし、これは“自立するまでの一時的なもの”って扱いだよ」
「自立……」
紡が呟くと、フィーロがそっと袖をつまんだ。
「アマノさんなら大丈夫だよ。ゆっくりでいいから」
その優しさに、紡の胸が少し軽くなる。
「最後に仕事。
この世界で働くための職業訓練や紹介も、生活支援部門の役目だ」
鈴木は紡の目をまっすぐ見た。
「グウェンさんから話があったと思うけど、天野さんは
これからどうするか、決めてるかい?
それによって方針が変わるんだけど……」
鈴木は説明しながら、紡たちの表情が徐々に曇っていくのに気づき、言葉を止めた。
「あ〜……もしかして、まだ聞いてなかったり?」
鈴木がネロに視線を向ける。
ネロはため息をつき、
「こいつ、“どうでもいい”だってさ」
と、どこか棘のある言い方で告げた。
その瞬間、部屋の空気がひやりと冷えたように感じられた。
重い沈黙が落ちる中――ただ一人、フィーロだけがマイペースにお菓子を食べている。
「いきなり知らない世界で“どうしたいか”なんて聞かれても、
戸惑うのは当然だと思う。アマノさんを責めるのはおかしいよ」
フィーロが淡々と反論した。
ネロは予想外だったのか、ぎょっとした顔で妹を見る。
しかしフィーロはその視線を完全に無視し、
サクサクとお菓子を噛む音だけが静まり返った部屋に響いた。
「……まあ、しばらくはここで過ごすことになってるって聞いてるし。
うん、すぐに決めなくても大丈夫。
ただ、天野さんが“この世界で生きていく”って決めたなら、
僕たちが全力でサポートするよ」
鈴木は眼鏡を押し上げながら、柔らかく紡に告げた。
その言葉は押しつけがましくなく、
ただ静かに寄り添うような響きだった。
「そうですね! 重要なことですし、しっかり考えることも大切です!」
リリアもすかさずフォローを入れる。
「……すぐには決められないけど、ちゃんと考えます」
紡がそう言うと、鈴木は安心したように頷いた。
「うん。それで十分だよ」
リリアも柔らかく微笑む。
「あ、あと申し訳ないんだけど、この書類に名前とか年齢とかだけでも書いてもらってもいいかな」
鈴木は紙とペンを差し出す。
「わかりました」
紡は受け取り、書き始めた。
「名前は……“天野 紡”。
年齢は……“25”っと」
その瞬間、鈴木以外の三人がバッと紡に注目した。
「……え? アマノさん、25歳なの?」
フィーロが恐る恐る紡に確認する。
「え? うん。そうだけど……」
と返事をした途端――
「えぇぇえええ!? 私、ネロ君と同い年くらいかと思って……」
リリアが口を押さえ、まじまじと紡の顔を見る。
改めて見られて年齢を確認されると、妙に恥ずかしさがこみ上げる。
「確かに俺は背も低めですし、若く見られることは多かったですが……
そんなに驚くことですか?」
ちょっと不満そうに言うと鈴木がはははと笑いながら
「まあ、確かに天野君は年齢より幼く見えますね」
と軽く流す。
しかしリリアは納得できないらしく、鈴木に詰め寄った。
「誠一郎は驚かないの? だってこの顔よ!? 絶対10代だと思ったのに!
あなたと5つしか変わんないの?!」
「いや、思ったよりかは年齢高いんだとは思いましたが……まあ、そんなもんですよ」
鈴木は淡々と答え、書類を回収する。
リリアは信じられないという顔で、鈴木と紡を交互に見比べていた。
紡が戸惑っていると、
裾をくいっと引っ張られる感覚がした。
視線を下げると、フィーロが不安そうに見上げていた。
「アマノさん……ごめんなさい。そんなに年上だと思ってなくて……」
(……もしかして、同い年くらいだと思って話してたのを気にしてるのか……?)
「えっと……いや、大丈夫だよ。気にしてないから」
紡が笑顔を見せると、フィーロはほっとしたように微笑んだ。
その時、ふと違和感を覚える。
(……ん? 一人だけ妙に静かだな。)
なんとなくネロに視線を向けると――
ネロはわなわなと震えながら、紡を指さしていた。
「お、お前……年上……だったのか……??」
今までクールだったネロが完全に動揺している姿に、
紡は思わず吹き出してしまった。
「その様子だと、ネロ君は年下だったのか。悪かったな」
紡がわざと年下扱いをして笑って見せると、ネロは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「う、うるさい!! 馬鹿!!」
ネロが同い年だと思って接していたと知ると、
今までの態度が急に可愛らしく思えてしまい、
紡は笑いをこらえきれなかった。
さらっと名前が出ましたが、
鈴木さんのフルネームは鈴木 誠一郎
紡君より5歳上なので30歳くらいです。
自分は過労からか、年齢より老けて見られることが多いので、
地味に傷ついてます。
そろそろ施設ツアー編は終わりを迎えそうです。
引き続き明日もご覧いただければ幸いです




