第二十話 まさかの出会い
ほっとしたのも束の間、
カティアやエイラをはじめとする戦闘部隊メンバーが
紡をあっという間に取り囲み口々に賞賛し始める
「あんたすげぇな!」
「あの隊長から逃げるなんて!本当にすごいですよ!」
「……はい。以前の森でも思いましたが…ア、アマノさんの回避能力・逃走力には
驚かされました…!す、すごいです!」
「アマノさんのその力は、やっぱり勇者の――」
カティアが何か言いかけた瞬間、
「カティア」
レオンの低い声がその言葉を遮った。
みんなの視線が一斉にレオンへ向く。
先ほどまでの柔らかい雰囲気が一変し、
レオンの表情は鋭く、冷たいものへと変わっていた。
「わかっていると思うが、勇者としての力を詮索することは禁止されている。
軽率な発言は控えろ」
「も、申し訳ございません……!」
空気が一気に重くなる。
紡はその圧に耐えきれず、思わず「あの……」と声を出しかけたところで――
「さて」
レオンが軽く手を叩き、場の空気を切り替えるように言った。
その声色は、さっきまでの冷たさが嘘のように柔らかい。
「ネロ、この後はまた中央棟に戻るのかい?」
「あぁ、生活支援職員達に挨拶させる」
「なるほどね。了解」
レオンは紡に向き直り、改めて握手を求める。
「さっき隊長も言ったけど、君が興味あるなら、ここはいつでも歓迎するからさ。
いつでも遊びにおいでよ」
そう言って、紡にウィンクを飛ばす。
「あ……はいそのうち…」
レオンの豹変にあっけにとられ、曖昧な返事しかできなかった。
フィーロが急いで紡の手を取り、軽く引っ張る。
「アマノさん、行こう。兄さんも――」
「……フン」
ネロはまだ不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、
「ついてこい」とでも言うように先に歩き出した。
こうして紡たちは訓練場を後にし、
廊下を抜けて中央棟へ向かう。
歩きながら紡はフィーロに尋ねた。
「えーっと…これからどこに行くんだっけ?」
フィーロは紡を見上げながら答える
「中央棟にある、受付窓口のあるロビー。
異世界人がこの世界で生活するためのサポートをする、生活支援部門の人たちがいるの。
アマノさんはしばらくこの施設で過ごすことになってるけど、
普通は支援窓口で家の手配とかするんだよ。詳しくは後で説明があると思うよ」
(そうか…普通は施設で過ごさない……ってことか。
だからネロさんは“調子に乗るな”って言ったのか……?)
そう考えながらふと目の前を歩くネロに目をやる。
(そういえば、さっき助けてくれた時、お礼言ってなかったな……)
紡はネロに駆け寄り、
「ネロさん、さっきは助けてくれてありがとう。助かったよ。」
と礼を告げた。
するとネロは舌打ちし、鋭い目でにらむ。
「……勘違いするな。グウェン様の客人じゃなければ
誰がお前のようなわけのわからん奴、助けるものか」
そう冷たく突き放すと、さっさと先へ行ってしまった。
呆気にとられていると、フィーロにぽん、と背中に手を置き
「ごめんなさい。兄さん気難しいところがあるから」
と申し訳なさそうに眉を下げる
「いや。大丈夫。フィーロさんもありがとう」
紡がお礼を言うと、フィーロはぱっと顔をほころばせ、
「うん。行こう」
と、ネロの後を二人で追った。
中央棟に戻り、受付窓口があるというロビーのほうへ向かった
外の喧騒とは対照的に、落ち着いた空気が広がっていた。
ステンドグラスから差し込む色とりどりの光が床に揺れ、
どこか神聖な雰囲気すら感じられる。
ロビーでは何人かが受付で話をしていたり、
壁の案内板を眺めていたりした。
ロビーに入ってきた紡たちに気づき、
受付窓口の女性職員がぺこりとお辞儀をして柔らかな笑顔を向けてくる。
「お待ちしておりました、アマノ様」
声をかけてきたのは、昨日会った女性――リリアだった。
淡い金髪をきっちりまとめ、姿勢もよく、
一見お堅そうな印象だが――
笑顔を見せた瞬間、空気がふわっと柔らかくなる。
そして昨日は気づかなかったが、耳がほかの人より少し長い。
(もしかして……ファンタジー世界の王道のエルフか……?)
まさか本物のエルフにあうとは思ってもいなかったので、
紡はやっぱりここは異世界なんだな。と実感する。
「昨日お会いいたしましたが、改めて自己紹介させていただきます。
私は生活支援担当で、こちらの受付をしておりますリリア・フェンリスと申します。
どうぞお見知りおきを」
丁寧にお辞儀をする姿は凛としていて、思わず見とれていると――
フィーロを見た瞬間、リリアの表情が一変した。
「フィーロちゃん、今日も可愛い……」
口元を手で覆い、目を潤ませている。
(え…?)
紡が固まっていると、
リリアの後ろからふわふわした髪の少女がひょこっと顔を出す。
「わぁ……! この人が昨日リリアが話してくれたアマノさんなんですね……!
あ、えっと、私はミミルと申します! よろしくお願いします!」
ミミルは勢いよく頭を下げ、
その拍子にウサギのような耳がぴょこっと揺れた。
「よ、よろしくお願いします……」
(う、ウサギの耳がついて…動いてる…!)
紡は珍しい光景に思わず耳を凝視してしまう。
耳を見たまま固まっている紡を見て、
ネロが後ろからコホンと咳をつき
ハッと我に返り、すみませんと少し頭を下げる。
リリアが続けて言う。
「本日は顔色がよろしいようで安心いたしました。
早速ですが、アマノ様がこちらの世界で生活するにあたり、
支援を担当する職員をご紹介いたします。
どうぞこちらへ」
そう言って、受付窓口の反対側にある個室へ案内をされた。
通された部屋には、中央にテーブルとソファが置かれていた。
「どうぞ、そちらにおかけください」
促され、紡はソファに腰を下ろす。
「フィーロちゃんも座って待っていてね。今お菓子も用意するわ」
リリアは紡に話した時よりワントーン高い声でフィーロに話しかける。
「うん、ありがとリリア」
フィーロが笑顔を向けると、
リリアは胸を押さえながら小声で「尊い……」と小声でつぶやいた。
しかしすぐに凛とした表情に戻り、
「では、アマノ様の担当となる職員を連れてまいります。少々お待ちください」
と丁寧に頭を下げて退出した。
(ギャップの振れ幅がすごい……)
紡が呆気に取られていると、
リリアが出ていった入口付近で
ネロが立ったまま待機しているのに気づいた。
「ネロさんも座ったら?」
「俺はここでいい」
短く返し、微動だにしない。
「兄さん、頑固だから気にしなくていいよ。」
そう言いながら、フィーロはリリアが用意したお菓子をもぐもぐ食べ始めた。
(マイペースな子たちだなぁ……)
しばらくして、扉をこんこんとノックする音が聞こえ、
「失礼いたします。」とリリアが戻り
その後ろから、黒髪で眼鏡をかけた男性が入ってきた。
男性は紡の前まで来ると控えめに会釈をした
「初めまして。これから天野さんの支援担当となる、鈴木です。」
突然のことで紡の頭がフリーズする。
(ん? 今……めちゃくちゃ聞き慣れた名前が……)
「すみません。うまく名前が聞き取れなくて、もう一度いいですか」
「鈴木、です」
「鈴木って……まさか鈴木さんって!」
紡が勢いよくソファから立ち上がる
鈴木は少し驚きつつも、穏やかに微笑む。
「やっぱり。天野さんの名前を聞いたとき、もしやと思いました。
天野さんも日本から来たんですね?」
「そうです……! 日本の……千葉で、バイトの帰りに突然……」
「へぇ、千葉ですか。めちゃくちゃ地元ですよ。」
「え、ほんとですか! どの辺ですか? 俺は――」
言いかけたところで、紡はハッと我に返る。
周りを見ると、ネロ、フィーロ、リリアが目を見開いて驚いていた。
思いのほかテンションが上がりすぎていたことに気づき、
途端に恥ずかしさが込み上げ、
カーッと顔が熱くなる。
「……すみません……」
真っ赤になった顔を手で覆い、力なくソファに座り込む。
「……大丈夫だよ。」
フィーロがそっと頭を撫でる。
その声が優しくて、余計に恥ずかしい。
(恥ずかしくて死にそうだ……)
鈴木さんは異世界転移した後、ブラック会社に戻るのが嫌すぎて
そのまま異世界で働いて生きることを決めた人です。
労働はクソだが、こっちの世界のほうがマシというほど
本当は労働したくないけど働いてないと落ち着かないというかわいそうな人です。
これを書いてると心が痛む…
突然庭に枯れない油田ができないかなと考える毎日です。




