未亡人のマリーゴールド 五幕 理不尽と言う劇
手紙を読んでから私は不眠と食欲不振で心療内科に通った。けれど一向に回復できず虚無な日々を二年ほど過ごしていた。
「………………はぁ……」
今日も溜息しか出ない通院帰り。薬を飲んで寝て起きても何もやる気が出てこなくて、朝がきて夜が来るこの繰り返しだ。そんな日常を過ごしていたある時。担当している私の医師が、より優秀な先生がいるからそこの病院に、移ってみないかと相談を受けた。多分私の状態が今より酷く、専門の医者に診てもらった方が、いいと紹介してくれたのだろう。
なにも考える事が出来なかった私は言われるまま、頷きその病院へ通う事になる。
「はじめまして、桂木徹といいます。よろしくお願いします」
彼の第一印象は優しそうな感じだった。正直もう今の状況を誰かに説明するのはもう疲れた。寝ることも食べることが疲れた。この先のことを考えるのがもう嫌だ消えたかった。毎日このことしか思いつかない。そしていつものように話し終えて重い溜息を吐き出した。また来週からこの病院に通う事になる。
「話してくれてありがとうございます。来週また来てください」
「………………はい」
席を立って部屋を出ようとした時。
「…………お子さんが亡くなった原因を知りたくありませんか?」
何を言われたのか一瞬理解できなくて、固まってしまう。ドアノブを握ってた手の力が緩む、ゆっくり男の方に顔をむける。今までこの話や関係する事を耳にすることは、医療関係者達から止められていた。今ようやく落ち着いて来たところだった。が、何故この男は質問をしたのか意味が分からない。でも、私は過去という名の泥沼に、足がはまって抜け出せない。知りたい。どうして一歳になったばかりのあの子が死んだ理由を。
知りたい。
静かにドアから離れる。さっきまで座っていた椅子に座り直して私は聞き直した。
「……教えて下さい。あの子に何があったんですか…………」
今までにない気持ち、感情だった。何かをやり遂げたい気持ち。進みたいという思いが、ふつふつと胸の奥から湧いてくる。例えこれが人としてやってはいけない事だとしても、私は知りたい。そして復讐をする。
「…………俺が……悪かった!頼む……ガハッ!い、いきができない」
「何が悪いって言うの?……詳しく教えて?」
彼の首を”魔本”を使って妖精の様な姿になった、そして羽のような物で絞めつけいる。これは凄い尋常じゃない摩訶不思議な力を与えてくれた。
苦しむ元彼の顔をまっすぐ見つめながら、問い返した。周囲には肉を焼いた悪臭が漂っていて、後ろには焼け焦げになった死体が転がっている、それはさっき私が焼き殺した女である。
「…………あ、ああの子が亡くったのは……この女がちゃんと育児しなかったんだゴフッ!……俺はちゃんとお前に十分な慰謝料を払った!……だから!」
「…………」
締め付けている羽に更に力を込めた。気絶しない程度の力加減で。
「あがああああああ!」
私はあれから、あの男が教えてくれた情報で、今までこいつがこれまでしてきた事の経緯を知った。あの子がどうして死んだ理由も、死因は暴行の上の虐待で死んだと分かった。暴行していたのは床に黒焦げで床に転がっているこいつの内縁の妻だった。
「お、俺は……反対したんだ!あの子とお前を引き離すなんて!……だけど、この女が子供を欲しいってせがんで、し、仕方なく!」
「…………………………」
「うっ!」
こいつの今生の最後の言葉はこれで最後になった。私の右手が男の腹を貫いたから。
「…………もう、何も聞きたくない。さようなら」
「………………」
腕から流れ落ちる血の雫が、リズムを立てて床に落ちる。もう何も感情が湧いてこない、これまでこいつを殺したくて仕方なかったのに、不思議だ。
「……お腹が空いた。後……喉も乾いたな……………………」
部屋を出た私はあの男の元に帰る、そこには男と一緒に知らない青年がいた。青年は眠っている様で、私が来ても起きなかった。ある事に気が付いた私は納得した。
「この子が、今回の餌なの?」
「ああ、この子に活躍してもらう。だから食べないでね?」
「ええ、わかった…………」
空腹が限界で話が全然頭にはいってこない。この本を貰った時に説明を受けたが、副作用が酷い。激しい空腹と喉の渇き、普通のご飯や水では足りなくて困っていた。
「それで、これからどうする?」
「お腹が減ったから食べてくる、ごはんを」
「……いってらっしゃい」
男は笑って手を振って私を見送った。ふらふらな足取りの私は一刻も早く空腹を満たしたくて、大勢の人間が行きかうホールまで足が向いた、そして私は俯きながら止まった。一人立止まって私に話しかけてきた。
「……どうか、しましたか?」
「………………………………いただきます」
足元に何かの陣が現れて光った。陣は船全体を覆いそれを見た人達は驚き、小さな悲鳴と声を上げた。そしてそのまま破裂した風船のように。大勢の人間が破裂した風船のように、彼女の周りから連続に消えて行く。
暫くして誰もいなくなった。残ったのは鮮やかな血の血痕と血飛沫の跡しかない。
「ふぅ――――――――、……ご馳走様でした」
満腹の私は天井を仰いで笑った。満たされた瞬間だった。
「こうして私が今に至ることをしてきた」
今まで俯いていた立花稀華子は顔を上げて、俺に向かって話かけて来て以前から、疑問に思っていたことを質問した。
「…………船に乗っていた俺以外の人達は、どうなったんですか?」
「もういないわ、私のご飯になった」
「さっき言っていた、餌って言うのは何ですか?」
「あの男がある事を進めていて、その計画のためにあなただけ生かしたの……遅かれ早かれ私は疑われるから、きっかけなの。あなたは」
「…………じゃああんた捕まる前提で、こんなことをしてたのか!」
「もうなにも残っていない私は、最後にやりたいことをしたの……おかげで死にかけてるけどね」
「…………あんた、…………死ぬのか?」
立花は一冊の本を出して、見つめながら話した。
「この黒い本見たことある?」
彼女の質問に明は首を横に振る。それを見た彼女はふっと笑う、そのまま語り出した。
「これはね、どんな願いでも叶えてくれる魔法の本なの、これのお陰で私に色々な幸福が起きてくれて、幸せだったわ」
「…………」
すらすらと話す彼女を見て俺は何も言えなかった。彼女の気持ちが分からないから尚更何も言えない。
「でもね…………これは、この本はね使うとお腹が空くの……普通の食事じゃ足りなくて、時間の問題かな」
「……止められないのか?」
「何が?」
「い、今からでも自首しても、助かるんじゃないか!」
思わない言葉を聞いた彼女は目を丸くして驚いている。
「…………あは、はははははは!あなた可笑しいわね!自分を殺そうとしている人間の前で、そんなこと言うなんて、あははははは!」
「わ、笑うことないだろ……」
「はははは…………ふぅ――、ありがとうお兄さん。あなたのお陰で少し楽しかったわ、……またね」
一指し指で額を突かれた。その瞬間眠くなって来て、俺はまだ話したい事があったが抗えなかった。
「ちょっと……まって――――」
深い眠りに誘われて俺は意識を失う。立花稀華子の過去を知ったら情が湧いてしまったなんとか、助けられないかと一瞬思ってしまった。
だけど彼女はそんなこと思っていなくて、むしろ早くこの現状を終わらせたいという、雰囲気が漂っていた。俺は何もできなくて見ているだけだ、頼む桜さんこの人を助けてくれ。




