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未亡人のマリーゴールド 六幕 幸せだったはずの今

 俺は今何をしている?体が動かない声も出ない。

 視界だけが見える、歩いているここは廃墟のビルなのか?分からない、駄目だ思考がまとまらない。

 

「うーん!いい匂い。どこに飾ろうかなぁ?」

 


 何所からか声が聞こえてきた。そちらに視線を向けるとそこには、花を花瓶に挿して棚や玄関をうろつく女性の姿が見えた。

 

「早くあの人と暮らせないかなぁ、忙しいのは分かるんだけど、やっぱり寂しいや……」

 

 何故だろうこの光景を、見なくてはならない気がする。探偵さんや桜さんも気になる……。


 女性は花瓶を置く位置を決めて暫く眺めていた。一人暮らしなのか何かを思い出し、その場を離れた。暫く彼女の私生活や仕事の光景が続いた。順風満帆で生き生きとした。表情は楽しそうの一言だった。


  ……この時が一番楽しくて、幸せな日々だった。


 隣に立花稀華子が立っていた。俯きながら口を動かし、目は虚ろで輝きがない。俺は声をかけようとしたが声が出せない。

 俺は慌てたが彼女が浅く笑ってこう言った。

 


  君が起きたら、あの子に伝えてねこれを……それまで楽しんでってね。私はこの時自分をもっと輝かせるために色々やった、美容院、エステサロン、食べ物も、綺麗になれるなら努力を惜しまなかった。色んな人ともお喋りもしたわ、健康についてや洋服の着こなし方。本当に楽しかった……。

 

 ………………………………あの日までは。


  彼と付き合って三年が経過したある日、強い吐き気に襲われてトイレに駆け込んだ。胃の中の物を全部吐き出して、私はもしかしてと、あることが頭に浮かんだ。

 


 「……できた?…………もしかして赤ちゃん……かい?」


  私は無言で頷き彼の顔色を慎重に見ていた。彼は一瞬顔が曇ったが、すぐ笑顔になって喜んでくれた。


 「……おめでとう!……俺が父親になるのかー、なんだか照れるなぁ~」

 「よかった!喜んでくれて!一緒に育てていきましょう!」

 

 「ああ、もちろん!…………………………」



 一見普通の幸せな恋人同士に見える二人なのに、なぜか明の心はざわついていた。うまくいきすぎなのでは、と。ちらりと彼女を見たが相変わらず、俯いたままだ。


  私が妊娠して二カ月が過ぎたころ彼と食事していた時だった。

 「広い部屋に引っ越さないか?子供の為にも……」

 「……え?……ここってあの”東京”の物件?」

 

 「うん、”あそこ”は今物件が激安で広い所が沢山あるから、お得だよ」

 この時の私は度重なるつわりと体調不良で少し疲れていた、それに今いるアパートでは、とても子育ては出来ない環境で悩んでいた。そんな時に彼が引っ越しの話を持ちかけてきた。

 

 「…………でも治安が悪いよね?」

 「大丈夫!あまり外出しなければ安全だよ!一緒に暮らそう」


 

今の東京は昔と違って安全に住める場所ではなくなった。それなのになんでそこで住まなければ、いけないの?……大丈夫だよね。これからの事を考えての事だと私は何も疑わず頷いてしまった。それに何より寂しかった。好きな人とずっと一緒に居たかった。それだけでよかったのに…………。

 

 

 「………………うん分かった!」



 

 引っ越しの荷物をまとめて私は彼に教えてもらったマンションに向かった。正直ここまで来るまで不安と焦りがあった。あの東京で暮らしていけるだろうか…駄目だそんなこと考えてちゃ、お腹の子にも私にも悪影響を与えるから、考えない考えない。


 そしてマンションに到着した。案内された部屋は何故か家具や家電が、もう揃っているというか。誰かと誰かがもう暮らしています、といった雰囲気だ。流石の私も質問をした。


 

 「…………ねぇ、……もしかして誰かと暮らしてる?」

 

 「え!……いや、あの、……実は……先月まで友人が、泊まっていたんだ!ごめん片づけが間に合わなくて!」

 

 「…………そう…………」


 この時疑えばよかった。なんで引っ越しするのに、契約書類や物件の下見に行かないのか、焦りがさらに募っていった。

 私はとりあえず彼のマンションに居候という形で暮らした。なんだか不安だったため、前いたアパートの契約はそのままにして、彼との共同生活が始まった。彼はたびたび出張と言って家を空けることが、次第に増えていった、その間私は一人家に取り残される。不要の外出は避けるようにこの東京では注意が発表されていて、気分転換に外出が出来なかった。彼は帰らず、私は一人。大きくなったお腹が時々痛む。

 


 その間私と彼の関係は段々と溝が広がった。長期の出張、帰宅時間が深夜になったり一緒にいる時間が以前より格段に減っていった。そして、妊娠して十一カ月が経過した。出産予定日が一カ月も伸びてしまい難産だった。この日を境に彼は一切私に顔を出さなくなった。


 ………………………………………………………………………………………………。なんで、いないのあの人は。一緒に暮らそうって言っていたのに…………。

 赤ん坊の泣き声が聞こえてきて、訳もわけらず涙が溢れて手の上に零れた。消えたい、楽になりたいもう。

 

 

 一年が経ったころ。もう私は育児で限界を迎えていた、そこに彼は再び現れた。


 

 「………………なんて、……言ったの……?」

 「すまないが別れてくれ、子供は私が面倒をみる」

 「まって話の内容が見えない!……そもそも一年も帰って来ないで!いきなり今から別れろって!言われても納得できないわ!…………それに誰!この人は!」


 誰かも知らない女が一緒に彼とやって来て、子供を置いて別れてくれと矢継ぎ早に言われ、日ごろの疲れで頭痛と眩暈がしてくらくらした。女は彼の隣で携帯をいじり他人事のように振舞っている。その態度にも腹立たしくて、椅子から立ち上がった。その時視界が途切れた。


 

 目が覚めた時私は病院のベットで点滴を打たれていた。意識が朦朧としている私は何も話す事ができなかった。意識は子供がどうなったかずっと考えていた。医者から最低でも半年は休むように言われてしまい入院することになった。

 彼とあの子は一度も面会には来なかった。



 半年後ようやく退院できた。一人家に帰宅したが、入ることができなかったいや、暮らしていた家は売却の看板が貼ってあった。


 「…………………………………………」


 唖然としていた時間が分からないくらい、放心状態でいたのだろう。通りかかった人に声をかけられなかったら、ずっとあそこにいた。


 ふらふらになりながら、私は以前住んでいたアパートに、なんとか戻ることができた。そして、玄関に落ちていた一通の封筒を見つけて、そっと封を開ける…………………………。


 手から一枚の紙か滑り落ちた。私の目からは何故か大量に涙が溢れた。零れた。流れた。落ちた。


 この日、私は初めて日がの昇る朝焼けをみた。夕方と見間違うほどの朧気の輝きで不思議だった。夜とは、朝とは茫然とそんなことだけを考えていたただ。


 


 子供が死んだ。私が産んだあの子が。



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