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 ショーマの泊まっている宿屋の部屋には、そこに泊まった客が自由に使える倉庫が併設されていた。なんでもこの宿屋は、この町にやってきて長期滞在をする冒険者をターゲットにしているらしい。

 まさに、今の自分にうってつけの場所だということだ。


「うーん、結構ごちゃごちゃしてるな……」


 自分の泊まっている部屋の、クローゼットに似た倉庫に頭を突っ込んで、ショーマはゴソゴソとアイテムの整理をしていた。

 そこにしまわれたアイテムの数は、装備品だけでも十から二十。錬金や調合用のアイテムまで入れれば結構な数がある。これは、鈴科翔馬すずしなしょうまがゲームとしてこの世界を遊んでいた時に手に入れたアイテムの全てだった。

 要らない装備やアイテムは全て売ってしまう性分だったためこのくらいの数で済んでいるのだが、もし自分に収集癖があったとしたらと思うとゾッとした。もしかしたら、この部屋の大半がアイテムで埋まっている、そんな光景になっていたかもしれない。

 とはいえ、今のところすべてのアイテムは倉庫に収まっているので、特に心配することもないのだが。

 そうしてしばらくの間、ショーマは倉庫に頭を突っ込んでいたが、ふと、あるアイテムを見つけてその動きを止めた。


「巫女服……」


 それは、あるイベントで手に入れたユニーク装備の一つだった。多くの防御効果、特殊効果がついており、基本性能の高さと相まって強力な防具として有名な装備品だ。

 もしこれを装備することができたら……などと考えて、ショーマは絶望に頭を振った。性別を考慮しなくても、オークの巫女など誰が得するのか……。

 頭に浮かんでしまった想像を振り払うように、ショーマはもう一度倉庫に頭を突っ込んでいた。

 ゴソゴソと、服や鎧、剣や斧を次々に整理していく。服は壁にかけ、重い武器は奥の方に立てかけて……。

 そうして小一時間ほど経ったところだろうか。ショーマは倉庫の隅の方に、キラリと光るものを見つけた。


「これは――」


 手に取って見るとそれは、コバルトブルーに輝く蝶の髪飾りだった。反射的に、ショーマは自分の頭を撫でてみる。……つるりとした肌触りが心地いい。どうやら、今の自分には必要のないもののようだ。

 とはいえ、アクセサリー系の装備品は数ある装備の中でも格段にレア度が高く、貴重なものが多い。


 ――売ったら、良い金になるな。


 なんてことを考えて、ふと、思いついた。


「……そうだ、おにぎりのお礼もしないとな」


 頭に浮かんだのは、一人の少女の姿だった。

 自分が悪いことをしたと思って、その罪滅しのために恐怖心を隠してまで自分に近づいてくれた女の子。そんな優しい子に、もう気にしなてもいいんだよと、仲直り、というわけでもないが、これをプレゼントするのもいいアイデアではないだろうか。少なくとも、こんな豚野郎の手にあるよりも、この髪飾りも嬉しいはずだ。

 そう考えるといてもたってもいられず、ショーマは部屋の外へ飛び出した。





 冷静になって考えると、今の自分からあの子に何かを渡すのは難しいのではないか。そう考え、ならばどうするかと思った矢先に目の前を通ったのは、褐色赤髪の美人さん、キリエの姿だった。

 思わず呼び止め、それからサナエにプレゼントを渡したい旨を話し、代わりに渡してくれないかと頼んでみた。


「自分でやるのだね」


 ――そんなことも自分でできないのか。

 冷たい目がそう言っていた。

 ショーマはしょんぼりと肩を落とし、仕方なしに自分で渡すためにサナエを探すことにした。

 願わくば、あまり怖がられませんように。





 そもそも人口が二百人にも満たない町だ、探し人をするのもそう難しいものじゃない。

 ショーマは一時間ほど町の中を歩きまわって、サナエを見つけることができた。女の子らしく背中の半ばまで伸びたサラサラとした髪に、少し汚れた白いワンピースを纏っている。


「……うーむ」


 さて、どうしたものか。

 このまま声をかけてしまっていいのか、また怖がられ、悲鳴をあげられたりはしないだろうか。

 そんな考えが頭をよぎり、しばらく道を歩くサナエの後ろ姿を見ていると、ふと、サナエが何かに気づいたかのように振り返った。

 視線が交差する。


「あ、ショーマ……さん……」

「や、やあ、サナエちゃん」


 なんとも言えない沈黙が場に吹き荒ぶ。

 どうやって声をかけたらいいのか、全く検討の付かないショーマは、頭をかいて困ったように苦笑いを浮かべている。


「……ふふ」


 そんなショーマを見ながら、サナエは思わずといった調子で小さく笑いをこぼした。


「あ、ごめんなさい……なんだか、可愛くて……」

「え、可愛い? 俺が?」


 この姿になって、まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。ショーマは自分の姿を見下ろす。

 ……どうみても、上半身裸の豚野郎です。


「あー、いや、そんなことよりも」


 ショーマは背負った荷袋の中から、先ほどの蝶の髪飾りを取り出し、


「あ、綺麗」

「でしょう? これ、髪飾りなんだけど」


 すっと、サナエの方に差し出した。


「サナエちゃんにあげるよ」

「え、そんな!」


 もらえないです、とサナエは大きく首を振った。

 そのもらえない、という言葉は、嫌悪感などではなく、単純に遠慮しているようだった。ならば、と、ショーマは一歩、サナエに近づく。


「俺が持っていても仕方ないしね。こういうのは、可愛い子の手にあったこそ、だよ」


 出来る限り穏やかに、サナエに笑いかけた。


「え、えっと、そのう……」


 それでも遠慮するサナエに、ショーマは思い切って屈んでサナエの手を取ると、


「おにぎりのお礼。と、仲直りの印」


 その手にそっと髪飾りを握らせた。

 サナエはもう、ショーマを怖がってる様子はなかった。ただ、こういったプレゼントに慣れていないのだろう。困惑し、混乱している。とはいえ、その困惑は悪いものではない。そうショーマの目には映っていた。

 

「あ、あの! ありがとう、ございます」


 髪飾えりを手に、サナエは少し頬を赤くしてつぶやいた。

 そうして手の中で転がすように様々な角度で眺めたと思うと、はっと気づいたように髪飾りをつけはじめた。チラチラとショーマの様子を確認しながら、焦っているのか、なかなか着けられない。

 それを、ショーマは微笑ましい気持ちになりながら眺めていた。本当に、自分に妹ができたかのような気持ちだった。


「あの、どう……でしょうか」


 髪飾りを付け終え、サナエは上目遣いにショーマを見た。


「うん、似合ってるよ」


 それはまるで、サナエのためにオーダメイドしたかのように髪に馴染んでいた。きっと数年後には、サナエはかなりの美人になるだろう。そんな将来を予感させる可愛らしさだった。

 ショーマの言葉に、サナエの顔にぱっと花が咲く。


「絶対、大事にします!」


 今のこの瞬間だけは、この世界に来られてよかったと、そう思えることができた。

 願わくば、この平穏が長く続きますように。

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