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魔法は時代に殺された ~古代魔法検死官は失われた意味を読み解く~  作者: 花黒子


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魔法検体07《切断》


 昼頃に起き出して井戸で顔を洗っていると、リグモアが霊魂を入れていたはずのビンを持ってきた。

「おはようございます。どうしたんですか」

「おはよう。ごめん。毎日の日課で精霊に祈りを捧げていたら、浄化してしまったみたいです」

 ビンの中にいたはずの霊魂が消えている。「鑑定」で調べても、偽造もされていない。


「まぁ、仕方ありません。霊魂たちもこのまま古代魔法の実験につきあわされると思ったら、現世にしがみつくのはやめようと思ったんじゃないですか」

「安らかであればいいのですが、また遺跡に戻ってしまった可能性もあります」

「ああ、『封印』ではなく『収納』でしたから、自ら出ていったのかもしれません。そもそも魔法の効果が切れただけじゃないですか」

「確かに、コルクには何も仕込んでませんから、ただ出ていっただけかもしれません」

「古代の人も『収納』も含めて、魔道具にしないと使いにくかったんでしょうね」

「魔法の持続時間もせいぜい2日ほどですから、専用の壺などに閉じ込めないと維持できないのでしょうね」

「だから『接着』して固定しようとしたということですかね。行動と運用とは違うということでしょうか」

「運用ですか。調整しながらその空間を維持するということですね」

「そうです。組織や自治体、国もそうですが、状態としては常に安定しているわけではありません。だからじゃないですか。『保温』や『接着』って状態の維持に向かっていましたよね」

「古代はそれだけ安定していなかったということよね。だからこそ、魔法ができ、その後、安定し始めたら維持の必要もなくなって消えていくと……。世の理なんですね」

「そうかも知れません。同時期に現れた『切断』は現代の魔法にもありますか」

「ないです。ハサミもあるし、剣もあります。刃物で十分なのに、魔法にしたという事はなにか、また別の効果があるかも知れませんよ」

「そうですよね」

 そう言いながら、タオルのほつれた糸を古代魔法『切断』で切ってみた。あっさりと切れた。後は石でも切れるかどうか。

 教会の庭にあった大きめの石で試してみたが、まるで切れない。傷ひとつ付いていなかった。


「やはり魔法を使う者のイメージ次第なんでしょうか」

「無形のものなら切れるんじゃないですかね」

「霊魂とか概念ですか。いや、記憶とか」

 そう言って、俺とリグモアは顔を見合わせた。


「また禁術じゃないですか」

「残らないわけだ」

 記憶をある時期から「切断」できるとしたら戦争のトラウマはなくなる精神医療行為だろう。ただ、成功した経験や失敗した記憶を切断できてしまったら、人はなにを人生と呼べばいいのだろうか。


 古代魔法「切断」を殺した犯人は、安定した時代の倫理観だ。それならいいが、違う可能性も、もちろんある。


「検証しましょう」

「ええ、絶対に検証スべきです。もし遺跡そのものに取り憑いている亡霊がいたら、記憶ごと切り離せるなら、その方がいいですから」

 さっそく遅めの昼食を食べて、準備をして、遺跡へと向かう。外が明るい時に来るのは初めてだったので、新鮮だ。昨夜の戦士たちが入った棺はすっかり燃えてしまい、灰になっていた。

 

「案外早く燃えましたね」

「ええ。骨が依代になりますから、全部砕いて、壺に入れてしまいましょう。集団墓地にいれますから」

「わかりました」

 戦った相手だからか、あまり忌避感もない。穢れがあれば「清掃」を使えばいいと思っているのかも知れない。

 骨と灰を壺に「収納」し、さらに隔離しておいた。これで動物がひっくり返しても飛び散ることもない。帰りがけに拾って帰ろう。

 リグモアはシスターなので、戦士たちに昇天した祝詞を唱えて、魂を鎮めていた。


「行きましょう」

 リグモアの切り替えは早い。

「栗や胡桃が実り始めているでしょう。徐々に獣が出てくるんです。修行が終わったら手伝ってくださいね」

「もちろんです」

 修行と称して、食事も寝床も頂いているので、手伝うことに文句はない。かなり古代魔法も調べられたし、レベルまで上がった。教会で古代魔法を調べながら修行をするのも悪くないだろう。


 遺跡の外に拠点を作り、焚き火の準備をしてから中へ入った。

 初めの部屋には、霊魂が4体警戒しながら浮いていた。もしかしてビンの中にいた霊魂だったか。


「試します」

「了解」

 俺はリグモアに断りを入れてから、霊魂に『切断』を放った。特に鎌鼬や風魔法のような魔法が手から放たれるわけではない。ただ、ゆっくりと確実に、霊魂たちの胴体と腰がズレ始めていた。

 痛みはないのだろうが、かなり混乱して腰を持ち上げながら逃げ出そうとしている。


「切れましたね」

「ええ。続いて、我々に対する記憶も『切断』してみましょうか」

「お願いします」

 俺たちと霊魂の間に『切断』を使ってみた。こちらが霊魂を4体ビンに入れていたという記憶はなくならない。ただ、こちらを見ても逃げ出さず、腰から下を持ち上げたまま、敵意をむき出しにしてきた。

 記憶も「切断」できたようだ。


「遺跡との間も『切断』できますか」

「やってみます」

 俺はアンダースローのように身をかがめて、浮いている霊魂たちの下に『切断』を使ってみた。やはり風魔法のようなものは出ない。ただ、白く濁った透明だったはずの霊魂たちが、人魂、つまり青白く燃えている火球になってしまった。


「あっらぁ! こんなんなちゃうのね」

 リグモアは驚きながら笑っていた。

 人魂でも幻惑魔法を放ってくるので、俺は「保温」で状態を維持する。リグモアにもかけておいた。


「姿形って土地に由来しているんですかね」

「踏みしめた土地で見た自分の姿を本当の姿だと思っているのでしょうね。その記憶を『切断』されると、姿形まで維持できなくなってしまう」

「これって、『接着』で繋ぎ直せたりするんでしょうか」

「できるかも知れませんね」

 編集可能ということか。

 ただ、『接着』させてみたが、遺跡には彼らの記憶自体保存されていないので、転がる石の魔物になってしまった。


「こうなっちゃうと、もう戻れそうにないわね!」

「倒しますか」

「もう呪いになってしまっているので、『清掃』でいいでしょう」

 俺は「清掃」を唱え、石から呪いを解いた。残ったのは動かなくなった石だけ。


「霊魂を人魂にして、人魂を動く石という魔物にして、呪いを解く形で、滅したということですよね」

「面倒なことをやってますけど、霊魂を倒している判定になるんでしょうか」

「わかりませんが、経験値は入っていると思います」

「もう少し検証してもいいですか」

「もちろんです」

 俺たちは遺跡の奥まで進み、霊魂、亡霊、魔物化した人魂などで『切断』を試してみたが、概ね、呪物化して解呪できてしまった。悪いことではないのだけれど、明らかに自分よりもレベルが高いであろう亡霊などもあっさりと倒していることに、違和感がすごい。


「動く死体系のアンデッドはどうですか」

「白骨化しているものは繋ぎ目の腱がないわけですから、『切断』はできますよね。紐とかと代わりません。腐肉がまだ付いているものは、『清掃』を使って呪いを解いてから『灯火』で導いて、落とし穴で焼きました」

 途中からリグモアは魔物が出てきた棺や穴から、あの世への渡し賃などを回収し始めていた。辺鄙なところに住んでいるからこそお金は必要なのだとか。

 遺跡にいる蝙蝠の魔物や蜘蛛の魔物以外は、だいたい倒せるようになり、そこから一週間ほど俺は遺跡と教会を往復しながら、亡者たちを倒し続けた。


 レベルもまた上がった。

「レポートとしては、『切断』は無形のものならかなり切断できる事がわかり、記憶の切断という効果も証明できたが、現代では禁術として指定されていることが推察できる。また、土地との関係を切断できることから、使役形の関係なども切断できることは推測できるが、未検証とする、としました」

「わかりました。修行を終えたというよりも、ある程度アンデッドの専門家になったので街に帰るということですか」

「いえ、レベルが上って書類系の古代魔法が見えてきたため、一時的に街に帰るということです。栗拾いには戻ってきますから」

「なるほど、首を長くして待っていますからね」

 リグモアは一人暮らしが長かったせいか、一人暮らしに戻るのが寂しいらしい。


 俺は森の師匠と分かれ、街へと帰った。帰り道は覚えていたからか、かなり短く感じた。レベルが上がった影響だろうか。まるで強くなった気はしない。


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