魔法検体05《収納》#3
起きたのは昼前で、すっかり空が明るかった。寝汗がすごく、頭が信じられないくらいはっきりしている。すぐに起き上がって、シーツを選択して、干しておく。
「寝付けていなかったようだけど、ちゃんと昼前には起きてきたのですね」
「おはようございます。汗が止まらなかったみたいで」
「そのようですね」
リグモアはクリスタル越しに俺を見ていた。
「レベルが一つ上がっています。能力も全体的に上がっていますが、使える古代魔法の種類は増えていませんか」
「ああ、そうかも知れません。こうやって魔法は発展するんですか」
「いえ、知識や経験によって変わるんですが、古代魔法ばかり鍛えていたからです。普通は仕事によって年月をかけて身につけていくんですけど、多くの冒険者は便利だからと、どんどん覚えていってしまいます。セイチさんはどうします?」
「自分は、もう少し古代魔法を調べてからにします。レベルを上げなくても覚えられる魔法があるなら、そっちのほうがいいんじゃないかと」
「でしょうね。食事にしましょう。その後、古代の『収納』についての観察と効果について調べていきましょうね」
「よろしくお願いします」
食事は、食べられるものなら全部腹に収められそうだった。とにかく腹が減っている。
「レベルアップとは言っていますが、強制的な急成長ですので、身体が馴染むまでゆっくりやっていかないと、ドアを壊したりする人もいます」
「なるほど、俺も気をつけます。それより、こんなに食べていいんですか。突然、来て、食料も2倍になってしまって」
「大丈夫です。見ていたと思いますが、魔物から錆びた剣や錬金術に使う素材なんかを回収していますから。定期的に物々交換をしてくれる行商人の方も来てくれますので、むしろ素材を入れる樽を倉庫から出してこないといけなくなりそうです」
「そうですか。では後で指示をください。食事は遠慮なくいただきます」
「どうぞ」
俺はパンもベーコンもチーズもサラダも腹が一杯になるまで食べた。味は昨日よりも濃く感じた。ベーコンの塩気が強いからだろうか。片付けをして、お茶を飲んでから、古代魔法「収納」の研究に入る。
4つのビンには、それぞれ遺跡で見つけた霊魂が入っている。小さい山賊の霊魂が、不機嫌そうにビンの中で項垂れていた。
「もともと私はこんな霊魂が小さくなるとは思ってなかったんですよね。通常は壺で収められるようなものなんですけど、古代では小さいビンでも構わないと昔、本で読んだことがあってもしかしたら古代魔法を知るセイチさんなら、できるのではないかと思ってやってもらったんです」
「あ、そうだったんですか。できていますよね。古代ではあらゆるものを収納する魔法だったということなんでしょうか」
「呪いや霊魂などの概念がはっきりしている物なら収納、もしくは封印できたと考えられるんじゃないかと思うんですよ。実体そのものはないので、ワインのビンでも入ったということでしょうね」
「これって、ビンを振ったら、ビンの魔物になったりするんでしょうか」
「やってみましょう」
ビンの中の山賊たちが恐れおののいていたが、リグモアと二人でやってみた。残念なことに、ビンに思い入れもなく、昨夜入れたばかりの霊魂はビンに定着せず、かなりグロッキー状態になってしまった。
「まぁ、死人に口無しですし、我々を襲おうとした亡者たちなので、一切気を使う必要はないです。しっかり古代魔法の練習台になってもらいましょう」
リグモアは死人に結構厳しい。
俺も古代魔法「収納」が、その時代によって規制されてきたことで、失われた意味を掘り返している途中だ。時代のつなぎ目で何が起こったかは記録に残っているものの起源まで辿り着いていない。
「もう一つ、実験をしてもいいですか」
「もちろん」
「水を入れたらどうなるんですかね」
「別に霊魂だから……」
リグモアはそう言いながら、ビンの中身を見ると小さな山賊たちは首を横に振っていた。死んでなお運が悪いモノたちはいる。
「やってみましょう」
井戸から水を汲んできて、コルクを開け、水を注ぎ入れてみた。霊魂たちは飛び出そうとするも俺がずっと「収納」を使っているので、ビンの底の方で小さくなっている。
「おや、ちょっと待ってください。水が底まで注がれていませんよ!」
リグモアが言うように、霊魂の周囲に立方体の膜が張られていて水が霊魂まで届いていない。
試しに「収納」を解いてみると、霊魂たちが溺れていた。すでに死んでいるので死ぬことはないはずなのに。水をビンから出したあとも底で倒れて、ビンの底を叩いて抗議していた。
「本当に空間魔法みたいなものだったんですね」
「隔離されているような感じでしょうか」
「それ、いい言語化ですね。古代魔法『収納』は隔離の魔法でもあったと……」
メモを取りながら、研究を続ける。
「隔離できて形を変える事ができるのなら、空間魔法の魔法使いということになりませんか」
「あり得る話ですよ。ちょっと外に出てやってみましょう。森の木々を隔離してまとめられますか」
ビンを置いて、外に出て実験する。
一本の若木を「収納」できるか試してみたが、途中で魔法が霧散してしまう。葉であれば、収納できるが、葉の形が変形する。枯れ枝も変形するが、行き場がなく俺の足元に落ちていた。
「樽ならあります。倉庫から持ってきましょう。壺もあったかしら……」
俺達は倉庫から樽をいくつか出して、さらに実験していく。
結果、樽や壺というはっきりした収納スペースがあると、ベンチくらいの大きさまでなら収納できることがわかった。ただ、かなり苦労する。
「つまり、自分が持てる重さであれば収納できるが、あまりに大きく小さくなるイメージができない建物などは無理だということでしょうか」
「そうだと思います。ただ、物理的に大きな物は魔力の消費が激しいですね。奴隷を運んでいたと古い本に書かれていましたが、魔力もそうですが体力がないとできないと思います」
「それは生き物でもそれほど変わらないのですかね」
「鳥ならいけるのでは……?」
言っている側から試してみて、鳴いている鳥を壺に「収納」できた。
「これ、かなり危険ですよ」
「そうですね。持ちあげられそうな重量なら、『収納』してマグマや落とし穴にでも落とせばいいだけですから。でも、逆にこの魔法を作った人はかなり切羽詰まっていたんじゃないですかね。つまり火事にあって、自分の子や妻を火の手から隔離し、商品を収納しないといけなかったとか……」
「それなら納得できます。火事場の馬鹿力が、魔法に向かったと考えると理解しやすいです。近年でも災害時になぜか無傷で助かる人というのが記録にも残っていますし」
俺は鳥を解放し、ベンチをもとに戻して、メモに残した。
古代魔法「収納」は、時代とともに変化する倫理観に殺され続け、今では魔道具として制限されている。ただし、起源を考えると、のっぴきならない人の思いが詰まっているように推察できる。今では禁術ではあるが、災害時における対策として知っていてもいいのかもしれない。
後日、魔法図書館で要確認だ。
「今日も遺跡に行きますよね」
「セイチさんは疲れていませんか」
「ええ。問題ありません。むしろレベルが上って、身体を慣れさせたいです」
「確かに」
「それから、実はレベルが上がったからか『収納』の近くに2つ魔法が出てきているのですが……」
「通常であれば、レベルがひとつ上がった程度で、いくつもの魔法を習得はできないはずなんですけど、ここまで調べて身に付けているなら、そういうことも起こり得るんですね。ちなみに、なんの魔法ですか」
「古代魔法『接着』と『切断』ですね」
「では『接着』から始めましょうか。現代の魔法体系では聞かない魔法ですから」
俺たちは、遺跡に行く準備を始めた。ビンの中の霊魂に関しては、しばらく礼拝堂の中に安置して経過観察することにした。




