魔法検体05《収納》#1
冒険者ギルド内での試験が終わり、職員たちの引っ越しが始まっていた。猫耳職員ことミラもこの街に引っ越してきて、なぜか俺は知り合いとして引っ越しを手伝うことになった。男手が必要な場面もあるだろう。
「物が多くないか」
仕事ではなくプライベートなので、特に敬語は使わない。
「仕方ないでしょ。女には捨てられない物が多いのよ」
ひたすら木箱やベッドの木枠をミラの新しい部屋に運びいれていった。この世界はトラックじゃなくて、馬車での引っ越しだから新鮮だ。
「街だと、やっぱりストレージを買ったほうがいいのかな」
「ストレージってなに?」
「え、マジで」
「田舎者過ぎて、存在すら知りませんけど、魔道具かなにか」
「そう。『収納』の魔道具ね。見た目より多く入って、同じ物ならたくさん入るという」
「生き物は入れられないとか」
「その通り。昔、事故があったみたいでね」
いいことを聞いた。そして古代魔法にも「収納」がある。おそらく事故で失われた機能をまだある状態だ。
「へぇ、そうなんだ。荷物が増えたら、そのストレージを買ったらいいんじゃないか」
「高いのよ」
「仕事を頑張ればいい。宿生活している俺には生活費しかないよ」
「どうせ冒険者ギルドと魔法図書館くらいしか行かないんだから、住めばいいじゃない」
「いや、遠出をする可能性だってあるからね」
確かに部屋を借りた方が安上がりだが、宿代が払えなくても教会があることを考えると、今の方が楽なのかも知れない。いつまで古代魔法を調べる生活が続くかわからないし、古代魔法のチートを使うにも基盤が必要だ。
「遠出の予定はあるの?」
「ないよ」
「なんだよ」
そう言いながら、昼食を奢ってくれた。冒険者ギルドの職員にいいように使われているとも言う。腕はパンパンに筋肉痛だ。
冒険者ギルドの裏手にある井戸で水浴びをしてから、魔法図書館へと向かった。
「今日は何を調べるの?」
早速、エルフ司書のシルヴァが聞いてきた。
「古代魔法の『収納』について。禁書になっていますか」
「そうね。そもそも『収納』はかなり前に禁術になっているわ。空間系の魔法は強力だし、そもそも魔力消費が激しいのよね。しかも、魔道具は事故もあったし」
「ストレージの事故についても知りたいんですけど」
「だったら、魔物のミミック関連書と『こんな死に方は嫌だ大全』がいいんじゃないかしら」
この世界にもふざけた本を売る出版社があるのか。心強い。
本の場所を聞いて、余計なところまでしっかり読み込む。
直近の事故は260年前だそうで、ミミックという宝箱の魔物の死体を使ったストレージがあったそうで、その中に獣人やエルフなどの希少な奴隷をまとめて入れて、骸骨剣士として出てきたという。消化されたのかも知れないと書かれていたが、かなり嫌な死に方だ。
生きているミミックにも「収納」を使ったところ、屋敷が丸ごと消えたという事例もあるそうだ。昔も今も頭のおかしな人たちがいるものだ。
古代魔法「収納」が事故によって、法的に規制されていったため、殺されたのはわかった。では、そもそも「収納」とは空間を押し広げるための魔法だったのだろうか。
ミミック自体、呪われた宝箱から生まれた魔物とされている。つまり海賊やその時代の大富豪が、隠しておきたいものを宝箱の中に入れて、そのままの状態で受け継がれ、周囲から呪われ続けた結果、ミミックとなるとも書かれていた。ちなみに、宝箱の他、壺などの密閉できる収納家具が魔物化するらしい。
呪術やまじないが発展した時代に変化している可能性はあるが、古代魔法「収納」は勇者が使っていたとも言われており、かなり古い魔法だ。
「精霊とも繋がっている可能性があるということか」
ついでに勇者関連の書籍も読み進める。やはり勇者は世界を旅しながら、魔王城に攻め入っている。勇者は旅人なのに対し、魔王には城があり、居住スペース含めて、魔王軍で古代魔法「収納」を使っていた魔物はいなかったのではないかと推測できる。もし、「収納」を使える魔物がいたら、魔王ごと「収納」して入れて逃げ出せばいい。
勇者は精霊の加護があるということは、精霊魔法を調べると出てくるかも知れない。
ただし、精霊魔法関連の本もやはり禁書になっているケースが多いようだ。僅かな精霊関連の本から空間を密閉するような魔法はないかと調べていくと、「封印」する魔法というのが出てくる。
「中に収めるという点では似ているのかな」
当然「封印」のやり方は書かれていない。やはり精霊を祀っている教会に行くしかないようだ。
本を片付けて、シルヴァに挨拶してから、魔法図書館を出た。
広場で新作のデザートを買い、教会へ向かう。先日、薬草採取で稼いだお金も使ってしまった。さて、そろそろ教会で寝床を確保する手筈を整えておこうという算段だ。
昼間の教会では庭でシスターたちが草むしりをしていた。
「どうも」
「ああ、セイチさん。なに? また頼み事」
「はい。『収納』か『封印』について知りたくて」
「いいでしょう。皆さん、休憩にしましょう」
シスターが声をかけてくれて、俺は教会の人たちがむしった草を集めて、大きな袋に詰めた。
「新作のデザートね。渋めのお茶を用意しましょう」
手洗いをしてから、皆、食堂に集まっていた。
「それにしてもセイチさんは仕事の調子がいいようですね」
「そうでもないです。来週から教会の軒先で寝泊まりしようかと思っていたところです」
「そんな……。本当?」
「俺はその日暮らしの冒険者ですよ。前に調べた古代魔法で、魔物を罠にはめて倒すことはできると思うんですけどどうも気が進まないというか、わざわざ準備したりするのが面倒で……」
「ものぐさですね」
「レベルを上げるとなにかいいことがありますか。美味しいものがより美味しく感じたりします?」
「さぁ、我々もそんなにレベルが高い方ではありませんから」
「そうですよね。でも、祓い屋とか戦う僧侶、パラディンみたいな人たちっていないんですか」
「いますよ。この教会にはいませんけど、森の奥地にある教会なんかは解呪の研究をしているはずですし、『封印』についても歴史書があると思います。紹介状を書きましょうか」
「お願いします」
「では、その前に今回の古代魔法はなんですか」
シスターたちも俺が古代魔法を追いかけていることを知っていて、興味を持ってくれているようだ。
「古代魔法『収納』です。かつてはミミックの事故があった魔法ですよ」
「ああ、知ってます! 確かに、古い魔法ですね」
牧師は大きな声で納得していた。
「でも、どうしてセイチさんは教会に来たんですか。あまり関係ないように思いますけど」
「勇者が『収納』を使っていたという話は本にも書かれていたんですよ。勇者は旅人でアイテムを持ち運ぶのには便利な魔法じゃないですか。でも、魔王に関しては城まであるわけで『収納』があったら、小さい城でよくないですか。防衛だけを考えた砦で良かったはずです」
「確かに、言われてみるとそうかもしれませんね」
「そこから勇者は精霊魔法を使っていたから、現在でも精霊を祀っている教会に来たというわけです」
「なるほど、筋が通っている」
「だから教会で行うことで、空間を密閉することとか空間に関することってありませんか」
「儀式ならありますよ。精霊の御言葉を伝えるために、精霊を呼び出す時なんかは、祭壇と人の領域を分けますからね」
確かに前世でもそういう領域を区切る儀式は見たことがある。神域というのもそれに当たるだろう。
「ちなみに、精霊を呼べるんですか」
「ほとんど呼べないです。精霊も忙しいですし、勇者でも探しに行ってるんでしょう」
「でも、たまに呼べることはあるんですか」
「ありますよ。教会に光が差し込んできて、この一節を読めということですね、みたいなことが。世界のどこかに勇者や転生者が現れたり、魔王が現れるときも精霊が声に応えると言います」
「そうなんですか」
「精霊魔法が教会にも伝わっていますが、魔力が多いとかじゃなくて、動物と話せる人のほうが精霊魔法は上手いとされていますね」
シスターたちが教えてくれる。
「じゃあ、自然の中から生まれた魔法なんですかね」
「そうだと思います」
お茶の用意ができたところで、一緒にデザートを食べ、食後に紹介状を書いてもらった。
「もうすっかり日が暮れているので、明日行くといいでしょう」
「ありがとうございます」
俺は宿に帰り、森の奥地へ行く準備をした。もしかしたら、魔物に遭うかも知れない。正直、今覚えている古代魔法で倒せる魔物はアンデッド系の魔物や僅かな毒を食らってくれる獣系の魔物だろうか。
俺は緊張感と期待が入り混じったままベッドに潜り込んだ。決して柔らかくないベッドだが、今日で最後になるかもしれない。




