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魔法は時代に殺された ~古代魔法検死官は失われた意味を読み解く~  作者: 花黒子


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魔法検体09《翻訳》

 この世界に来て、話が通じないということはあっても、言葉が通じないということはなかった。だけど、古代魔法「翻訳」が発生した時は迷わず調べることを決めていた。


「種族間による言葉の壁ってあったんですか」

「ありましたよ」

 歴史を知るエルフ司書ことシルヴァは当然のように言った。


「今の公用語が話されるようになって400年ほどだと思いますし、古い魔法の継承なんかは今でも種族語が使われています。そもそも詠唱、呪文などは精霊と交流があった時代の言葉ではないですか」

「俺は、だいたいこんな感じで伝わるだろうと思って、呪文を唱えてますけど、あれって精霊には伝わってなかったんですかね」

「伝わってない訳ではないと思いますが、片言で話しているように聞こえてるんじゃないですかね」

「なるほど。昔の翻訳辞典のようなものってないですかね」

「ああ、古代文字の解読書ならあると思いますけど……」

「それで構いません」


 本棚の場所を教えてもらい、俺は辞典系のコーナーで、『読める! 古代文字解読漫遊記』を手に取った。どうやら作者は、古代言語の石碑が残る場所に赴き、40年以上の歳月をかけて解読していったという。


「羨ましい人生だな」

 読んでみると、獣人と呼ばれる獣の耳が付いている人種は、かつて獣の種類によって言語自体全く違ったそうだ。それだけでも興味をそそるが、草食系か肉食系かによって儀式の成り立ちが違うため、精霊への供物を貯め込むか、舞踊や戦闘技術を捧げるのか、など細かく分類できるとか。

 さらに、森のエルフことウッドエルフたちの儀式では、動物に精霊を降ろし寝食をともにして、最後にその動物を殺し、食べることによって精霊を宿すという考え方があったらしい。

 そのエルフたちの中でも、塔に住むエルフたちがいるようで、彼らは塔の頂上で精霊と対話しながら、星を詠み、現代にも残る詠唱を作っていったという記述もあった。


 メモを取る手が止まらない。

 他にもドワーフは、鉱山で働くことが多いから、支えることや維持することに重きをおいていて、実は広まっていない魔法をたくさん知っている。

 小人族はタイミングを測るような魔法をたくさん知っているが、種族の拡散とともに忘れ去られているようだという。

 150年ほど前の本なので、すでに忘れ去られている魔法も多いだろう。


 俺が最も知りたかった魔物の言葉についても書かれていた。

 当然、魔王がいて魔王城があったということから組織化されているわけで、当然言語も発達していたはずだという推測だけで、作者は毒沼や植物が襲ってくる森などにも分け入っている。

「行動力がすごい」

 そもそも降霊術を扱える作者の姉から、いろんなお守りを渡されていたから、死ななかっただけだと本人も語っている。

 実際、鳥の言語や狼の遠吠えなんかは解明が進んでいるが、魔物の言語に関しては「従属」などの言語から派生したものではないかなどと初期には推測していたが、細かい指示などはどうやっても伝えられないので、やはり高度に発達した言語が必要だとしている。そもそも魔物に武器を持たせた、鎧や大剣を作っていたというから唐突に魔物文明が勃興していたのだろう。


「そもそも魔法を扱う魔物だっていたわけだよな」

 俺は魔物図鑑も見ながら考えた。元人間の魔法使いだった骸骨は魔法なら使えるわけで、言語だって不自由しなかったはずだ。むしろどうやって魔物が言語を受け取っていたのかの方が案外重要かもしれない。

「古代魔法『翻訳』は自分にではなく相手に使うのか」

 街では使われていないだけで、実は地方では未だ使われている魔法なのだろうか。


 冒険者ギルドに戻って猫耳職員ことミラに聞いてみた。


「え、なにそれ。聞いたこともないけど。公用語以外にあるの。竜と喋れたりするってことかな。ファンタジーな妄想は頭の中だけにしてくださいよ」

 俺にとってはミラの存在そのものがファンタジーなんだけど。

「じゃあ、別にその辺にいる猫に使ってもいいということですか」

「構いませんけど、虐待にならないよう気をつけてください。我々、猫族たちの目がありますからね」

「わかりました」

 街での実験は難しいので、やはり森に行くしかないのか。

 

 俺は薬草採取の依頼を請けて、準備をしてから街を出た。特に戦闘力が上がったわけではないが、おそらく『接着』で対処できるはずだ。毒や呪いを使う相手なら、むしろ好都合で、飛びかかってくる魔物が一番対応できない。


「能力を下げるようなデバフとも違うし、毒と呪いの専門家みたいなものだろうか」

 俺は自分が変な冒険者になってしまったことを自覚した。とにかく戦闘向きではないことは確かだ。


 向いていないと自覚した途端に、向いていないことに出くわすのが世の常だ。狼に襲われている冒険者たちがいた。

「逃げろ! ダイアウルフだ」

 そう言って盾を持った戦士が逃げ出し、魔法使いも盗賊も森から飛び出して街道に向かって走っていた。どう考えても通常サイズの狼だと思うが、恐怖心が肥大化した彼らには大型の魔物に見えるらしい。

 俺はその道の真ん中に古代魔法『接着』を使って即席トラップを作る。

前足を捉えられた狼はのたうち回りながら、全身を地面に固定されていた。人を襲っていたため、害獣だろう。


「悪いけど、実験に付き合ってくれ」

 俺は古代魔法「翻訳」を狼と自分に使ってみた。


「離せ! なんだ!?」

「おおっ! 聞こえる」

 動物でも言葉を理解できるのが面白い。

「俺の言っていることがわかるか」

 そう言うと、狼はあっけにとられたように舌を出してこちらを見上げていた。


「わかるんだな。冒険者たちは逃げていってしまった。それより、どうして冒険者なんか襲ったんだい。もしや縄張りにでも侵入されたか。それとも、狩りの邪魔をされたかな」

「それ! その通り!」

 言葉はほとんど単語だけだが、理解はできるらしい。

 もしかしたら魔王は「翻訳」を使って指示を出していたんじゃないか。

「サンドイッチ食うか」

 俺はサンドイッチを出して玉ねぎを除けて、狼の口に放り込んでやった。

「うまっ!」

「それならよかった」

「もっとくれ」

「もう、ない」

「なんだ……。いい加減、この魔法を解いてくれないか」

「俺を食う気だろ?」

「その通り。肉を食わせろ」

「ダメだ。俺は今から水辺の近くの薬草を取りに行く。大人しくしていろ。帰りがけに解いてやるよ」

「ちょっと待て!」

 俺が森の中に入ろうとしたら止められた。


「このまま置いていくな! 食われる!」

 自然の摂理はいつだって弱肉強食だ。こんなところで仰向けで転がっている狼なんか熊にでも食われてしまう。

「でも、解いたら俺を食うだろ?」

「食わない」

 俺は古代魔法「鑑定」で真偽を判定した。結果は嘘だ。狼は嘘も付けるのか。

「本当かどうか、ぐらいわかるんだぞ」

「くそっ。食いたいけど、食わない。今日だけ見逃してやる。明日には覚えてないからな」

「わかった」

 俺は「接着」を解いてやった。


「薬草はこっちだ」

 狼は森に入るなり、勝手に案内してくれる。

「川の方じゃないのか」

「そっちはバカ向けの薬草」

 自然の中にもバカが居るのか。俺はバカ向けの薬草群生地しか知らないよ。


 狼について行ってみると、確かに薬草の群生地が現れた。

「地面の下に大昔の魔物が埋まってるから育ちがいい。俺にもくれ」

「世代を越えた記憶もあるのか。すごいな」

 俺は薬草を慎重に袋に入れて、狼にも一掴みくらいの薬草を咥えさせた。

「誰か病気なのか」

「親が呪われてる」

「呪いにこの薬草は効かない。俺が診てやろうか」

「できるのか」

 ものすごく疑われて、心外だ。


「どこにいる? 連れてってみろ」

「本当か……」

 訝しげに何度も振り返りながらも、連れて行ってくれるらしい。俺もついて行ったが、狼の行動範囲を舐めすぎていた。崖を越えて、普通にリグモアのいる教会を通り過ぎて、さらに遺跡の逆方向へと3時間くらい歩いたと思う。今日の内に帰れるかどうかわからないと思いながら、ついて行くとちゃんと巨岩の下に雨をしのげる場所があった。

 そこが狼たちの巣で、俺を見た途端、狼の群れが取り囲んできた。俺を連れてきた狼はめちゃくちゃ吠えられているが、全く相手にせず、まっすぐ老いた狼へ向かっていく。とりあえず、後についていけば食われないらしい。


 老いた狼は、足が動かないらしく、立ち上がらないもののこちらを見て唸り声を上げている。老化かとも思ったが、「清掃」で呪いを解いてやると、今目覚めたように周囲を見回していた。

 古代魔法「翻訳」を使って会話を試みたが、驚くばかりで何も言えないらしい。


「とりあえず、その咥えている薬草を足に巻いてやろう。人間は器用だろ」

 老いた狼の足にペースト状になった薬草を塗り、布の切れ端を巻いてやった。俺の手をペロペロと舐めてきたのを見て、他の狼たちも俺に敵意を向けるのをやめていた。

 すっかり夕暮れだ。


「こんなに遠いと思わなかった」

「人間は器用だけど、足が遅い」

「とりあえず、途中の遺跡か教会まで連れて行ってもらえるか」

「腹が減るだろ」

「このやろ」

 俺を連れてきた狼には断られたが、狼の群れが暗いなか、案内してくれてどうにかこうにか教会まで辿り着いた。

 道に出たところで、狼たちとは分かれた。


「すみません。リグモアさん!」

 教会の扉をノックすると、寝間着姿のリグモアが現れた。


「なに? セイチさん、街で死んだの?」

「いや、狼の呪いを解いていたら帰れなくなっちゃって、悪いんですけど寝床を貸してください」

「いいですよ。自分の部屋を使って」

 俺が出ていったときのままらしい。

「ポテト食べますか」

「いただきます」

「また、なんの古代魔法の調査をしていたんです?」

「古代魔法『翻訳』です。動物とも話せるんですよ。他種族とコミュニケーションが取れるってすごくないですか。たぶん、これで魔王は魔王軍を作ったんじゃないかと……」

 夜更けに教会で、眠そうな僧侶相手に古代魔法について説明をした。師匠には迷惑をかける。


自作小説を今までAmazonのKindleで出していましたが、楽天のkoboでも出し始めました。よかったら検索してみてください。

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