8.アルキアスの客人たち(1)
「おはようございます」との、張りのある声で目を覚ました。陽介は呻きながら半身を起こし、声の方を見た。隣で少女が正座している。
「ああ、おはよう」と陽介は答え、顔をしかめた。頭痛と吐き気が酷い。二日酔いだ。
よろけながらも、なんとか立ちあがり、時計を確認する。
「なんだ、まだ七時じゃないか」二日酔いと寝起きのダブルパンチで、陽介はまだ夢の中に近い状態であったが、さすがにハッとする。「誰だっ!」
「シグゥアと申します。メーコ様の親衛隊、コルトの隊長を務めております」
少女は機敏に立ちあがり、ハキハキといった。澄んだ声ではあるが、二日酔いの脳みそにはズキリと響く。
「すまん……もうちょっと静かにいってくれないか」
「シグゥアと申します。メーコ様の親衛隊、コルトの隊長を務めております」
少女は要望どおりに小声でいいなおす。陽介は再度その言葉を理解しようと試みたが、脳が痺れて動かない。それどころか視界が遠くなってきた。立ち眩みだろうと、慌てて座り、数分ほど呆けた。やがて、テーブルにあったタバコが目に入る。ゆっくりと一本を吸い終えて、やっと頭が冴えてきた。
「で、君だれ?」
「シグゥアと申します。メーコ様の親衛隊、コルトの隊長を務めております」
三度目となるセリフを聞きながら、陽介はじっくりとシグゥアと名乗る少女を見た。癖のない黒髪のショートカットで、日本人形のように前髪を綺麗にそろえている。そして、美しい切れ長の眼に、すらりと整った顔立ち。今はまだ十代前半の幼さが滲んでいるが、大人になるとそうとうな美人になるであろう。
見た目だけで判断すると、中学生だった芽衣子の同級生なのだが、服装は異世界のそれだ。赤いジャケットに白いスラックス、二〇歳の芽衣子もその姿で家に帰り、イコウルの軍服だといった。
「今度は……従者もいるのか」そうボヤキながら、横になった。二日酔いで頭痛が酷く、さらに眠くてたまらないのだ。
「少しお待ち下さい。メーコ様を呼んでまいります」少女は人差し指を立てて、額の前で文字を書くように動かした。
十字をきるようにも見えたが、シグゥアが軍人であることを加味すると、アルキアス式の敬礼なのだろうか。そんな想像をしながらもすぐに眠気が押しよせてきた。
芽衣子に背中を蹴られて、ハッとする。少し眠っていたようだ。
頭痛に耐えながらも、ゆっくりと半身を起こして胡座をかき、芽衣子を見上げた。右には、すでに顔を合わせているシグゥアが凛と立ち、左には白髪の少女がいた。
「芽衣子、いろいろと聞きたいことがある」
「わかってる。まずは説明するわ」
「ああ」と、頷いた。
「一円玉をアルキアスに持って……」と芽衣子が話し始め…………
また芽衣子に蹴られて、顔をあげる。
「聞いてた? ていうか、寝てたでしょ?」
「いや、寝てない」と返したが、たぶん寝てしまったのだろう。
すまんと、頭を下げ………………てから、勢いよく顔をあげた。
一瞬、寝てしまったかと思ったが、どうしてだろう、凄く気分がいい。力もみなぎってきて、陽介は機敏に立ちあがった。
「ん? 元気になった?」芽衣子は小気味良く首をかしげた。
「ああ。ひょっとして、これも魔法か?」
「そうよ」
「なんだ、なんだ。こんな便利な魔法があるなら、先にやってくれよ」
陽介が不満げにいうと、芽衣子は肩をすくめた。
「じゃあ、あれからのことを説明するわね」
「それよりも」陽介はいいながら、シグゥアと白髪の少女を交互に見た。
「そうね。先に二人を紹介しておくわ」芽衣子はシグゥアの肩に手をおく。「この子は、シグゥア。私の親衛隊コルトの隊長よ」
「それは、さっき聞いた!」といって、陽介はわざとらしく咳き込んだ。
元気がありあまって、どうにも声が大きくなってしまうのだ。陽介はシグゥアを見やり、なるべく優しい声で、「いくつ?」と訊く。
だが、答えたのは芽衣子だ。
「一三だから、一週間前の私と同じ歳ね、ヨースケ的には」
呼び捨てにするな! そう怒鳴ってやりたいところだが、舌打ちだけで我慢して白髪の少女をみた。赤い軍服ではなく、白いドレスを着ている。
「お嬢さんは、どなた?」
「初めまして。ミオリ・イコウル・リセイシェ・アーハム・ララ・ヤートです」
長い……。
「なんて、呼べば?」
「ミオリでけっこうですよぉ」うふふ、と声を漏らしながら、ミオリは微笑んだ。
白い髪、白すぎる肌、赤い瞳のミオリは、人間ばなれした見た目だった。それでも、不快さや不気味さは一切ない。丸くて大きな透き通った瞳に、小ぶりだが形のいい鼻と、同じく小ぶりなピンクの唇が、丸い顔に正しく配置されている。まるでアニメキャラが、画面から飛び出てきたかのようだ。
「ミオリさんは、いくつ? シグゥアさんと、同じくらい?」
「つい数日前に、二〇になりましたのよ、お兄さまぁ」ミオリは頬に両手を当て、首を傾ける。幼女のような可愛い仕草だ。
「ハタチ……」陽介はゴクリとつばを呑む。「ずっと若くは見えるけど……未成年ではないのか……」
「未成年じゃないからって、なに?」芽衣子が険のある声でいった。




