51.魔女と呼ばれた女の覚悟(3)
「古代魔法を使えば、子供たちが道連れになる。そういうことか?」陽介がいった。
「そうです。あまりにも非人道的な作戦なのでまだ公にはなっていませんが、いよいよメーコ様が古代魔法を……となれば、その動きを封じるために公表されるでしょう」
芽衣子はいまだに、言葉を失っているようだ。無理もない、と陽介は心中でつぶやいてから口を開く。
「パインの破壊が困難なのはわかった。だからといって、アンタのやろうとしていることが、危険だということに変わりない」
「なにが危険なのか、具体的におっしゃってもらいましょうか」
「まずは、アンタが裏切る可能性だ。その一円玉でパインを造り、奇襲攻撃でイコウルを滅ぼすことに成功したら、世界はアンタのものだ」
「自分の利益を優先しないのはもちろん、どの国にも中立で、イコウルも含めた全てのアルキアスの民の平和のために尽力することを、私、妻、娘の名において創造神ララマナに誓おう。陽介君にはピンとこないだろうが、神に誓った以上は反古することはタブーだ。とくに妻は元巫女で、娘は見習い巫女だった。巫女の名も使った以上は、嘘偽りはない。この件に関しては、メーコ様も私を疑うことはないだろう」
神に誓う意味については、ミオリも似たようなことをいっていた。
「じゃあ、次だ」
「なんでしょう」
「核レベルの兵器を扱うには、アルキアスには早すぎる。地球の核だって降ってわいたものではない。多くの戦争や革命を経験しながら科学が進化し、それにともない国家や政治、人権、社会、文化が発展した。その発展の中で、核も生まれたんだ。シグゥアを例にとると、アルキアスはまだ奴隷が存在するような世界だ。そんな未成熟な世界で、核の抑止力を実現させるのは困難だ」
「たしかに、アルキアスでは専制君主国家が多く、地球でいうところの中世に近い。未成熟といわれてもしかたないでしょう。だが、核の抑止力を実現するのに成熟度は関係ない。二対二の同盟国での報復条約さえあればいいのです」
「だから、そんな未熟な世界で、報復条約なんてものが反古されずに効力を発揮できるとは、とうてい思えないと俺はいってるんだ。日本人ですらアメリカをそこまでは信じていないぞ。アメリカは、自身も共倒れになるくらいなら、日本に核弾頭が落ちても、報復などしない。自分たちが犠牲になるくらいなら、日本など見殺しだ。そう、多くの日本人が思っている。俺も同意見だ」
「実は私も同意見です。だから地球の核の抑止力は、バカな国、バカな指導者によって崩される可能性がある。その点、アルキアスのほうがよっぽど、抑止力の効果を発揮させるのが簡単だ。地球にはキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教、神道、アニミズム、多くの信仰が存在するが、アルキアスの信仰は一つ。私が先ほど神に誓ったように、国家自体にもそうさせることは可能だ。一度神に誓ってしまえば、アルキアスでは反故が許されない絶対的な条約となり、抑止力の効果が発揮される。さらにもう一点、アルキアスが有利なところをいっておこう。地球ではテロリストが核を持つ可能性がある。だが、アルキアスではその可能性は皆無。地球のプルトニウムと違って、アルキアスでのアルミニウムは地球から持ち込む以外に増えることはない」
「成熟度にかかわらず、アルキアスが有利なのはわかった。それでも、失敗するリスクがある。もし失敗したらどうする気だ? アルキアスが人口が何人か知らないが、アンタの命でそれを全て背負えるわけないだろ!」
「アルキアスはとっくに、一国のみがパイントルタを持つ危険な状態だ。すでに私の国で悲劇も起きている。失敗のリスクに怯え、指をくわえて次の悲劇を待つわけにはいかない。私は妻と娘を失い、二人の墓の前で誓った。イコウルへの復讐などではない。アルキアスに平和をもたらす、そう約束したのだ。だから私は命を懸けて、成功させる所存だ! それに、『抑止力』は今考えうるものでは、最も成功の可能性が高い!」
「しかしだな……」
「どうしても反対するというなら、代替案でも出していただきましょう!」
ジンは今まで見せたことのない厳しい口調でいった。
陽介はジンから視線を外し、芽衣子を見た。うつむいたまま、動く気配がない。
正直、陽介にとってはアルキアスがどうなろうと、知ったことではない。芽衣子が無事ですむというのなら、ジンの作戦の内容なんかはどうでもよく、手放しで賛成なのだ。
それでもジンと口論したのは、ジンの作戦の可能性や想いを語らせるためだ。つまり、芽衣子に聞かせてやるためだった。
「なにもないようであれば、私は行きます」
ジンは本殿に向かって歩きだす。すれ違いざまに、「ありがとう」とボソリ。どうやら、陽介の意図はわかっていたようだ。
あと数歩で本殿というところで、芽衣子が泣き崩れた。
「それでもそれでも、あんな悪魔の兵器を残すわけにはいかない! なのに増やすなんて、なに考えてんのよ!」ヒステリックに叫ぶ。
ジンはふり向いたが、何もいわなかった。芽衣子の金切り声がさらに続く。
「わかりました、わかりました! やればいーんでしょ! 私は四〇〇〇万ものヒトを殺して魔女といわれた女よ! 私の悪行の中に、今さら子供が数人増えたからってなんだっていうのよ! 人質がいくらいようとも、パイントルタもろともぶっ殺してやるわっ!」
「メーコ様……」ジンは首をふった。
「そうよ、そうだわ! 『エンゾの結び』でどうせ私はなくなっちゃうんだから、傷つくことも落ち込むこともない! 好都合じゃない!? あはははは!」
陽介はたまらず、芽衣子のもとにいって抱きしめた。
芽衣子も陽介の身体へしがみつき、大きな声でオンオンと泣きだした。




