39.アルキアスの刺客(2)
「どういうことだ!」
「だから、それはですねぇ。エンゾの結びが、アユルの緩和によって……」
再び謎な単語の羅列に戻ると思いきや、ミオリは赤い目を開いたまま固まった。
「よかった……。彼女にも私の三本目のツノが効いたみたい」
安堵の息を吐きながらいった鬼塚の額には、三本のツノが生えていた。だが、巨大化はしていないし皮膚の色も変わっていない。本人はヒトではないと宣言しているが、ツノなど仮装ですむ範囲なので、ヒトの姿だといっても過言ではなかった。
「おお、ヒトを操作するツノか!」
「ええ」と鬼塚が頷くのと、ミオリが「にゃー」と叫びながら頭を乱雑にふり回すのは同時のことだった。
「びっくりですぅ! ヒトを操作する力ですか? 魔法とは別の種類の力ですね。巫女に流れる天女の血がなかったら、危なかったですぅ!」
正気を取り戻したミオリは、何かをつぶやいて腕をふる。ミオリを中心に直径五メートルほどの光の円柱が立ちあがった。
「シグゥアちゃんがいないから、自分の身は自分で守らなきゃですぅ」
ミオリのセリフから察するには、その円柱は防護壁なのだろう。
陽介は鬼塚を見た。トーキをたゆらせながら、相手の出方を伺っているようだ。
どうすればいいのだ……。
陽介は困惑していた。ミオリが刺客だなんて未だに信じられず、戦うという決断にはいたれない。かといって、話し合いで解決させる自信もない。
「メーコ様ふうにいえば、私に時間与えすぎですよぉ」
ミオリの言葉で陽介は昨晩の光景を思いだし、背筋が凍りついた。それでも、とっさに、「横に跳べ!」と叫び、陽介も鬼塚もすんでのところで光の柱を回避できたのは、奇跡といってよかった。
「あっ! 逃げられましたぁ」ミオリは悔しそうにいう。
「佐藤君、覚悟を決めて!」鬼塚は声を張りあげながら突進、光の防護壁と激突した。
光とトーキがせめぎ合う。虹のような多色の光を放ちながら、甲高い音が陽介の頬にヒリヒリと突き刺さる。それが数秒続いてから、鬼塚は退くように後方に跳んだ。
「戦う覚悟は決まった?」鬼塚がふり返る。
「覚悟もなにも……、俺は無力で、戦うのは……」
「そういう話ではないわ! 私は覚悟したわよ。ミオリさんは命の恩人で、佐藤君の仲間だけど……殺す。全力ならば、あの光の壁は超えられる」
鬼塚のトーキの色が赤黒くなり、煙から液体のような濃厚な重さが加わった。
「それは……」陽介は思案しかけたが、『時間与えすぎ』とのセリフを二度も聞くわけにはいかない。
「鬼塚主任の命がかかっているのだから、覚悟します!」陽介は決断した。
「ええ、私も同じよ。佐藤君の命がかかっている」
鬼塚はそういってミオリに向かって走ったが、急ブレーキで止まり、悲壮な顔でこちらを見あげる。
逆に陽介は鬼塚を見下ろしながら、「どうして、鬼塚主任が下に」とつぶやきつつも、自身が数メートル上に浮かんでいることに気がつく。
「風の魔法ですぅ。光の魔法は少し時間がかかりますが、これぐらいなら、ちょちょいのちょいですよぉ」
「佐藤君をどうするつもり!」
「このまま、ねじって殺しますよぉ。それなら一瞬でできますぅ」
ミオリがいってすぐに、全身を捻るような圧力がかかる。雑巾でも絞るようにして、殺されるのだろうか?
「待って! 条件をいって!」鬼塚がいった。
「はーい。トーキがあると殺せないから、トーキを抑えてくださーい」
「私が死んだあと、佐藤君は助かるという保証はあるの?」
「へ? 鬼塚さんの次はお兄様も殺しますよ」
「そんなの交換条件として成立するわけないでしょ! どのみち佐藤君が殺されるというのなら、佐藤君が殺されるより先に、あなたの首を引きちぎるほうに賭ける! もしそれが、間に合わなかったとしても、報復としてあなたを殺す。佐藤君はあなたの命綱であることも、自覚しなさい!」
「え!? あ、うーん、お兄様にも鬼塚さんにも、死んで頂きたいのですが……。でもまあ、メーコ様さえ死ねば、別にお兄様を殺す必要はないから……うーん」
ミオリは頬に手をあて、考え込むような表情になった。
「なぜ、芽衣子まで? 芽衣子を守るために鬼塚主任を殺そうとしてるんじゃないのか!」
陽介は言葉は叫びに近かった。




