31.いにしえの魔法(3)
ミオリはロボットのように立ちあがり、芽衣子に詰めよる。
「空間に澱みがある! メーコ様、古代魔法を使いましたね!」
「しかたないじゃん。そうしなきゃ、全員死んでたよ」
芽衣子はそうたしなめたが、ミオリは納得せずにわめき散らし、最後には泣きながら、「裏切り者」と芽衣子を罵った。
「裏切り者って……どういうコトだ?」
陽介はジンを見る。ジンは少し考えるような表情をしてから、「さあ」と首を傾げた。
ジンの仕草に違和感を覚えた陽介だが、それよりも重要な質問があった。陽介はミオリの前に立ち、労いの言葉を並べたあとに、訊ねる。
「ミオリさん。泣いているところ悪いのだが、教えて欲しい。古代魔法の代償で失った芽衣子の小指を、俺の指を使って復活させることってできるか?」
「いらないって、いってるでしょ!」芽衣子が怒鳴り、「できるに決まってます!」と、ミオリはそれ以上の勢いでいった。
満足な回答が得られて、ほっと胸を撫でおろした陽介だが、それを実践するには芽衣子の説得が難点であることも覚悟した。
「ミオリさん。古代魔法のことで、あと何個か訊きたいことがあるのだが」
ミオリは未だに興奮おさまらないようすで、「なんですかっ!」
質問は主に二つある。なぜ、芽衣子だけが使えるのか? なぜ、身体を削るのか? だが、それを質問する前に、軽い質問で乱れたミオリの心を整えようと考えた。
「古代魔法を打つ直前に芽衣子がいってたんだけど、『オーガム』ってどういう意味? 呪文の一部?」陽介が訊くと、ミオリは目を見開き、ふるふる震えだす。「あれ? へんなこといった? 『オーガム』だよ。『オーガム』」
「ふぇーん!」と残して、ミオリは逃げるように走り去った。
「なんだ?」陽介は芽衣子を見る。
「さてさて、なんでしょう」意味ありげに芽衣子がニヤリとした。
「『オーガム』は、古代魔法の呪文の一部じゃないのか?」次に陽介はジンを見た。
「違います」
「『オーガム』がミオリさんの魔法で翻訳できなかったということは、日本語変換不可能な魔法関連の単語だと思ったのだが……」
「ミオリ様が翻訳を放棄したスラングです」
「結局、オーガムってどういう意味だ?」
「えーと、日本語では適当なものは見当たらないですね……。ああ、英語のほうがわかりやすいや。Fuck you。それをさらに、性的な侮辱に特化したようなものでしょうか」
「なるほど。神聖な巫女が耳にする言葉ではない、ということだな」いいながら、陽介は別のことを考えていた。
ドウゼンが造ったこのセピア色の世界からは、いつ解放されるのだろう……。
セピア色の世界から解放されたのは、一時間後だった。いっせいにセピア色の景色が剥がれるように落ちていき、色と音のある世界に戻った。
「鬼塚主任は? 姿がないようだが……」ぐるりと辺りを見渡し、陽介はいった。
「治癒の光もなくなっているので、既に完治してますよぉ」
やっと落ち着いたミオリが、いつもの調子で答える。
「そうか。ありがとう」陽介はスマホをだし、鬼塚に電話をかけた。
電源が入っていないというメッセージだが、スマホが大破した可能性も高い。
「とりあえず、家に帰りましょう。もうすぐ日が変わりますし、タクシーで」ジンがいった。
先発で、芽衣子、ミオリ、ジンがタクシーに乗り込んだ。陽介はまだ意識が戻らないシグゥアを背負い、次のタクシーで帰路についた。
家に着いたのは、深夜一時を過ぎていた。シグゥアはまだ目覚める気配がない。ミオリはタクシーの中で眠ったということで、芽衣子が二人を魔法で浮かせて、二階にあがった。
「私も、そろそろ休みます。陽介君は?」ジンがいった。
「シャワーを浴びてから、俺も休むよ」陽介は答え、風呂場に向かった。
さっとシャワーを浴び、二階の自室に入る。鬼塚美姫がベッドに腰を降ろしていた。




