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28.セピア色の決戦(4)

一時は光に包まれてほとんど姿が見えなかったシドマルとベニマルだが、すぐにトーキの勢力が増し、赤い煙が光の滝を押し返しだした。やがて光は勢いを弱めて雨に代わり、それも止んだ。


ベニマルはところどころ切り傷があったが、シドマルにいたっては無傷に見えた。


「これで終わりか」ベニマルが一歩、足を踏みだす。


その刹那、先ほどの光の矢より数倍大きい槍が飛んだ。ドウゼンを貫いた光の槍だ。ベニマルは腕を突きだし、手のひらを広げて、トーキが沸きあがらせる。そこに槍が食い込んだ。


「いけ!」陽介は願いを込めていったが、期待は薄かった。


滝のような大量の光でさえ、トーキに軍配があがったのだ。槍などすぐトーキに飲み込まれると覚悟していたが、トーキと押し合う光の槍をシグゥアがつかんだ。


陽介がそれを認識して、あっ、と声を上げたときには、すでにシグゥアが槍を幾度もふり終え、一〇を越える光の太刀筋がうっすら残っていた。


それでも怯まず、ベニマルが反撃の拳をふり下ろす。シグゥアはひらりと後方に舞い、ベニマルの額に槍を投げつけてから、元いた場所に着地した。


シグゥアとミオリの見事な連携プレーだったが、成果は乏しいようだ。


ベニマルの身体には、肩口と首に血が滲む程度の切り傷しかない。最後に投げつけた槍もトーキに侵食され、ベニマルには届かなかった。


「やるでねーか! おめーら、気に入ったぞ!」ベニマルが歓喜の雄叫びをあげると、光の滝でずいぶん減っていたトーキが復活した。


「手伝おうか?」シドマルがからかうようにいった。


「兄じゃは手をだすな」ベニマルはミオリを見ながら続ける。「おい、白いの。そんな弱い光じゃだめだ、もっと強いのはないのか? あと、小っこいのに、もっと強い武器を与えてやれ」


「ミオリ様。新しい武器をいただけますか?」


シグゥアは低くかまえたままいったが、ミオリにはまったく届いていなかった。キッーと叫び、地団駄を踏んでいる。


「弱い光ですって! その暴言、許しませんわ!」


「許さんでいい。だから、強いのだせ。待っててやる」


ミオリは、また奇声をあげてから、眼を閉じて呪文めいたものを唱えだす。一〇秒も待てずに「まだか」とベニマルが急かした。


「あと三分は待ちなさい! そっちが、待つっていったんでしょ!」芽衣子が声を荒げた。「だいたいねー、この魔法を三分で起動できるなんてミオリくらいなんだからね!」


「わかった」とベニマルは素直に頷いた。


「まったく、遊びが過ぎるぜ」シドマルは肩をすくめる。


芽衣子は三分と啖呵を切っていたが、二分ほどでミオリがいった。


「お待たせしました」


赤い眼を開き、祈るように重ねた手のひらを広げる。その中にはビー玉ほどの光の玉があった。


言葉の意味はわからないが、「リラーム」と、ミオリが声を発する。ビー玉がふっと消えた直後に前方が光で埋め尽くされた。


眩しくて陽介は手で庇をつくったが、そんな事では全然間に合わず、ついには眼を強く閉じた。


「これはいったい……」


「テッペイさんとやらを消し去った光の柱があったでしょ」見えないがジンの声だった。「その最上位版です。直径一〇〇メートルぐらいありますから、この距離でみたら一面光で、何が何だかわかりません」


「この光はいつまで?」


「三〇、秒、ほど、ですぅ」ミオリは息を切らしながら答えた。さすがに疲労があるのだろう。「その、ころには、全てが、終わって……いますぅ」


ずいぶんと光が弱まってきたようだ。陽介はうっすら目を開けた。


えらそうに腕を組んでいる芽衣子の後ろ姿が見えた。横を見ると、眩しそうに薄目のジンがいる。ふり返ると、ミオリも薄目だった。だがミオリの場合は、瞼が重くて眠そうなのだ。


「ミオリさん、ご苦労様」


「はーい」ふらふらと揺れながら、ミオリは手をあげた。


「シグゥアさん」次に陽介はシグゥアに声をかける。


シグゥアは臨戦態勢のままだ。陽介は、ご苦労様との言葉を呑み込んだ。


薄くなった光の中に、二つの影が浮かぶ。やがて、光は消え、シドマルとベニマルの姿をはっきり確認できた。


「やってくれるぜ。久しぶりに本気になった。なあ、ベニマル」


シドマルはジーパンのポケットに手を入れたままいった。身体を纏うトーキは赤黒く、煙から密度を増して液体のように濃く流れていた。


「そうだな、兄じゃ」と応じたベニマルは、肉体に損傷こそないが疲労した様子だ。鎮火寸前の煙のようなトーキは桃色で、ところどころに白い箇所が目立つ。


「まさか、これを耐えるのか……」


ジンは驚愕の表情を見せた。陽介としても同じ思いだ。


「でっかいのは、まるで食べ終わったスイカみたいね」芽衣子がベニマルを指差す。


確かにベニマルのトーキはそんな状態ではあったが、悠長に挑発をしている場合か!


陽介はそう苦言を発しかけたが、ベニマルの首をシグゥアの蒼く光る手刀が貫く姿を目にして息を呑み込んだ。


さらに、シグゥアは体ごと回転して腕をふり切る。ベニマルの首がゴトリと地に落ちた。


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