26.セピア色の決戦(2)
「なにがどうなったんだ?」陽介はジンを見た。
「ミオリ様の光魔法で消え去りました」
「ミオリさんに時間を与えすぎ、とは?」
「魔法の起動には時間がかかります。魔人との戦いでは、いかに巫女様や魔道士の魔法起動時間を稼ぐか……それが鍵となります。騎士や戦士が壁となって魔人に立ちはだかり、命を散らしました。だけど、ミルティストであるミオリ様は、強力な魔法を短時間で起動するので、魔人目線でいうと、それこそ時間との闘いでしょうね。時間を使いすぎると、先の彼のようになる」
「そうか……。ミオリさんは凄いな。それだと、ミオリさんを守る人員も少なくてすむな」
「逆ですよ。ミオリ様はイコウル帝国の至宝です。万が一のことがあってはならない。それこそ名高い騎士たちに囲まれ、数も一般的な巫女様に比べて一〇倍以上でしたよ」
「だったら、無敵じゃないか」
「ただし、最前線で王家の血を持つ魔人の軍団と対峙していました。不敗や不死身と恐れられる最強の魔人たちです」
「そうか……」陽介はセピア色の月を見上げた。
ミオリはそんな過酷な世界を生きたのか。そして、芽衣子も……。
物思いにふけていた陽介だが、芽衣子の張りのある声で現実に戻った。
「だーかーら、ミオリ相手に、時間与えすぎ」
芽衣子がいい終えると同時に、ドウゼンは光の柱の中に包まれる。
その光柱の横に男が現れたのは、予兆もなくいきなりのことだった。男は一般的な成人男性のサイズで、二〇歳そこそこの青年にみえた。
男が腕をふる。腕から赤黒い煙のようなものが放たれ、ミオリの光を侵食するように相殺していった。虫食い部分が大半となり、光柱からドウゼンが現れ、崩れ落ちた。
だが、すぐに勇ましく立ちあがり、咆哮しながら、まとわりつく塵のようになっていた光の残滓を蹴散らした。確証などないが、陽介の判断ではドウゼンにダメージはないようだ。
ドウゼンはすぐさま、男の前に膝と拳を突き、頭を地面スレスレまで落とす。
「援軍を呼びましたが、まさか、シドマル閣下が! 申し訳ありません。このドウゼン、不徳の……」
「そういうのは、いい」シドマル閣下と呼ばれた男が、ドウゼンの言葉を遮る。
シドマルはドウゼンよりもずっと小さいが、悠然とした態度で、王者の風格すら感じた。
シドマルの隣に、さらに巨体が現れた。
「ベニマル閣下!」ドウゼンが頭を下げたまま声を張る。
ベニマルと呼ばれた巨人はドウゼンと同程度の巨躯にもかかわらず、ひどく幼い顔で、幼児を何倍も大きくしたかのようだった。
陽介は、テッペイとドウゼンが二回り巨大化したことを思いだし、ベニマルが巨大化したらどうなるのだとゾッとした。
「それより、テッペイはどうした」シドマルがいった。
若干の沈黙のあと、「死んだと思われます」とドウゼンは答える。
「テッペイが死んだ? 兄じゃ、一体なにが……」
ベニマルは少年のように高く幼い声でいって、つぶらな瞳をシドマルに向ける。
「さあな」シドマルは肩をすくめた。
「ベニマル閣下。申し訳ありません。私がついていながら、閣下の部下を……」
ドウゼンが恐縮した声でいうなか、芽衣子が割り込んだ。「三度目よ、時間与えすぎ!」
地面から炎が噴きあがる。
炎は公園の半分を呑み込む規模で、刺客の三人はその中に消えた。陽介は唖然としながらも、まるで小山のように立ちのぼる炎を眺めた。
それは、小さな炎たちが集まった群体のようにも見えた。いたるところで、生きているかのように蠢き、中には踊っているように見えるモノもある。
「すごいな……」
「炎の精霊魔法なんかじゃない。精霊自体を召喚したのです」ジンが炎の山を指差す。「ほら、見てください。大量の火の精霊たちです。地球ではサラマンダーと呼ばれているのでしたっけ? アルキアス全土でも、こんなことができるのはミオリ様ぐらいです」
「なるほど……」陽介はミオリを見た。
緊張感のない表情でミオリは首を傾け、ややあってから陽介に向けて微笑んだ。陽介も笑みで返し、ほっと息をつく。どうやら、刺客は撃退したようだ。
「ところで、陽介君」ジンが考える仕草をした。
「なんだ」
「さっきの鬼のような奴らは……いったいナニモノなんでしょうね。何か知ってます?」
「イコウル帝国の刺客じゃねえのかよ!」と、陽介は叫ぶ。




